どうすればいいんですか?
藤泉都理
どうすればいいんですか?
発見百五十周年記念企画により、二面を要して打ち出されたメンデレーエフ周期律の全面広告。
これを未だに自分の部屋に飾っているのは、何も元素に興味があったわけではなく、デザインがワクワクドキドキして素敵で好きだったからだ。
余白と文字と絵と色合いの配合が、めちゃくちゃ好みだったからだ。
もう一度言おう。
元素に興味はない。
すいへーりーべーぼくのふね、なあまがあるしっぷすくらあくかっか。
学生時代に覚えさせられた元素周期表。
水素、ヘリウムまでは何とか覚えている。
けれど、りーって何だっけ。
りんごか、りんごって、元素なのか。
そんなレベルなのだ。
そんな頭よわよわ野郎が。
「こんな十年前の広告を後生大事にを持っていたんだ。おまえも陰謀論者だろう。さっさと吐け。この地で何をしようとしている!?」
(そんなわけないでしょうが!?)
いえいえいえ、陰謀なんて知りません。
陰謀なんて、頭の出来がいい方しかできません。
私、陰謀できるほどの頭を持ち合わせていません。
ぱっぱらぱーでございます。
学生時代の成績表を見せましょうかひどいもんですよ。
そう否定しても、聞く耳を持ってくれません。
この広告が何よりの証拠だと言って聞きません。
(えー。一寸先は闇って言うけどねー)
玄関が騒がしいと思ったら、階段をけたたましく駆け上がる音がして、気が付けば、迷彩柄の服を着た覆面の方たちに、ぐるり、囲まれておりました。
なんて状況。歴史か、海外でしか起こりえないと思っておりました。
しかも、え?何?数年前の新聞広告を持っていただけで、陰謀論者にされるの?
元素記号だから元素記号ってそんな危険視されてんの?
こわいこわいこわいちょうこわい。
そんで、頭に噓発見器を付けられて、これから尋ねる事に正直に答えろって言われて、意味不明な単語を聞かされて知っているかって尋ねられたから、知らないって否定してんのに、ピーピーピーピー、嘘発見器が鳴りまくるもんだから、陰謀論者に加えて、嘘呼ばわりまでされた。
嘘なんてついてないわいその嘘発見器壊れてんぞ。
心中で叫べば、音が大きくなりおった。
そんで、陰謀論者確定にされおった。
両親が必死に止める中、黒光りの車に乗せられおった。
こわいこわいこわいちょうこわい。
一寸先は闇ってレベルじゃないでしょう。
え?何?これからどーなんの?牢屋に連れ込まれんの?尋問所に連れて行かれて拷問されるわけ?殴られて、蹴られて、切りつけられて、抉られるわけ?
こわいこわいこわいこわいちょうこわいですけど。
「へあ?」
ここは天国きっと天国絶対天国。
だって、純白だものピカピカだものきれいだものいい匂いするものみんなにこにこ笑っているもの。
あ、もしかして死んだ?車で殺された?だから天国にいるの?
「拷問も強迫も脅迫も禁止されているからな。破れば俺たちは。ここに務めているAIロボットは即、廃棄処分ってわけだ」
「………はあ」
「ま。もしかしたら、ここが一番、金をかけられて、不自由のない贅沢な暮らしを過ごせるかもしれないな」
「………はあ」
「だから犯罪者は、再犯者になって、ここに舞い戻ってくんのかもな」
「………はあ」
「………おまえ、本当に。いや。まあ。あれだ。心身に傷を付ける事は絶対ないから安心して罪を認めろよ。死刑も禁止されているしな。もしも。もしもな。いや。まあ。とにかく。ここがおまえの部屋だ」
「………はあ」
案内された個室も、これまたきれいでした。
プライバシーもしっかり守られているようでした。
どっかに隠しカメラがなければの話ですが、そんなわけないですよねありますよねっと。
「はあ」
ふかふかのベッドに仰向けになる。
一寸先は闇かと思いきや、光で。でもその実やっぱり闇なのかどうなのか。
「はあ」
冤罪だってどう証明すればいいんだろう。
陰謀できない莫迦だって、どう証明すればいいんだろう。
機械の故障って、どう証明すればいいんだろう。
「はあ」
頭良くないと証明できないよなあ。
いやそもそも、頭がよかったら、こんなに簡単に牢屋に入ってなくね?
そうだそうだそうだよ。
今こうして牢屋に入っている事が、莫迦だって証明になるじゃん。
「いや、なるわけがないだろうが」
個室に設置されていたインターホンを押して来てくれたのは、さっきのAIロボットで。
呆れた表情を向けられて、じゃあ諸々をどう証明すればいいんだよと心中では叫びながらも、表面では、ですよねえと死んだ魚の目を向ける事しかできなかった。
(2024.2.22)
どうすればいいんですか? 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます