第5話 美咲の回想2

今でも時々思い出す。

あれは私が小2の頃。


学校のおたよりに父親参観の案内が書いてあった時の事。


仕事から帰ってくるなり自室に向かっていたお父さんに、お母さんは「父親参観の案内が来たんだけど…。」と言っておたよりを手渡した。


お父さんは眉間にシワを寄せながら、お母さんからおたよりを受け取り「分かった。」と言って、自室に入ろうとドアを開けた。


私は跳びはねながら「お父さん来るよね!?来るよね!?」と言ったけど、お父さんは何も言わずに部屋へと入っていった…。


“「分かった」ってことは来てくれるよね?”

“お父さんはきっと来てくれる…。”


私はそう信じていた。


でも参観日当日、お父さんは来てくれなかった。


教室のドアが開く度に後ろを振り向いて見てみたけれど、みんな他の子のお父さん。


私のお父さんは結局来なかった。


その時から気付いていた。


お父さんは私達の事なんて見ていない。

興味も無い。


私達の知らない、何か別のものを見ているんだ。


こっちを見てほしい。


また前みたいに一緒に遊んで、一緒にご飯を食べて、一緒にお出掛けしてほしい。


どうすればこっちを向いてくれるんだろう…?


私は今もなお、あの時迷い込んだ出口の見えない迷路の中に居る。


8歳の頃の満たされない想いを抱いたまま…。

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