結婚式

あっという間に結婚式当日。


俺も湊介も朝からなんとなくソワソワしてる。

俺は特に湊介に話しかけられてもなんとなく上の空になってしまっている。


それというのも、昨夜になってから、実は結婚式には家族どころか会社の人たちまで招待していることを教えられたからだ。



あんなにもスピード婚だったからてっきり俺と湊介だけの2人っきりの式だと思っていたのだけど、考えてみれば湊介は一年も前から計画を練っていたわけで俺の家族にもその頃から報告していたらしい。


俺には内緒だと言い含められていたせいで、俺の耳には全く入ってきてなくて、びっくりして思わず母さんに電話したら、


「てっきり付き合ってるとばかり思ってたから結婚も時間の問題と思ってたし」


とあっけらかんに言われてしまった。


知らなかったのは本当に俺だけだったみたいだ。

鈍感だって気付いてなかったけど、こうも周りに知られていると、鈍感だと認めざるを得ない。


俺の会社の人たちには報告した時にあれだけ驚いていたんだから、流石に知らなかったんだろうと思ったけれど、部長以上の役職付きは湊介から招待状が疾うの昔に送られていて皆知っていたらしい。

そして、俺の報告のすぐ後に俺の部署の社員たちにも一斉に招待状が送られていたらしく、みんなから出席の返事をもらったんだとか。


湊介のあまりにも用意周到な計画になんだか手の上で転がされてる感が半端ないけれど、それと同時に自分が思っていたよりもずっと大事になったようで緊張が止まらない。

上の空になっても仕方がないと思ってほしい。


湊介はそんな俺でもいつも通り可愛いと言ってくれて、本当にどこまでも俺のことを好きでいてくれて驚いてしまう。


今日からそんな湊介と本当に夫夫になるんだと思うとわぁーーっ! と大声で叫びたくなってしまうくらいだ。


そんな緊張しまくりの俺を乗せて、湊介の車は結婚式を挙げるホテルへと到着した。


すぐに新夫しんぷ控室へと連れて行かれ、湊介としばしのお別れ。

ドキドキしながら部屋に入ると、あのドレスが綺麗に準備されていた。


見れば見るほど繊細なレースが施され、手縫いで一つ一つ付けられた石もキラキラと輝いている。

これは全て本物のダイヤを使っていると教えられた時はかなり驚いた。

湊介がデザインして特注した豪華絢爛なこのドレス……湊介のデザイナーとしての価値も入れたらとんでもない金額になりそうだ。


破かないようにそれだけは注意しないとな。


この前の試着の時に湊介が俺にピッタリ合うように補正してくれたから、これは本当に俺だけのドレスだ。


メイクも髪も準備してもらってドレスに袖を通すと、周りのスタッフさんから感嘆の声が漏れた。

この前は髪とメイクはしていなかったから俺も初見だけど、


「これ……ほんとに、俺??」


と鏡の中に信じられなくなるほど綺麗なドレス姿の俺が映っていて驚いてしまう。


「こんなにお美しい新夫さまをご覧になったら、新郎さまも大喜びになられますよ」


スタッフさんからの言葉に少し照れながら、準備を整えて待っていると、湊介が部屋へとやってきた。


「莉斗、準備でき――」


声をかけながら入ってきた湊介は俺を見たまま目を丸くして言葉に詰まった。

一瞬悪い方に考えてドキッとしたけれど、湊介の顔がどんどん赤くなってきたからホッとした。


「湊介……似合う?」


少し恥ずかしくて小声で呟くと、湊介は駆け寄ってきて俺を抱きしめようとした。


けれど、ドレスを着ているから少し躊躇っている様子の湊介に


「大丈夫ですよ、すぐにお直しいたしますから……」


とスタッフさんが声をかけてくれて、喜んだ湊介に抱きしめられた。


「莉斗、本当に綺麗だよ」


その一言が湊介の心からの言葉だとわかる。


綺麗に準備を整えられ、俺たちは教会へと向かった。

もうすでに参列者は中に入っているらしい。


ドキドキしながら、扉が開かれる。


俺は湊介と腕を組んで顔を上げた。


扉から明るい光が差し込み、俺たちを照らしていく。

その瞬間飛び込んできたのは大勢の人たちの笑顔だった。


俺たちはゆっくりとバージンロードを歩き、神父様の元へと歩いて行った。


そして、俺たちは永遠の愛を誓い、みんなの前で口づけをした。

大勢の人に見守られてのキスは恥ずかしさももちろんあったけれど、みんなに祝福してもらっている嬉しさの方が優っていた。


「莉斗、綺麗だよ!!!」

「青葉くん!! おめでとう!!」

「湊介さん、おめでとう!!」


涙の中で祝福の声が飛び交いながら、俺たちはようやく夫夫になった。

いや、厳密にいうとまだ夫夫にはなっていない。


俺たちはまだ清い身体だから。


結婚式が終わると途端に初夜を意識してしまう。

俺は隣にいる湊介にドキドキしっぱなしでいるうちに、あっという間に披露宴も終わっていた。


「莉斗くん、うちの湊介は莉斗くんのこと大好きで重すぎると思うけど見捨てないでやってね」

「莉斗くん、今度ゆっくりうちにも遊びに来て! 湊介は一緒じゃなくてもいいから」


「は、はい。ありがとうございます」


高校の時からよく知っている湊介の家族だけど、いつも湊介より俺の方を可愛がってくれる。


「父さんも母さんも莉斗は俺のだから! 絶対に1人では実家には帰らせないからな」


いつも冷静な湊介も家族の前ではちょっと言動も幼くて可愛い。


湊介も俺の家族にいろいろと言われていたけれど、なんだか知らない間にかなり仲良くなっているみたいで驚いてしまう。


出席してくれた人への見送りを済ませると、


「じゃあ、俺たちも部屋に行こうか」


とお姫様抱っこで抱き上げられ、俺はびっくりして湊介の首に抱きついた。


「ふふっ。俺のお姫さまを絶対に落としたりしないから、安心して」


「うん、湊介……大好き」


「くっ――!」


湊介は俺の言葉に突然眉を顰めて、急いでエレベーターに乗り込んだ。


「湊介、どうしたの?」


「莉斗が可愛すぎてキスしたくてたまらない」


エレベーターの中は2人っきりだからしてくれていいのに。

そう思っていたけれど、


「今、莉斗にキスしたらもうそのまま歯止め効かずに押し倒してしまいそうだからな。

必死に抑えてるんだ」


と言われて一気に顔が赤くなった。

そういえば、湊介はずっとずっと我慢してくれているんだよね。


「今日は俺のこと、好きにしていいからね……」


「――っ!! ああっ、もう煽るなって!! 本当に我慢できなくなるぞ!」


「いいよ、俺。今日は湊介を全身で感じたいんだ……」


俺がそう告げた瞬間、エレベーターの扉がさっと開き、俺たちの泊まる部屋に着いた。


湊介は俺を抱きかかえたまま、器用に扉を開け一目散に寝室へと直行した。

そして、俺をドレスのままベッドに寝かせると、俺を見つめたままジャケットを脱ぎ床に投げ捨てた。

いつも紳士な湊介の獰猛な獣のような姿にゾクリと身体が震える。

これは恐怖ではなく、俺も興奮しているんだと思う。


無造作にネクタイを引き抜く姿に思わずゴクリと唾を呑み込む。

湊介はそんな俺の表情ひとつひとつをじっくりと見ながら、ふっと笑みを浮かべた。


「莉斗のその顔をずっと見たいと思ってたんだ……」


「えっ……どんな顔?」


「俺のこと、欲しいって情欲に塗れた顔かな……」


湊介はそう言い放ったと同時に俺の唇にキスをした。

あっという間に舌を挿し入れられ、舌を絡め取られる。

そんな深いキスにあっという間に俺は落ちていった。



それからどれくらい時が経っただろう。


たっぷりと心と身体を愛されて、抱きしめられた俺は少し掠れた声で、


「そ、うすけ……あいしてるよ」


と思いを伝えた。


「莉斗、俺もお前を愛してる。一生手放したりしないからな!!」


そう言って、大きな手で優しく撫でられたとき、湊介の手があの傷に触れたけれど、もう何にも痛みは感じなかったのは思いが通じたからだろう。


俺は湊介とこうしていられることを幸せに感じながら、その後も甘い夜を過ごした。

何度愛し合ったかは、俺たちだけの秘密だ。

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[完結]片思いの相手にプロポーズされました 波木真帆 @namikimaho

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