プロポーズ、その後……
「莉斗、言っとくけど結婚式は3週間後だから」
「ええっ?? うそっ! なんでそんなに早いんだ? 結婚式って普通半年とか一年とかかかるんじゃないのか?」
「言ったろ? 来週の莉斗の誕生日にはプロポーズする予定だったって。プロポーズから結婚式まで2週間って決めてたからな。一年前から計画して、莉斗の理想にピッタリの教会もバッチリ予約済みだし、莉斗に決めてもらうのは俺が着るタキシードとあとは結婚指輪だけかな」
「指輪って、これは?」
「それは婚約指輪だろ。結婚指輪は俺とお揃いでつけるやつ。だから莉斗に選んでほしいんだ」
湊介とお揃いの指輪……。
うわぁーっ、本当に俺たち結婚するんだ!
なんか、プロポーズされた時よりもずっと現実味があってドキドキするんだけど!
「明日の夕方、早速指輪見に行くから。仕事場まで迎えに行くよ」
「わざわざ湊介が迎えにきてくれんの? どこまで行くかわかんないけど、どっか途中で待ち合わせした方がいいんじゃない?」
「いや、莉斗が俺のだって莉斗の会社の人たちにも見せつけておきたいしな。牽制しとかないと」
「牽制って……お前じゃあるまいし。俺、全然モテないぞ」
「はぁーっ、これだから莉斗は。いいよ、とりあえず明日迎えに行くから、わかったな」
すごい勢いでそう言われて、俺は頷くしかなかった。
そのままいつものように風呂に連れていかれたけど、婚約者になってから髪や身体を洗われるのはかなり照れる。
今まで通りに何も考えずにお願いなんてできないぞ。
でも、俺の髪も身体も湊介に洗ってもらうのを待ってるんだよな。
どうしよう……。
緊張しすぎて身体がカチンコチンになったまま、脱衣所に立っていると、
「ぷはっ」
と湊介から笑いが漏れ聞こえた。
「なんだよっ」
「いや、可愛いなと思ってさ。昨日まで全然気にしてなかったのに、お前みたいに鈍感でも気づいたら緊張するんだな」
「湊介、お前失礼だな!」
「ははっ。悪い悪い、でも緊張しなくていいよ。言ったろ? お前の初めては初夜で全部もらうから今はまだいつも通りでいていいよ」
そう優しく微笑まれて、俺は顔が赤くなったのを自分でも感じていた。
俺がなんの気なしに言ったあんな戯言を大事に守って、こんなにも大切にしてくれるんだ。
本当に王子さまみたいだな、湊介って。
それから一緒にお風呂に入っても、言ってた通り湊介は今まで通り髪を綺麗に洗ってくれて身体も隅々まで洗ってくれたけど、そんな流れにはならなかった。
そういえば、俺の身体は全部見せてるけど湊介のってまだ見たことないな。
ふとそれが気になって後ろにいる湊介に目を向けたけれど、なぜか湊介は綺麗に腰にタオルを巻いていて何も見えなかった。
「ねぇ、なんでタオル巻いてるんだ?」
「そりゃあ、莉斗の裸見て触って反応してるところ見せたくないし」
「俺は全部見せてるのに?」
「莉斗のは可愛いからいいんだよ。俺のは初夜のお楽しみにしておいてくれ」
初夜なんて言われると途端に意識しちゃうじゃないか。
少し顔を赤らめた俺をふふっと笑って、湊介は俺を風呂場から出した。
いつもと同じように髪を乾かしてもらって、そろそろ寝ようかとなった時、別々に寝るのか? と疑問が現れた。
「湊介、一緒に寝ないのか?」
「うーん、どうするか悩んでる」
「えっ? 悩んでるって……」
もしかして一緒に寝るのは嫌とか?
1人で寝たいタイプとかいるもんな。
でもずっと別々で寝るのは寂しい気がするけど……。
色々考えを張り巡らせていると、
「また変なこと考えてるだろう?」
と問いかけられた。
「変なことって……」
「お前の超鈍感にはちゃんと言わないとまたおかしなことになりそうだからな。
あのな、俺は高校の時からずっとお前が欲しいんだぞ。それをずっと我慢してるんだ。一緒に寝て我慢できるか流石に自信ないんだよ」
「ほ、欲しいって……それ……」
湊介の言いたいことを理解して一気に顔が赤くなる。
「あ、あの……湊介。俺、もう婚約者なんだし、その……湊介がしたいなら、俺は別に……」
ここまで何も気づかずにずっと我慢させてきたんだ。
もう我慢なんてさせたくない。
その思いで必死に告げたんだけど、湊介はクスッと笑って
「莉斗がそう言ってくれるのはすっごく嬉しい。だけど、ここまで待ったんだ。
あと3週間くらい待ってみせるさ。その分、初夜を楽しもう」
と俺を抱き寄せながらそう言ってくれた。
ああ、なんでこんなにも湊介は優しいんだろう。
そこから結局いろいろ話し合ったものの、別々で寝るのは寂しいと言い出した俺の意見を湊介は汲んでくれて、結婚式までの3週間を湊介のベッドで眠ることになった。
ずっと抱きしめあったまま、俺は湊介の温もりに包まれて眠ることができて毎日が幸せだったけれど、湊介は相当きつかっただろうな。
本当に優しくて俺を甘やかしてくれるんだ。
翌日、会社まで車で送ってもらい、久しぶりの仕事に出かけた。
湊介が弁護士さんを通して話をしてくれていたおかげで、2週間休んでも誰からも文句も言われなかったどころか、もう大丈夫なのか? と会う人、会う人に心配の言葉をかけてもらって逆に申し訳なかった。
みんな、俺のおでこの傷には気づいていたようだったけれど誰も何も聞いてこなくて助かった。
そういえばと思い出し、湊介から今日絶対に話しておいてくれと念を押された話を部長にする。
「部長。久しぶりに出社したところでこんな話を申し訳ないのですが……」
「どうしたんだ? そんなに改まって……」
「いえ、あの……私、結婚することになりまして」
その瞬間、オフィス中が一瞬静まり返ったと思ったら、一気にざわめきが酷くなった。
「えっ? 青葉くん、結婚するのか?」
「うそーっ! 狙ってたのに!!」
「だから言ったでしょ。青葉くん絶対恋人いるって!」
「ええーっ、俺が守ってやろうって思ってたのに」
あちらこちらからいろんな声が飛んでくるのをどう対処していいか戸惑っていると、目の前にいた部長が
「いや、おめでとう! よかったな。相手はあれか、今回君の手続きに奔走していたあの彼か?」
と目を細めながら尋ねてきた。
多分湊介のことだよなと思いつつ、
「はい。多分その彼です……」
と答えた。
会社で湊介のことを思い出して顔を赤らめていると、また周りが静まり返った。
えっ?
なんだ?
周りを見渡すと、なぜかみんなも顔を赤くしている。
不思議に思いながらも部長に
「じゃあそういうことなんで」
と頭を下げ、自分のデスクへと戻った。
隣にいる部下の
「先輩、おめでとうございます! その指輪婚約指輪ですか?」
と目敏く見つけて大声で話すもんだから、一気に俺の周りに人が集まり俺の指輪を見ながら
「はぁーっ、すげえな、これ。めっちゃ高いやつ。多分数百万はしますよ。青葉さん、愛されてますね〜!」
と感嘆の声をあげていた。
うそっ、これそんなに高いの?
一気に指につけているのが怖くなったけれど、外しておく方がもっと怖い。
それからはずっと指輪が気になりっぱなしで今日の仕事を終えた。
なんかいつも以上に疲れたなと思いながら、会社のロビーへと向かうとなぜか人だかりができている。
んっ? なんだ?
恐る恐る近寄ると、人だかりの真ん中に湊介の姿が見えた。
「あっ……」
俺の漏らした小さな声に湊介だけが反応して、俺の方を見る。
その時の満面の笑みがすっごく可愛くて、俺だけじゃなく周りにいた人たちもみんな胸を撃ち抜かれていたと思う。
湊介は周りの人には目もくれずに一直線で俺の元にやってきて
「莉斗、お疲れ。ずっと会いたかったよ」
と俺の唇にキスをしてきた。
ロビーがきゃーっと騒然となったが、湊介は何も気にする様子もない。
そのまま俺の腰に手を回しながら、
「結婚指輪を見に行こう」
と話しながら、会社前に停めていた高級車に俺をサッと乗せ、会社から走り去った。
その流れるような動きに俺はキュンキュンしながら、運転している湊介を見つめることしかできなかった。
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