第7話 神の騎士

「それでは本題に入らせて貰います」


支部長から出されたお茶を一口頂いた所で、彼がまじめな顔になる。


「実は最近、此処から少し離れたホビルン山に飛行系モンスターのワイバンが住み着いた様でして……」


「なんじゃと!?」


その名を聞き、ガトラーさんが目を丸めた。多分魔物だとは思うが、爺さんの反応を見る限り相当厄介な奴の様だ。


「むむむ……ワイバンか。ホルビン山がここから遠く離れておるのが幸いじゃな。奴らの縄張りは広くないからの」


「ええ。ワイバンはテリトリーから基本出て来ませんから」


基本的に出て来ないのなら、何故その山に最近住み始めたと言うのか? 若干矛盾を感じはするが、まあそこは例外が起こったんだろうと納得し、余計な口を挟まず俺は話に耳を傾ける事に終始する。


「ワイバンは問題がないとするなら、何故その話をしたんじゃ?」


「実はそのワイバンがつがいである事が分かってまして……」


「なんと!?」


ガトラー爺さんが再び目を丸めた。良く驚く爺さんである。


「なので恐らく、数年のうちに子をなす事に成るかと」


子供が出来たらそいつらが巣立って、近くに住み着く事を危惧してるって事かな? 


さっき感じた不思議が一瞬で解消してしまった。まあ子供が出来たら巣立って何処かに移り住むよな。


「まだ大丈夫かとは思いますが、ギルドとしては出来るだけ早く討伐したいと考えていた所……神仕騎士ゴッドナイトであるアルティメット・パワー様が訪れられたので、お願いしようかと」


「なんじゃと!?世界を陰から支える使命を持つ神仕騎士ゴッドナイトじゃと!?パワー、おぬし……」


ガトラー爺さんがこれまでにない程に目を剥き、此方を凝視して来る。ちょっと面白い顔だなと思いつつ、神仕騎士ゴッドナイトって何だよと俺は頭を捻る。神様関係の騎士って事は名前から分かるが、俺は神様からそんな話一切効かされてない訳だが?


「むむむ……信じられん程の強さに、あからさまに素性を隠す素振り……確かに、フレイガス教会の神仕騎士ゴッドナイトなら納得じゃ」


ガトラー爺さんは勝手に答えを出し勝手に納得してしまう。因みに、フレイガスってのは俺を転生させてくれた神様の名だ。


「……」


俺が強いのは鍛えたってのもあるけど、一番の理由は小人との体格の差だし、素性を誤魔化してたのは異世界転生者だったからだ。なので別に教会所属の騎士だったからという訳ではない。というか、本当に俺はその神仕騎士ゴッドナイトなのか?


「しかしハリス。よくパワーが……いや、パワー殿が神仕騎士ゴッドナイトである事に気づけたな」


ガトラー爺さんが俺の名前に敬称を付けて言い直した。どうやら、神仕騎士ゴッドナイトは結構身分が高い扱いの様だ。ギルド長の対応からもそれが良く分かる。


「提示された身分証の刻印です。ギルドには教会に協力する義務がありますので、神仕騎士ゴッドナイトの持つ身分証を知っておく必要があるのです」


「なるほどのう」


それで慌てて出てきた訳か。本物か確認する為に。後、ワイバンとやらの事を俺に頼むために。


まあ嘘をついてるようには見えないので、俺はガチでフレイガス教会所属の騎士って事になってるのだろう。


「パワー様。どうぞ我らにお力をお貸しください。この通りです」


ギルド長が頭を深々と下げた。正直、ただ魔物を倒して欲しいと言う頼み事なら断る理由はなかった。良い実戦訓練になるだろうから。だが相手が悪い。何故ならワイバンは空を飛ぶからだ。


体鍛えても空には手は届かんのよ。相性劇悪である。俺は地上専なので、悪いけど断らして貰う。出来ない事は引き受けない。これ常識だからね。


「あー、すいません。俺は空を飛べませんし、魔法も使えないんで……空飛ぶ奴はちょっと」


「ぶわっはっはっは!パワー殿は面白い冗談を言うのう」


断りを入れたら何故かガトラー爺さんに大爆笑されてしまう。何が一体面白かったと言うのだろうか?よく分からん。


「パワー殿なら弓を使えばイチコロだろうにのう。まったく面白い冗談じゃ」


ああ、弓か。確かに、弓は空に向けて出来る攻撃手段ではある。だが問題がある。俺は弓に触った事もないって所だ。しかも相手は空を飛んでると来た。素人に飛行物射落とせとか無理ゲーもいい所である。


「いや、弓はですね――「言いたい事は分かる。パワー殿の手に馴染む弓が必要と言いたいんじゃな」」


ガトラー爺さんが俺の言葉をに、勝手な意見を重ねて来る。その余りの強引さに、実はこれは神様が用意した強制イベントなんじゃないかとさえ思えて来た。


弓を使ってみろって事か?


「ハリスよ。実はパワー殿は現在、ミニポーションを服用中なのだ」


「な、なんですと!?では――」


ガトラー爺さんの言葉に、ギルド長が驚愕する。まあ彼から見たら今の状況でも俺は十分大きい訳だからな。それが実は縮んだ姿と知れば驚くのも無理はない。


「うむ。彼の本来の体躯はこの1,5倍ほどにもなる。そんな彼が扱う弓ともなれば確実に特注品だ」


「それならば後お安心ください。ギルド所属の鍛冶師に命じ作らせますので」


俺の同意なしに話が進んで行く。なんか断りの言葉を挟みづらい雰囲気に『うん、やっぱこれは強制イベントだな』とか考える俺であった。

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