第8話 ウェイト

俺はギルドの特別室で寝泊まり出来る事になったので、宿を探す必要はなかった。そこでお客様待遇で一晩過ごし、翌日、俺用の巨大な弓をギルド長から渡される。


「ふむ……」


渡されたのはミニポーションで縮んでいる今の俺には大きいが、元のサイズになったら丁度良さげな金属製――弦の部分も金属製の繊維を束ねてるっぽい――の弓だ。一緒に渡された矢もかなり大きい。


ガトラー爺さんがサイズを想定してギルド長に伝えてくれてたけど、正にドンピシャって感じでだ。ナイス測量である。


「その弓を片手で軽々持たれるとは、流石ですな。私などは、両手でもふらつく始末でしたから」


大した重みは感じないが、小人である彼らにとっては辛い重量の様だ。


「これ、たった1日で作られたんですか?大変だったんじゃ?」


意匠なんかもほどこされており、どう考えても即興で作れたとは思えない精密な仕上がりをしている。職人さんにきっと相当無茶をさせたんじゃないだろうか?


「ふふふ……我がギルドの抱える工房は最先端の魔法技術を取り入れていますので、これぐらい軽い物です」


そうギルド長が自慢気に語る。魔法なら何でもありって気がするので納得だ。あ、そうそう。ミニポーションの効果は小人と同じ12時間だった。体の大きさはどうやら効果時間には影響しない様である。


「凄いですね。取り敢えず……ポーションの効果が切れたら試し打ちしてみます」


いきなり実践とかありえないので、当然事前に練習はしておく。まあ多少練習したからと言って、空を飛ぶ相手に当てられるかと言ったらあれだが……まあそこは時間を止めて相手の位置を固定すれば、ギリ何とかなるんじゃないとかいう楽天的な考えで行く。


だって話がするするする進んで、今更断れないし……


今回の一件で分かった事だけど、どうやら俺は押しに弱い様だ。まあダメだったら、その時は素直に謝るとしよう。


「そうですね。それが宜しいかと。ギルドに地下訓練場がございますので、どうか其方をお使いください」


「じゃあ、戻るまでそこで軽く運動させて貰っていいですか?」


空いた時間は是非訓練にあてたい。パワーは一日にしてならず。日々の努力だけが、俺を更なるステージに連れて行ってくれるのだ。


「こちらになります」


ギルド長に案内された訓練場は結構な広さをしていた。ただ惜しむらくは、ウェイトとなる様な大きな岩などが転がっていない。これだとできるのは、本当に軽い運動だけである。


「こう……なんというか、体に負荷をかけられる重りっぽい物ってないでしょうか?」


「重りですか?」


「ええ、こう……死ぬ程お重い物が理想なんですが」


俺と小人では基本のフィジカルが違う。なので彼らにとってとんでもない重さとなる物ぐらいがウェイトとしては好ましい。


「そ、そうですな……ああ!そう言えばアレがあります。少々お待ちください」


ギルド長が何かを思い立ったのか、訓練場から出ていく。少し待つと、彼は人を連れて戻って来た。全部で6人。連れて来られた人達は、鉄板を全員で抱えている。どうやらこれがウェイトの様だ。


「お待たせしました。これは大昔の大冒険者シャダンが使っていた、超重盾と呼ばれる物です。重すぎて誰にも真面に扱えず、長らく倉庫で埃を被っていたのですが……パワー様になら丁度よろしいかと」


小人の全身がすっぽり隠れるサイズの大きな鉄板に見えたそれは、どうやら盾の様だった。


「どうぞお試しください」


盾というだけあって、地面に裏向きに降ろされたそれには取っ手――サイズ的に考えると、腕を通す部分かもしれない――の様なものが付いている。俺はそれを握り、持ち上げてみた。


微妙だな……


確かに重みはある。だがウェイトとしては、正直弱いと言わざる得ない。出来ればこの3倍位の重さが好ましかった。とは言え、それは只の贅沢だ。貸して貰えるだけ有難いという物。


「それすらも軽々と持ち上げられるとは……流石ですな。ですがご安心ください。その盾は特別製でして、魔力を流せば重量が増すと言う効果を秘めております。どうぞお試しください」


「やってみます」


やってみますとか言ったが、俺は魔力の流し方など当然知らない。地球に魔法とかなかったし。とは言え、身分が教会所属の騎士って事になっているので、やり方が分かりませんとも言えない。


仕方ないので適当にやってみる。『俺の内に眠る魔力よ!なんかいい感じに作用しろ!と』とか願いながら、握った手に力を込めてみた。


「お……」


出鱈目だったにもかかわらず、盾がほんのりと光、手の中の重みが増加して行く。どうやらこのやり方でいい様だ。人間、やればできるもんである。


「如何でしょうか?」


「悪くないです。ありがとうございますギルド長」


ずっしりと来る重み。これなら十分だ。


「気に入っていただけて幸いです。もしよろしければ、その盾はパワー様に差し上げましょう」


「え?いやでもこれ、大事な物なんじゃ?」


大冒険者の残した物だ。確実に貴重品に違いない。


「ははは、お気になさらずに。どうせ我々では、真面に持ち上げる事も出来ない物ですから。倉庫内で寝かせて奥よりずっと有用という物。どうかお受け取り下さい」


「はぁ……それじゃ遠慮なく」


まあ、くれると言うなら有難く貰っておこう。岩がない時なんかのウェイトに持って来いだし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る