第3話 小人発見

「おお!人間だ!でもなんか小さいな……」


煙の上がっていた場所には人影があった。ただかなり背が低い。たぶん俺の腰ぐらい。


ひょっとして小人か?


本格ファンタジーなんかに出て来る感じの。と、いかんいかん。さっさと助けてやらんとな。


見つけた人間は、小さな犬っぽい魔物に襲われていた。俺の股間ぐらいの体高しかないが、それでも小人である彼らにとっては脅威に違いない。


「おおおおぉぉ!!」


俺は雄叫びでワン公共を威嚇しつつ、突っ込んでそのうちの一匹を蹴り飛ばしてやった。血飛沫内蔵ぶしゃーって感じで、犬の体が粉砕する。うん、こいつも柔らかい。動きも別に早くないし、まあ楽勝だな。


「おらぁ!」


魔物数は十匹程。そいつらを全て一撃で葬って回る。これぞマッチョパワーだ!


「大丈夫ですか?」


魔物が片付いたので、俺は背後にいる小人達に振り返って笑顔でそう尋ねた。が、その次の瞬間――


「ファイヤボルト!」


急に顔面に火の玉が飛んで来た。


「あちゃちゃちゃちゃちゃ……あ、いや、言う程熱くもないか」


顔が燃え上がったせいで、一瞬パニックになってこすって炎を消したけど、冷静に考えるとたいして熱くもなかった。炎っぽく見えたけど、別の何かかな? いやでも少し焦げ臭いし、髪もちょっと燃えてるっぽいしやっぱ炎か? 


「くそっ!巨人め!もう一度喰らえ!ファイヤボルト!!」


さっきは振り返ってすぐに飛んで来たからよく分からなかったが、今度はハッキリと見えた。ローブを身に纏った老人の持つ杖の先から火球が生み出され、それが俺の顔に飛んでくるのがバッチリと。これが魔法って奴かな?


「おっと」


俺はそれを片手で弾く。


「なっ!?ワシの魔法を片手で軽々と!この巨人、危険じゃぞ!!」


巨人ねぇ。まあ小人の人達から見たら、俺は巨人に見えるんだろう。でも実際は君達がちっさいだけだからね。


「あー、ちょっといいですか」


「何!?巨人が喋っただと!?」


取り敢えずもう一度声をかける。するとその場にいた小人たち全員が驚いた様な反応を見せた。いやさっきも思いっきり声かけてたんだけど? ひょっとして聞こえてなかった?


あ、因みに俺はこの世界の言葉を話せる。もちろん、それも神様から貰ったチートだ。話が出来ないとか不便極まりないし、これは転生時のデフォチートだよな。


「まさか……魔物じゃないの?」


ローブを着た赤毛の女の子がそう尋ねて来る。


「違いますよ。確かに皆さんより大きいですけど、俺はれっきとした人間です。それに俺、皆さんに助力してたじゃありませんか」


君達が小さいんだ、とか。そういう失言はしない。街の場所を教えて貰わないといけないからな。相手の機嫌を下手に損ねて、全然関係ない場所教えられたら敵わんし。


「は、はは……俺はてっきり巨人が縄張りから気まぐれに出て来て、目についたウルフを襲ってたのかと思ったぜ」


「一難去ってまた一難かと思ったけど、そうじゃなかったみたいね。助かったわ。ありがとう」


鎧を着た男女が、構えていた武器を下げて安堵する。


「むう、これは失礼した。一つ目の巨人かと思って……いや、よくよく考えたら奴は青い肌をしてるから違うのは一目瞭然か。ワシとした事が慌ててしまった。本当に申し訳ない」


「ああ、気にしないでください」


老人が腰を深く折って俺に謝罪する。まあ炎はぶつけられたが、怪我は特にないから問題ない。それに彼らには聞きたい事があるので、負い目はむしろウェルカムだ。


しかし……蒼い一つ目の巨人か。たぶん最初に会った奴だろうな。やっぱあれって、不意のボス遭遇だった訳か。無茶せず逃げて正解だったな。


「にしても……アンタ凄っく強いなぁ。あのウルフ共を一撃で蹴散らしまくるんだから」


「ほんと、凄かったわよねぇ。さっすが大きいだけあるわ」


「ははは、まあ体を鍛えてますから」


マッスルマッスル!

力こそパワー!


「所で、この辺りに街ってありますか?出来れば場所を教えて欲しいんですが?」


「あら、この辺りに来るのは初めてなんですか?」


「ええ、まあ。ちょっと遠くから来まして」


異世界から来たとは言えないので、適当に言葉を濁しておく。


「まあそりゃそうだ。近くにこんなでっかい奴がいたら、こんな田舎じゃ直ぐ噂になってるだろうからな」


口ぶりから察するに、この辺り一帯は小人達が暮らしている地域っぽいな。


「街だったら、ここから南に行けばコビットの街がありますよ。もしよかったら私達が案内しましょうか?丁度引き返すところでしたから」


「そうなんですか。出来たらお言葉に甘えさせて貰います」


ローブの女の子の厚意には喜んで甘えさせ貰う。方角を教えて貰っても、こんな森の中じゃ道に迷うかもしれないし。道案内して貰えるなら、当然その方が助かる。


「ま、アンタは門で絶対止められるだろうけど」


鎧の男が笑いながらそう言う。まあ確かに……見知らぬデカイ奴が来たら、そりゃ門番は止めるよな。無事に入れるだろうか? ちょっと心配になって来る。


「まあ確かに。お兄さんおっきいから……って、そういやまだ名乗ってなかったわね。私はケディよ。見ての通り冒険者」


異世界の定番とも言える冒険者。この世界にもそのシステムがある様だ。因みにケディと名乗ったのは鎧を着た女性だ。年齢は二十台前半ぐらいかな?茶髪で、そばかすはあるけど結構綺麗な顔立ちをしている。


というか、やっぱ異世界は顔面偏差値が高いのかな?この場にいる全員、顔立ちが整っている感じだ。


「俺はバンズ。このパーティーのリーダーさ。気軽にバンって呼んでくれ」


バンズは鎧の男。この人も年齢はケディと同世代に見える。というか、ローブの老人を除けば全員同じぐらいの年齢っぽい。


「ワシはガトラー。魔法使いじゃ」


「私はガトラー師匠の弟子、ミニエルです」


ローブを着た老人の方がガトラーと、その弟子である女の子のミニエルは魔法使いか。まあ見た目通りって感じだな。


「俺はほそ……」


細田陽炎と名乗ろうとして、咄嗟にストップする。何故ならこの名前はひ弱で弱そうだからだ。折角異世界に来たのだから、カッコいい名前を名乗るとしよう。


「俺の名はアルティメット。アルティメット・パワー。放浪者さ」


完璧な名前と肩書である。今日から俺はアルティメット・パワーだ!


「おお、強そうな名前だな。名は体を表すっていうけど、全くその通りって所か」


すいません、本当は凄く弱そうな名前です。でも名前に負けないだけ強くなる予定だから、セーフって事でお願いします。


「じゃあ、魂石を回収したら出発しましょうか」


「魂石?」


魂石ってなんだ?


「おいおい、まさか魂石の事知らないのか?パワーはいったいどこの出身だ?」


ミスったな。つい疑問形で聞き返してしまったけど、どうやら魂石ってのは知ってて当然の一般的な物の様だ。


「ああ、いや……まあなんというか……」


「まあいいじゃないの。どこの誰だって。あたし達を助けてくれた恩人なんだからさ。詮索は無しにしましょ」


ケディさんナイス。そう、俺は恩人だから細かい事は気にしない方向で頼む。


「ま、それもそうだな」


「義理には義理で返さんとな。魂石を知らんならワシが教えてやろう」


サンキュー爺さん。助かる。

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