第6話 発熱
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「う"~っ」
池に落ちてから数時間後、おれは熱を出した。
茶髪の少年から助け出された後、セバスチャンさん……セバスチャンに適切な処置をされてグッドマン先生に診察してもらったけど、幼い身体では免疫力がなかったのか風邪をひいてしまったのだ。
(おれったらお馬鹿! 今、熱で寝込んでいる場合じゃないのに……)
長谷川優希からノア・ファフェイスになってしまったこと。
ルイーザとダブハーの世界観、攻略キャラたちとヒロインについて。
その他諸々、おれがまだ覚えていることを書き出したりして整理しないといけないのに、意識はぼんやりしているし身体が熱くてだるい。
やらなきゃいけないことは山ほどあるのに、今は何も出来ないし何にもしたくない。
「ひぐっ、うぇっ……」
風邪をひいて心細くなっているのか、涙が出てきてしまう。
熱は出るし、鼻水も出るし、咳も出るし、体調も気分も最悪だ。
今のノアの中身は長谷川優希とはいえ、ノアの身体は4歳くらいだから精神も子どもになっているのかもしれない。
長谷川優希だったら体調を崩してナイーブになっても泣くなんてあり得ないことだ。
「ノアさま、大丈夫ですよ」
熱を出したおれをサラが看病してくれていた。
グッドマン先生からおれが熱を出すだろうと予告されていたみたいで、取り乱すことはなかったという。
診察した時にはおれはまだ熱を出してなかったはずなのに先を読むなんてすごいな、グッドマン先生。
「ノアさま、今度から池は眺めるだけにしましょうね」
「庭に綺麗な花が咲いたんですよ。体調が治ったら見に行きましょう」
「ノアさま、カイルは元気です。文句を言いながらいつも通りお仕事をしていますよ」
おれの看病をしながら、サラはおれに色んな話をしてくれた。
その中で、カイルという名前が出てきたが誰かは分からない。
きっとおれを助けてくれた茶髪の少年の名前がカイルなんだろうけど、サラに確認する元気がない。
全身ずぶ濡れになったのに、体調を崩さないってカイルの身体は丈夫なんだな。
(えーと……ファフェイス家の使用人の名前は……)
サラ、セバスチャン、カイル。
3人はダブハーには名前も姿も出てこなかったキャラクターだ。
それもそのはず。
だって、ダブハーは“殆ど”がヒロイン視点でストーリーは進んでいくんだ。
おれが覚えている限り、ヒロインがファフェイス家へ遊びに行った描写はなかったから、ゲーム内にファフェイス家の使用人が出てくるはずがなかった。
そういえば、ヒロインが攻略キャラたちの家に行って使用人との会話があっても【メイド1】とか【使用人2】とかで名前とか姿は出て来なかったもんな。
それに、ダブハーでルイーザの私生活は謎だった。
ルイーザがファフェイス家でどう過ごしていたのか分からない。
(おれはゲームを通してヒロインから見たルイーザしか知らない……)
ルイーザはおれの推しなのに、悪役令嬢だから攻略キャラたちと違って過去イベントやルートストーリーとかはない。
ルイーザのことを知りたいのに知れないもどかしさ。
知らないからこそ、空白の部分を埋めようとダブハーのプレイヤーのお姉さま方は妄想や空想を抱いてキャラたちの私生活を思い浮かべてたんだろう。
ファンアートや二次創作が人気だった理由の一つ。
それはダブハーだけではなく、ゲームや漫画など作品ならば全てに当てはまることだ。
(ルイーザに感情移入し過ぎだって女友だちに怒られたな)
おかしいな。
でも、どんな会話をしたのかとかは覚えている。
(あれ、
ダブハーとルイーザのことを考えてたはずなのに、ぼんやりとした意識の中でおれは自分の最期がどうだったか思い出すのだった。
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