第7話 長谷川優希という人間
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ちょっと、おれについて話を聞いて欲しい。
自己分析とまではいかないけど、自分のことを思い出したい。
おれ、長谷川優希は何処にでもいる普通の男子高校生だった。
面白くない自己紹介だと思われても仕方ない。
部活動で有望なスポーツ選手だったわけでもない。
学年で上位の成績を収めていた優等生だったわけでもない。
長谷川って苗字も優希って名前もよくあるものだ。
純日本人だからハーフとかクォーターというわけでもない。
顔は不細工ではなかったと思うけど、イケメンで女子に人気があったわけでもない。
日本育ちだから帰国子女じゃないし、外国語が出来るわけでもない。
これといって、自慢出来る特技はない。
クラスの男子で“陽キャ”“チャラ男”“陰キャ”“モブ”ってカテゴリー分けがあったら、“モブ”だと思う。
クラスの中心人物じゃなかったし、チャラチャラしてたわけじゃないし、孤独を愛していたとか中2病を発症していたわけでもない。
友だちはいたし、女子とも話せたし、一人でも行動出来た。
何処のグループに入っても過ごすことが出来るコミュ力は持っていた。
だからこそ、楽しそうに話していた女子たちの会話に入ってダブハーを教えてもらえた。
ルイーザを知ることが出来た。
何かに一生懸命打ち込んでいたわけじゃないから挫折らしい挫折を経験することはなかった。
普通に高校を卒業して、普通に大学へ進学して、普通に就活を得て就職して。
良い出会いがあれば、その人と順調に交際して結婚して。
子どもを授かって、子育てに奮闘して、忙しい毎日を送って……。
別に結婚出来なくても、仕事とプライベートを分けて好きなように生きる。
そんな普通の未来が訪れると信じていた。
高2の夏休み。
おれは友だち数人と海水浴に来ていた。
夏休みが明ければ一気に大学受験や就職について進路先を考えないといけない時期に入り、早い生徒は既に春期講習やら夏期講習などで受験勉強に取り組んでいた。
来年は夏休みはあっても遊ぶ時間はないと判断し、おれの周りでは思い出作りをしようと海水浴へ行くことになった。
そう、海水浴という名のナンパに来ていた。
おれはルイーザが推しとはいえ、おれも男の子なもので水着を着た女の人を見たいという気持ちが……ほんの少しだけあった。
スタイル抜群な女の人、容姿端麗な女の人、水遊びをして海水に濡れた水着姿の女の人……。
ちょっといけない妄想をしちゃうおれは悪くない。
だって、男の子だもの。
お年頃の男子高校生だもの。
水着の女の人とすれ違ったら鼻の下を伸ばしつつも、おれは友だち数人と水遊びしたり砂浜でお城を作ったりして満喫していた。
ナンパ目的だったけど、いくらコミュ力が少しあるとはいえ見ず知らずの女の人に声を掛ける勇気はおれにはなかった。
友だち数人も似たようなもので女の人の水着姿を見て満足してしまい、なんだかんだみんなで遊ぶのが楽しくなってしまった。
口では『今年こそ彼女作ってやるぜ!』とか『ひと夏の恋じゃー!』とか言いつつ、行動に移せないのがおれたち男子高校生なのだ。
『おい、兄ちゃんたち。今日は天気が良いけど波が高い。最近、穴場スポットだって遊泳禁止エリアに行く奴らがいるけど危ねぇから絶対行くんじゃねぇぞ! 分かったか!?』
海の家で昼食を食べていると、男性店員に言われた。
おれたちが来ていた海水浴では遊泳出来る場所が決まっていて、一部が遊泳禁止エリアになっていた。
いきなり男性店員に言われてビックリしたけど、おれたちだから言ったのではなく海の家にやってきた客には注意喚起しているのだという。
『きつい言い方で悪いな。ちょっと子連れの嫌な客がいてよ。此処はライフセーバーがいるとはいえ、毎年遊泳禁止エリアに行って溺れる奴がいるんだよ。せっかく海水浴に来たんだから台無しにして欲しくねぇんだ』
おれたちは男性店員の忠告をしっかり受け止めて、楽しく昼からも遊ぶのだった。
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