第5話 おれが知ってるノア・ファフェイス
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ノア・ファフェイスがどんな人間かというと、我が儘で口が悪くてプライドが高い。
裏表の激しいやつで、人によって態度をころころ変える。
自分よりも身分が高いか低いかを基準にしていて、同じ爵位持ちでも伯爵、子爵、男爵の生徒には偉そうな態度を取る。
公爵と侯爵、そして王族の生徒にはごますりをする。
学園では一緒に行動する生徒はいても、好かれていなかった。
ノアの学園での成績は良くないが、剣術が得意で将来は有望な騎士として見込まれていた。
自分の得意な剣術に関してだけは真剣に取り組んでいて、教え方が上手いという一面を持つ。
ノアはサブキャラで登場は少なかったけど、何故か人気が高いキャラだった。
「えー、あー、うん……」
……なんでか分からないけど、おれはそのノア・ファフェイスになってしまった。
そりゃあ、クラスの女子たちに『次元を越えてルイーザを助けに行きてぇよぉ……! 名無しのモブキャラで良いからさぁ……!』と何度か泣きついたことはあるけど、よりによってノアかよ。
(これが異世界転生ってやつか? いや、おれには長谷川優希の記憶があるから、異世界転移? でも、姿はノア・ファフェイスだから異世界転生で良いのか?)
考えたら次から次に疑問が浮かんでる。
考えることが多過ぎて、頭がパンクしそうだ。
「ノアさま、体調はいかが……ノアさま!」
ドアをノックする音が聞こえ、ドアから顔を覗き込んで来たのはサラさんだった。
ベットから上体を起こして頭をおさえるおれを見て、サラさんが駆け寄って来る。
「ノアさま。怖い夢でも見ましたか? それともまだ頭が痛むのですか?」
「サラさん……」
「はい、サラです。サラさんではなくサラとお呼びください」
サラさんはファフェイス家に仕えているメイドだという。
その家の子どもは仕えている使用人にさん付けはしないんだっけ?
そういや、ルイスもセバスチャンさんを呼び捨てしてたな。
「……サラ」
「はい、なんでしょう?」
おれに優しい笑みを浮かべるサラさん……いや、サラ。
「おれは……ノア・ファフェイスなのか?」
「……っ」
アホなことを聞いてしまった。
おれの問いにサラは何故か泣きそうな表情になった。
「サラ?」
「っ、はい! あなたはファフェイス侯爵家次男、ノア・ファフェイスさまです!」
サラがおれをノア・ファフェイスだと断言した。
改めて言われると、ストンと腑に落ちた気がした。
「そっか……」
「ノアさま、大丈夫ですか? 体調が優れないのならば、グッドマン先生をお呼びしましょうか? セバスチャンさんに来てもらいましょうか? もう一度眠るのならば子守歌でも歌いましょうか?」
アワアワしながら、おれにどうしたいのか聞いてくるサラ。
「……ふふっ」
「!」
その姿がおかしくて、思わず笑ってしまった。
「笑っちゃってごめんなさい。おれ……いや、ぼくかな? ぼくは大丈夫で……ううん、大丈夫。……ちょっと怖い夢を見ただけだから」
「ノアさま……」
ノアの口調が分からずに話し方が変な感じになってしまう。
ルイスが4歳くらいに見えたから、双子のノアもそのくらいの年齢だろう。
どうしよう、子ども特有の喋り方が分からない。
「お仕事の邪魔してごめんなさい。ぼく、もう一回寝るよ」
おれは仰向けになって、掛け布団を掴んで引っ張る。
「ノアさま」
「ん?」
でも、サラに止められてしまった。
「ノアさま。眠る前に聞いてください」
「なぁに?」
「………」
「サラ?」
「……話し方はノアさまが喋りやすいもので大丈夫ですよ。自分のことをぼくでもおれでもお好きなように話してください。あなたはノアさまですが、今は一時的な記憶喪失ということなのでノアさまになりきる必要はありません」
「!」
そう言って、サラはおれに掛け布団を肩まで掛けてくれた。
「皆、ノアさまを心配しております。……ノアさまの体調が早く治りますように」
サラは目を閉じて祈り始めた。
(仕事かもしれないけど、こうやってノアの様子を見に来てくれる使用人がいるじゃん。サラはルイスがルイーザになった時に何とか出来なかったのかな……)
祈るサラを見ながら、おれはそんなことを思った。
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