ギャルゲ主人公、水族館に行く。
来たるデート初日。俺は待ち合わせ場所の駅前の噴水で莉愛を待っていた。全方位から女性の視線が向けられる。しょうがないよな、俺ってイケメンだし。
「琉依お待たせ〜!」
暫く待っていると莉愛がやって来た。私服可愛い。今日はメイクをしているようで、いつもより大人っぽく見える。というかメイクだけじゃ無い気がする。ちょっと見ない内に大分大人びたんじゃないか?前はただひたすら可愛いだけだったのが、今は綺麗さもあるような。
「莉愛。思ってたより早かったな」
「そう?久しぶりに会うの楽しみで早目に来ちゃったかも」
何だこの可愛い生き物は。
「…そうですかい。じゃ、ちょっと早いけど行くか」
「うん!」
水族館はここから徒歩で行ける距離にある。歩き出すと莉愛が腕に抱き着いてきた。いつも思うけど、莉愛はスキンシップが激しい所がある。俺にだけなら良いけど、他の男にもこうだったら流石に許せない。
「莉愛〜。俺以外には抱き着いたりしてないよな?」
「する訳無いじゃん。琉依の方こそ、他の女に抱き着かれたりしてないよね?」
「…シテナイヨ?」
たまにしか。
「……」
ギチギチと腕を締められる。
「ひぇ~ごめんなさい!同級生の女子とかにたまに腕に抱き着かれるんです!すぐ離れてます!お許しを〜!」
「そっちから聞いてきたくせに自分は浮気ですか~!?」
「違います!申し訳ありません!今後そのような事のないように注意致しますので!」
平謝りすると締め付けてくる力が緩む。腕千切れるかと思った。莉愛の中では腕に抱き着くだけで浮気なのね。気ぃ付けよ。
「ほら!早く行くよ!」
若干怒りながら莉愛に催促される。莉愛は腕を離してずんずん前に進んでいる。
「あ~ちょっと待ってってば。…あ、そうだ、莉愛」
これは言っておかないとな。
「なに?」
「今日の服似合ってる。可愛い。」
「…そんなんで許したりしないから!」
そう言いながらもまた腕に抱き着いてくる。嬉しそうな顔が隠しきれていない。
「…でもありがと。」
あ~可愛い。
水族館に着くと結構人が並んでいた。連休という事もあって家族連れが多いようだ。先にチケットを買っておいた俺達はさっさと館内に入った。順路通りに進んでいくと、一際大きな水槽に着いた。前には結構人が集まっている。見た所色々な魚が同じ水槽にいるようだ。
眺めていると、突然魚の群れが目の前を通り過ぎた。あれは多分イワシ。
「すごい!綺麗〜!」
莉愛は目を輝かせて子供のようにはしゃいでいる。確かにすごいけどそんなにはしゃぐ事か?女の子ってよく分からん。
「琉依!次あっち行こ!」
…まぁ楽しんでるならいいか。
暫く見て回ると昼になり、俺達は館内のレストランで昼食をとることにした。
「莉愛は何にすんの?」
「魚介のスープパスタ!」
「…あぁ、そう…」
さっきあんなに楽しそうに魚見てたのに。それとこれとは別ってか。血も涙もない女だな。
食べ終わると次は外のイルカコーナーに向かった。午後からイルカショーが始まるらしく、莉愛はそれ目当てで水族館デートにしたらしい。
「ほら早く〜!始まっちゃう!」
「はいはい」
入り口ではスタッフが合羽を配っていた。多分水かけられるとか言うアレだろうな。スマホは仕舞っておこう。
「ご来場の皆さん、イルカショーの始まりです!今日披露してくれるのは、ルカちゃんとフィンくんです!」
空いている席に着いて暫く待っていると、アナウンスと共にイルカショーが始まった。トレーナーのお姉さんと共に2匹のイルカが入場し、様々な芸を披露する。隣では莉愛がすごいすごいと騒いでいた。そうしてショーも中盤に差し掛かった頃だった。
「続きまして、2匹の大ジャンプです!」
トレーナーが合図をすると、2匹が同時に高くジャンプをした。大きな音と共に水飛沫が観客席を覆う。
「きゃあぁぁ〜!!」
危なかった。合羽がなかったらずぶ濡れだったぞ。なんなら若干濡れたし。観客席は阿鼻叫喚だ。主に合羽を断った奴の悲鳴で。
「莉愛、濡れたけどメイクとか大丈夫か?」
「平気!ウォータープルーフだし!」
「うぉーたーぷるーふ…?」
よく分からんけど大丈夫なら良いか。
ショーが終盤に差し掛かると、トレーナーがアナウンスを始める。
「皆さん、行きますよ~?」
合図と共にフィンくんだかルカちゃんだかが観客席に近付き、背を向ける。そして…
バシャバシャバシャ!!
尾びれを上下に動かし、観客に思いっ切り水をかけた。
この野郎やりやがったな。生意気な面しやがって。笑ってんじゃねえよ。そんで莉愛は喜んでんじゃねえ。
ショーが終わり、会場から出ると莉愛がタオルを渡してくる。俺の彼女はほんっとよく気が利く。
「ふふっ、楽しかった~!」
「この後どうする?」
「お土産コーナー見たい!」
「良いよ、行こうか」
お土産コーナーはイルカショーの会場の近くにある。多分タオルとかを買わせる為だろうな。よく出来てるよ本当。
「ん?何だこれ?」
ふと、店内の隅にスタンプ台があるのを見つけた。そこには紺色のイルカのスタンプがあった。
「あぁ、これね。スタンプラリーだよ。水族館内のスタンプ集めたら、限定缶バッジが貰えるの」
「へぇ~、随分詳しいな。よく来るのか?」
「ううん、ここに来るのは小学生以来かな」
「じゃあ何でそんな詳しいんだ?」
莉愛はスタンプ台に触れながら、懐かしむような目をする。
「小学校の遠足で来た時に、葵とこれやったの。その思い出は葵ルートのストーリーにも関わってくるんだよ。」
「葵…」
幼馴染みか。自分で聞いておいて何だけど、他の男の話されるのはちょっと妬ける。しかもちゃんとイベント回収してるし。
「でも…結局その缶バッジ、嫉妬した他の子に捨てられちゃってね。ほら葵って、小学生の時からモテてたし。それで疎遠になったのもあるのかなぁ」
莉愛の指がスタンプをなぞる。
「今日のデート、水族館にしたのはね…嫌な思い出を上書きしたかったからなの」
寂しそうに笑いながらそう言う莉愛の手を握る。
「じゃあ…上書きできた?」
莉愛は少し驚いてから、今度はへにゃっと笑う。
「うん。今日、すっごく楽しかった。ありがとう。」
その言葉が聞けただけでも、来た甲斐があったってもんだ。
その日の夜。俺は明日のデートで莉愛をどこに連れて行こうか頭を悩ませるのであった。
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