ギャルゲ主人公、高校に慣れる。

 ある日の朝。俺が学校に着くと、手に大量のワークを抱えながら廊下を歩く女子の姿が見えた。あれはたしか…

「国枝さんおはよ、何運んでるの?」

同じクラスの女子、国枝さんだ。根岸とは反対側の、俺の隣だったりする。

「あ…橘くん、おはよう…国語のワークだよ。先生から頼まれちゃって…」

「そう?じゃあ俺も手伝うね」

 そう言って半分以上を持つ。こういう所でさり気ない優しさを見せておく。俺はイケメンなので。

「あ…ありがとう…」

「どーいたしまして」

 教室まで無言で歩く。国枝さんは大人しい性格で、休み時間も席で読書しているような、物静かな子だ。静寂にも慣れている様だが、俺は他人と沈黙のまま過ごすのは気まずいので耐えられない。

「く、国枝さんはさ」

「は、はい」

「国語って好き?」

「す、好きですよ」

「そうなんだ~」

「……」

「……」

 しまった。質問する事間違えた。国語のワーク運んでるからって安易な理由で決めるんじゃなかった。そりゃ好きだよな。読書してるんだから。

 再び訪れた沈黙に耐え切れず、また質問する。

「あ、じゃあさ、好きな本とかある?よく読むジャンルとか」

この質問なら話も盛り上がるのでは?

「えっと…最近は恋愛とか…」

「あ~恋愛か、いいよね~。何かオススメとかある?」

多分読まないだろうけど聞くだけ聞いてみる。

「…と、特には…」

「…そっかー」

「……」

「……」

話続かない(泣)






 教室に着くとちらほら人がいた。取り敢えず教卓にワークを置くと、国枝さんはワークを配り始めた。つられて俺も配りだす。ここで手伝わなかったらイケメンの名折れだ。

 こういう気遣いができる子って良いな。国枝さんも小柄で可愛らしい見た目だし、陰でモテてるんじゃなかろうか。

 終わったので席に着くと根岸が登校してきた。席に着くと、

「橘!おはよう!このワーク配ったのお前か?」

と聞いてきた。

「おはよ。俺も配ったけど、国枝さんが配ったよ」

というか配りだしたのは国枝さんだし。言わなきゃ失礼だと思う。

「そうなのか!国枝、ありがとな!」

「えっ…あっ…ど、どういたしまして…」

正直にお礼を言える所は根岸の良い所だ。しかし声がデカい。国枝さんは驚いたのかもじもじしながら返事をした。



 昼休み。俺と根岸が弁当を広げると、瑞季がこちらに近付いて来た。

「香織!一緒に弁当食べよ!」

どうやら国枝さんを誘いに来たようだった。国枝さんって下の名前香織って言うのか。いやそれ以前に、友達だったのかそこ2人。

ぱちっと瑞季と目が合う。が、思いっきり逸らされた。

「ふんっ!」

 瑞季はズカズカと自分の席に戻っていく。俺、何か怒らせるようなことしたっけ?

「やっぱ可愛いよな~英さん。橘〜、何で英さんと付き合ってねぇんだ?」

「いや俺もう彼女いんだよ」

根岸は鳩が豆鉄砲喰らったような顔をする。

「マジで!?初耳なんだが!!誰だ?このクラスにいるか?」

「いや他校。中学から付き合ってる」

「マジか〜。彼女どんな子?可愛い?」

「めっちゃ可愛い」

最初見た時は天使かと思った。

「あ~、俺も彼女ほし〜!!!」

まずはそういう事を大っぴらに言うのをやめた方が良いと思うぞ。




「マジで橘ズルすぎんだろ!やっぱ可愛い子はイケメンと付き合うもんなんだな~」 

「まー最近はあんまり会えてないけどな」

入学してからはまだ一度も会ってない。そろそろ会いたいとは思ってるけど。

「彼女どこ高?遠いのか?」

コイツめっちゃ聞いてくるな。いくら根岸でも莉愛は渡さんぞ。

「五色花」

「めっちゃ頭良いじゃん!すげ~。あ、じゃあ何で橘は五色花行かなかったんだ?お前なら行けたろ?」

「家から遠いんだよ」

「へー。じゃあ彼女の家も遠い感じ?」

「そんなに遠くはないけど、中学は違う」

「マジか!じゃあどうやって知り合ったんだ?」

 大分深堀りしてくるな。そんなに面白いか?他人の馴れ初めとかって。

 その昼は根岸に馴れ初めを聞かせるだけで終わっていった。









 2階奥のとある教室。そのドアノブに手をかけ、ゆっくり開ける。初めて入る部屋に若干の緊張を覚えながら足を踏み入れる。既に紫乃と椿がいた。

「ようやく来ましたわね!先輩を待たせるだなんて、いい度胸してるじゃありませんの!」

「先輩方が早すぎるのでは?」

これでもホームルーム終わってからすぐ来たんだが。

「紫乃のお菓子はもう開けてましてよ!」

「…そのまま食べきっても良かったのに」

「あら何か言った?」

「いえ何も」

 今回から持ち寄るお菓子は俺と紫乃で1つずつになった。俺としては自分だけで選びたかった。ポテトチップスオクラ納豆味。どこで売ってるんだよこんなの。

 自分で持ってきたお菓子を開けながら、資料室を見回す。電気はついているが薄暗い。部屋の奥には大きな窓が1つある。壁沿いに本棚が設置されており、資料が雑に並べられていた。その数はあまり多くなく、人が殆ど使わないのも納得だった。

 部屋の中心にある大きめの机を囲んで座り、世間話をする。2人はどうやら先輩風を吹かせたいらしく、もう学校には慣れたか、友達はできたかなど、学校生活について今日の根岸並に聞いてくる。

「もう高校にも大分慣れましたよ。友達もできたし。」

「貴方みたいに生意気な方でも友人はできますのね」

「いやぁほら俺ってイケメンだし、性格良いじゃ無いですか〜」

お茶を一口飲んで、紫乃が言う。


「いい性格してるの間違いじゃないかしら」

「どういう意味ですか?それ」

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