ギャルゲ主人公、先輩に出会う。

入学して1週間が経った。授業が始まり、皆も高校生活に慣れてきた頃だ。俺は放課後、校舎裏に呼び出されていた。目の前には1人の女子。

「あ、あのっ!入学式で見たときから好きでした!!付き合って下さい!」

成る程、やっぱり告白か。

「あ~、ごめん。俺もう彼女いるから」

「えっ…そ、そうですか…そうですよね…」

悲しそうな顔をして俯く。が、すぐにパッと顔を上げ、

「あの…彼女さんってやっぱり…」

と言い辛そうに言葉を紡ぐ。

 ん?莉愛の知り合いか?いや、おそらく違うだろう。…何だか嫌な予感がする…。

「英さんですよねっ!」

やっぱりかー!

「いや、違うよ。彼奴とは別に…」 

何やら変な誤解をしている。直ぐ様否定するが、

「隠さなくていいんです!2人共よく一緒にいるし、楽しそうに話してるし…」

と聞く耳を持たない。そして、

「やっぱり…付き合ってたんだぁー!!」

泣きながら走り去って行った…。

 いやこのままでは不味い!俺と瑞季が付き合っているなどという噂が流れたら色々不味い!追いかけなければ!

 彼女の後を追って俺も走り出す。すると、

ドンッ!

「うおっ!」

「きゃあっ!」

バサバサッ!

誰かに勢いよくぶつかり、尻もちをつく。目を開けるとそこには、

「何ですの!庶民ごときが私にぶつかるだなんて!無礼者!」


 毛先が波打った長く美しい金髪。

椿の花弁の色をした、気が強そうな瞳。

形の良い口から出る、プライドの高い言葉。



…3人目のヒロイン、冬園椿が尻もちをついていた。



 マジかよ。ゲーム開始までは関わらないと思ってたのに。

そのままにしてはおけないので、

「すみません。走っていたもので、前をよく見ていませんでした」

手を差し出して彼女を助け起こす。

「本当ですわ、全く…あら、貴方何だか見たことある顔してますわね。芸能人か何かかしら?」

一瞬声が柔らかくなる。

「は?いやそんな事は…」

いきなり何を聞いてくるのかと思えば。

すると一気に目を釣り上げ、

「じゃあ本当に只の一般人じゃないですの!冬園グループの社長令嬢である私の制服を汚した罪は重くってよ!」

と叫ぶ。

「いや本当すみませ…ん?」

頭を下げた視界に何かが映る。視線を向けるとそこにはお菓子の袋が散らばっていた。さっきぶつかった時に聞こえた物が落ちるような音の正体はこれだろう。

 しかし何故にお菓子?しかもお嬢様が食べるような高級菓子ではない。コンビニやスーパーで売っているような、庶民向けの袋菓子。

「貴方どこを見て…あ、あ、あぁー!!!!」

胡乱げな目が一転して焦ったように見開かれる。急に出された大声に思わず驚いた。

「こここれは違いますわ!こんな庶民の食べ物なんてこの私が食べる訳がなくってよ!」

と慌てて取り繕う彼女に問いかける。

「じゃあ何でこんな所に散らばってるんですか」

「ぐっ、それは…そう!きっと元から落ちていたんですわ!」

いや無理があるだろそれは。

「でもさっきまでは無かったですよ」

「じゃあ貴方の物ですわ!そうに違いありませんわ!」

苦しすぎる。言い訳が。というかそんなに否定しなくても。お嬢様がコンビニの袋菓子食べたって犯罪じゃないんだから。そんなにいらないって言うなら貰っちゃおうかな。

「じゃあこれは俺が貰いますね」

と散らばった袋菓子を集める。結構な数あるなこれ。

「あっ、返しなさい!泥棒!」

やっぱりお前のかい。

「何でですか?これは『俺の物』なんですよね?だったら返すも何もありませんけど」

「くっ、生意気な…。えぇそうですわ!認めますわよ!それは私の物ですわ!」

やっと認めた。お菓子とプライドを天秤にかけてお菓子が勝ったか。


 


 「私、ずっと庶民の物に興味がありましたの…」

そう言ってコンクリートの上に座り込む椿は袋菓子の1つを開けようとする。おい制服。汚れるけど良いのか。

「でも家ではそんな物出されませんし…周囲の人間の目を気にしてずっと言い出せずにいましたの…」

開け方が分からない彼女の代わりに袋を開ける。

「言えばよかったじゃないですか。別に良い所のお嬢様が庶民向けの物に興味持っちゃいけないなんてルール無いですよね」

そう言って袋の中身を1つつまみ、口に放り込む。

「周りには上流階級の人間しかおりませんでしたし、そんな話は到底…貴方何勝手に食べてますの?」

バレたか。

「良いじゃ無いですか。知られたくないなら周りには黙ってますから」

「口止め料という訳ですわね…まぁ良いですわ。それで…」

あ、話続けるんだ。

「今日初めて買ってみましたの。放課後、誰にも見られないようこっそり食べるために校舎裏まで来ましたのに…」

俺がいた訳か。

「お嬢様なのに1人で買えたんですか?」

と疑問をぶつける。

「貴方いちいち喧しいですわね…。1人ではありませんの。友人に手伝って貰いましたわ」

「あら先輩ったら、友人がおりましたのね~」

ふざけて椿の口真似をしてみる。

「きぃーっ!生意気な1年ですこと!冬園家の一人娘である私に向かって…。あらやだ私ったら、自己紹介がまだでしたわね。」

そう言っていきなり立ち上がる。俺の前に仁王立ちして

「私は2年4組冬園椿。かの有名な冬園グループの社長令嬢ですわ!」

おーっほっほと高笑いする彼女をスナックを食べながら見る。お、この味意外とイケる。塩昆布キャベツ味。チョイスは謎だけど。

「貴方、名前はなんと言いますの?」

あ、俺も言う流れかこれ。

「1年1組、橘琉依です」

「橘、琉依…」

椿は合点が行った、と言うようにぽんと手を打つ。

「思い出しましたわ!貴方、新入生代表ですわね。木下生徒会長に強めに叩かれていた」

「その情報いります?」

あの生徒会長木下って名前なのか。



 「というか、ご友人は?一緒に食べないんですか?」

「実は約束してるんですの。もうすぐ来ると思いますけれど…」

「だったら俺帰った方がいいですかね?」

「…ここまで来たら別にいても構いませんわ。友人も駄目とは言わないと思いますし」

友人か…。俺が思うに、この友人とは…





「貴方、うるさいわよ。離れた所まで声が聞こえてきたわ」


薄紫の真っ直ぐなロングの髪。

濃い紫の瞳が冷ややかに向けられる。

背筋を凛と伸ばし、こちらを見下ろしているのは…


「紫乃!ようやく来ましたのね!」


やっぱり。4人目のヒロイン、藤堂紫乃だ。

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