ギャルゲ主人公、入学する。

「―以上、新入生代表、橘琉依」

 私立葉華高校第82回入学式。俺は、たった今。



…新入生代表の挨拶を終えました。




 そうだった。入試で1位のやつが代表の挨拶するんだった。前世でも同じ内容習ったし受験勉強もある程度したから、そりゃ1位とるよな。

「在校生代表と新入生代表は、握手をしてください。」

生徒会長が差し出した手を握り返す。今の生徒会長は男だ。それもそのはず。ゲームスタートは俺が2年生時点の話。まだ藤堂紫乃は生徒会長ではない。

「頑張れよ!」

生徒会長がバシバシと肩を叩いてくる。力強いこの人。拍手に混ざりクスクスと笑い声が聞こえてくる。笑い事じゃねぇよ。痛いんだからな。


「それでは、新入生は退場してください」

とアナウンスの声が響く。誘導に従って教室に戻る。俺と瑞季は1組だが、ヒロインの1人、端野菫はどうやら違うようだ。

 葉華高校は各学年4クラス、各クラス40人。2年生からは文理でクラス分けがされる。俺はゲームでは理系だった。現実でも理系を選ぶつもり。




「ねぇねぇ、あの人カッコよくない?」

「分かる〜!新入生代表だったよね、顔も頭も良いとかヤバ〜!」

教室で席に座り担任を待っている俺の耳にそんな会話が聞こえてきた。そちらに目をやり、ニコッと笑いかける。

「「キャー!」」

とその子たちは黄色い声を上げる。満足気に前を向く俺の頭が突然バシッと叩かれる。

「いってぇ!」

「何鼻の下伸ばしてんのよ」

「良いだろ別に。ファンサだよファンサ」

「何がファンサよ。調子乗っちゃって」

ガラガラッ

「おーしお前ら席につけー。ホームルーム始めっぞー」

気の抜けるような緩い声がして、気怠げな男が入って来る。

「俺は1組担任、山下満だ。担当は化学。よろしく」

俺はこの教師を知ってる。ゲームで主人公のクラスの担任だった。つまり俺は2年連続この教師のクラスだということだ。

「まずは自己紹介からだな。出席番号順にやってけー」

投げやりにそう言って椅子に座る。適当な人間だが生徒からは親しまれていた。山ちゃんだのヤマセンだのミッチーだの好き勝手に呼ばれていた。お、次俺だ。

「橘琉依です。よろしく」

営業スマイルも付け加えておくと、女子達が色めき立つ。イケメンは辛いよ。





 ホームルームも終わり、解散の流れになった。今日は入学式だけだったので午前中で終わりだ。俺は莉愛と待ち合わせをしているファミレスに向かった。

「あ、琉依こっちこっち〜」

店内に入ると、入口付近の席に莉愛が座っているのを見つけた。向かい側に座ると、メニューを渡される。

「お待たせ」

「おそーい!もう私注文決めたから、琉依もさっさと決めちゃって!」

「莉愛は何にしたの?」

「魚介のトマトクリームパスタ」

「じゃ俺もそれで」

「決め方適当じゃない?」

「決断力があると言ってくれ」


 店員を呼び、注文を済ませる。俺は莉愛に向き直り、

「どうだった?今日の入学式」

と尋ねた。莉愛は待ってましたと言わんばかりに

「めーっちゃ緊張した!ヤバすぎだよ~。全校生徒に見られてるんだから!」

と捲し立てた。莉愛はゲーム通り、新入生代表になった。

「花野紫陽には会ったの?」

「うん、会ったよ。ゲーム通り早目に登校して、流れの確認した時にちょっと話した。めっちゃ緊張して心臓バクバクでさ~。苦笑いされちゃった」

それはもしかして。

「出会い編イベントってやつ?」

「う~ん、どうなんだろ?会話とか若干違ったし。それより、

そっちこそどうだったの?代表挨拶、したんでしょ?」

「俺はそんなに緊張しなかったかな」

「え〜なんで〜?」

「いや俺イケメンだから。イケメンは多少失敗しても許されるんだよ」

「はぁ〜?何それ」

「莉愛もそう考えればいいじゃん。自分は可愛いから多少の失敗も許されるって」

何だコイツって目はやめてください。




 料理が来たので食べながら話を続ける。

「結局秋葉とは会えたの?」

「会えたっちゃ会えたけど…」

「会えたけど?」

「話しかけようとしたら、葵に話しかけられて…」

「葵って、幼馴染みの?」

「そう、それで葵と一緒にいた他の男子にも話しかけられて…」

ふ~ん。男子とね。へぇ~。

不機嫌になった俺に構わず話を続ける。

「秋葉だけじゃなくて、他の女子からも印象悪くなったかも…」

一気に落ち込んだ様子を見せる莉愛を慰めようと口を開く。

「大丈夫、莉愛ならすぐ友達できるって。ほら、奢るから元気だしな」

するとコロッと表情を変え、

「ほんと?じゃあデザート頼も〜」

と元気にそう言う。

しまった。嵌められた。





 目の前にそびえ立つのは季節限定春の苺フェアメニュー、たっぷり苺のDXパフェ。その向こうには目を輝かせる莉愛。

俺は財布から飛び立つことが確定した札達に別れを告げた。

「そう言えば、琉依は友達できたの?」

苺を口に運びながら莉愛が尋ねる。

「俺はまだ。そんなに周りと話す機会なかったし」

「琉依がヤバい奴だからじゃなく?」

「ちげぇわ!女子達にはキャーキャー言われてたし!」

あ。

「…ふ~ん。キャーキャー言われてた、ね…」

「いや、違う、今のは…」

ピンポーン

「ご注文お決まりでしょうか?」

「チョコアイス1つ!」

「かしこまりました」

やらかした。

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