ギャルゲ主人公、告白する。

「それにしても、まさか主人公同士で出会うなんてね…」

 莉愛の呟きも最もだ。ただの偶然だったとしたら最早奇跡だろう。

 暫く2人の前世について話した。驚くことに、莉愛の前世は俺が死に際に助けようとした女子高生だった。俺は結局あの子を助けられなかったらしい。最期まで本当に格好つかない男だな、俺は。だがそれを言ったとき、莉愛は泣きながら謝罪と感謝を述べた。

「前世じゃ家族仲も冷え切ってて友達もいなかったし…私を助けてくれる人なんていなかった。それで乙女ゲームにハマったの。だから最期に助けようとしてくれたの、本当に嬉しかった…。死にたかった訳じゃないけど、死ぬときは辛くなかったなぁ。」

俺は何となく複雑だった。最期に彼女の心を救えたのは良かったかもしれないが、結局命は助けられなかった。






 その後も話を続けた。2人とも中1の頃に前世を思い出したようで、莉愛も最初は逆ハーレムを目指したんだという。

「じゃあ逆ハー目当てで五色花行くの?」

「最初はそのつもりだったんだけど…今は違うかな」

「…じゃあ誰か1人を攻略するため?」

「違うよ。近いからってだけで…。誰か攻略して欲しい人でもいるの?」

「違う、逆だ。莉愛には誰も攻略してほしくない。」

「…それは、何で?」


何でかって?そんなの…



「莉愛のこと、好きだから」




莉愛の顔が朱に染まる。潤んだ瞳が背けられる。

「そ、んな…冗談」

「冗談なんかじゃない」

「だって、こんなの…都合が良すぎて…」

「都合が良すぎて?」

莉愛の顔を両手で挟み、こちらに向けさせる。

「つまり…どういう事?」

優しく、少し意地悪に尋ねる。ああ、俺は今きっと、締まりの無い顔をしているに違いない。



「私も…琉依が好き…」


部屋に射し込む夕日に照らされ、2人の影が重なった。








「ぶはぁ〜…疲れたぁ…」

夜。風呂から上がった俺はベッドに倒れ込んだ。色々あったせいか肉体的にではなく精神的に疲れていた。

「ふ…ふふヘッヘッヘ…」

未だに数時間前の余韻から抜け出せないでいる。今日は今まで生きてきた中で最高の1日だ。


 あの後、ちょうど莉愛の両親が帰ってきた事により甘々ムードは終わりを告げた。一応挨拶してから帰ろうとすると、

「莉愛が男を家に連れ込んでる!!!」

と騒ぎ出したためすぐには帰れなかった。莉愛の父親には

「娘とどういう関係なのか」

と詰め寄られたため

「さっき彼氏になりました」

と言うと膝から崩れ落ちていた。莉愛の母親は

「やだ莉愛ったらやるじゃない!!隅に置けないわね~」

と冷やかしていた。莉愛は顔を赤らめてソワソワしていて可愛かった。


 帰る時には一家総出で玄関で見送ってくれた。お義父さんは

「二度と来るなぁ!!!!!」

と叫んでいたし、お義母さんは

「また何時でも遊びに来てね~」

と真逆の事を言っていた。莉愛は控えめに笑いながら手を振っていた。

 帰ってからはずっとうわの空だった。何を言ってもずっと生返事ばかりの俺に、終いには千百合までもが

「気持ち悪…」

とドン引きした視線を寄越してきたが、大して気にもならなかった。






 数ヶ月後。

高校受験を控えた俺達は、莉愛の家で受験勉強をしていた。と言っても、2人共成績は良いので割と余裕がある。勉強とは名ばかりだ。

 結局ゲーム通り俺は葉華高校、莉愛は五色花高校に進学する事に決めた。同じ高校に通いたいという気持ちも無くはなかったが、どうせなら好きだったゲームの舞台を見たい、感じたいという意見が合致したのでそれぞれ別の高校にしたのだ。学校じゃなくても会えるし。

 進んですらいなかったシャーペンを握る手を止めると、

「莉愛、今後の事について話し合わない?」

と提案する。莉愛は動きを止めると、顔を赤らめて髪を弄りながら、

「こ、今後って、急にそんな、えぇ~?まだ早いんじゃない?別に琉依となら…まぁ…一緒に暮らすのも…吝かではないけどぉ…」

何か勘違いしているようである。

「いやほら、ゲームの事。お互いにゲームの内容知らないじゃん?情報は共有しておかないとって」

「あ、あぁ~それね?そっちね?そうだね…確かに…共有しないと…」

少し残念そうにしている莉愛に囁く。

「同棲についてはそのうち…ね?」

ぼんっと音が出そうなほど顔を赤くする莉愛を横目に、数ヶ月前発見した『恋狂』ノートを机から取り出す。何度もここには来ているので勝手知ったる人の部屋。

 

 会うときは基本外か莉愛の家だ。俺の家には千百合がいる上、頻繁に俺の部屋に突撃してくる。瑞季も同じく。千百合程ではないが突然押し掛けられて

「遊びに来てやったわよ!」

と言ってくる。千百合と鉢合わせたら最悪だ。生意気な千百合と横暴な瑞季。この2人は絶望的に仲が悪い。何度仲裁させられたことか。

 莉愛の家は両親が不在にしている事が多いので2人きりでゆっくり過ごせる。外でデートしない時はいつも莉愛の家に来ていた。


 それはさておき、まずは『恋狂』のストーリー確認だ。俺には関係ないように思えるが、このゲームのヒロインは今では俺の彼女。他の男との恋愛フラグなど潰すに越した事はない。

 机の上にノートを広げ、2人で覗き込む。

「大体の内容はここに書いてあるから、質問とかあったら何でも聞いてね」

「分かった」

 そして表紙を捲り、読み始めた。

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