ギャルゲ主人公、義妹ができる。
中3になった俺は母さんと料亭に来ていた。わざわざこんな所に来るって事は大事な話があるんだろうってのはお察し。
数週間前、夕飯の後に母さんが神妙な面持ちで話を切り出した。
「琉依、私が再婚するってなったらどう思う?」
そう、実は母子家庭なのである。父親の不倫で離婚したと言うが、幼い頃の話なので俺は父親の顔すらろくに覚えてない。搾り取った慰謝料があったとはいえ、女手一つでここまで育ててくれた事には感謝しかない。
「別に…俺は良いと思うけど」
「そう…実は母さん、結婚を考えてる人がいるの」
これには別に驚かなかった。そんな予感は何となくしていたし、何よりこれはゲームのストーリーに関わってくる事だったからだ。
橘千百合。『はな♡きすっ!』のヒロインの1人だ。親同士の再婚によりできた主人公の1つ下の義妹。オレンジの髪をサイドテールにまとめ、黄色の瞳は常に人を小馬鹿にしたように笑っている。大人には猫を被るが、主人公や他のヒロインには生意気な態度ばかりとっていた。ゲーム開始は高2の新学期から。それ以前の様子は描写されてないが…
「この料亭、嫌いな物ばっか出るから嫌なんだけど~」
この調子だとゲーム以前からずっと生意気だったんだろう。親同士で話すからと庭に追いやられ、2人きりになった途端にこれだ。初対面の俺に遠慮した素振りなど欠片もない。さっきまでは
「千百合ちゃん、ここのお料理どう?」
「美味しいです〜」
とか言ってたくせに。千百合もそうだが母さんも猫を被り過ぎではと思う。
「あんたが私のお兄ちゃんか〜。まあ及第点ってとこかな!」
何様だ貴様。
しかし俺にも義妹ができるのか。生意気だがいざ一緒に住むとなったら可愛く思うんだろうか。ハーレム要員が増えた事より、前世含め一人っ子だった俺に義理とはいえ妹ができる事への感慨の方が深い気がする。
…そういえば、最近あんまりハーレムを強く意識してない気がする。いつからだろう。
結局何事もなく再婚に至った。式は挙げないが旅行には行くと言う。3日ほど家を空けるから2人で留守番よろしくと言われた。…大丈夫だろうか。
結論。生意気な妹とは可愛くないものである。
この3日間本当に地獄だった。口を開けば
「あれ買ってきて」
「これやっといて」
「早くしてよ」
ばかりである。新しい父さんも帰ってくると
「お疲れ様、琉依くん。千百合の我儘に付き合わされて大変だったろう?」と言う始末だ。
「いえそんな事は…まあ…ちょっとしか…」
「はは…すまないね。母親がいないからと、今まで甘やかしてきてしまったんだ。」
「それは…仕方ない気もします」
これは本心だ。母さんは俺を甘やかしてはなかったが、父親がいない事への気負いはあったと思う。
「まあとにかく…これからは僕達も家族だから。何でも相談してくれ。敬語も無くしてくれると嬉しいな」
「ああ…分かった」
『へぇ~、義妹できたんだ!仲良くなれそ?』
夜。俺はベッドに寝っ転がりながら莉愛と電話していた。出会った頃と比べると結構砕けた感じで話すようになったなぁ。
「無理ぃ…すっげー生意気だし…俺のことパシリにするし…」
『あははっ!大丈夫だよ~きっと。悪い子って訳じゃないんでしょ?』
「…まあね」
悪い奴ではない、と思う。母さんと早々に意気投合してたのも猫被りじゃないだろうし。
『でもなんだかんだ面倒見てるあたりやっぱ琉依って優しいよね〜』
「えーそんな事…あるよな〜!もっと言って〜!」
実はこの1年で呼び捨てされるようになった。俺が莉愛を呼び捨てするのにつられたらしい。
『あ、私そろそろ寝るね~』
「ん、分かった。おやすみ」
『うん、おやすみ』
通話を切って仰向けになる。寝る前の通話は何度かしてるが、莉愛のおやすみはいつも優しい声なので耳が幸せになる。
…俺はやっぱり莉愛が好きなんだろうか。今まで曖昧な感じのままアタックだけしてたけど。ハーレムには関係ないのに、今となっては女子で1番仲が良い。莉愛の些細な言動一つ一つに目が行くし、ころころ変わる表情にドキドキしたりする。瑞季や千百合には微塵もそんな風に感じた事ないのに。
…こういう事考えてる時点で、やっぱ好きなんだろ!!!莉愛のこと!!!
決めた!!!ハーレムとかもうどうでもいい!!!俺には莉愛だけで良い!!!莉愛だけが良い!!!ゲームとかもう知らん!!!俺はギャルゲーの主人公じゃない、橘琉依としての恋に生きる!!!
勝算だってない訳じゃない。向こうも少なからず俺に好感は抱いてる。はず。じゃなかったら寝る前に通話なんてしないだろ。呼び捨てになんてしないだろ。自分から連絡先交換しよとか言って来ないだろ。つまりこれは脈アリ。QED.振られたらその時はその時だ。
だったら早いとこ決着つけないとな。
「…次会うとき。絶対告白する」
いつになるかは分からんけど。
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