ギャルゲ主人公、乙女ゲーヒロインと勉強する。

翌日。

 俺は昨日と同じく暑い日差しの中公園への道のりを歩いていた。愛しの咲良さんに会えるかもしれないという期待を抱いて。すると…

 「あ、橘くん!」

 向こう側から咲良さんが歩いてきた。なんという偶然だろうか。もはや運命なのでは。ありがとう神様。

 「昨日ぶり、咲良さん。今日は1人なんだ。」

と冷静を装っているが内心荒ぶっている。今日の咲良さんはポニーテールに水色のワンピースで手提げバッグを肩にかけている。可愛さと暑さで脳が溶けそう。

「うん。これから図書館まで課題やりに行くんだ。」

「歩きで?こんな暑いのに?」

「自転車今修理に出してて…。」

「じゃあ自転車で乗っけて行こっか?俺も図書館で課題やろっかなって思ってたし。」

 嘘である。

「いいの?じゃあお願いしよっかな。」

 ありがとう神様。


 家に寄って課題と自転車を回収した俺は2人の荷物をカゴに入れ、荷台に咲良さんを座らせた。

「ちゃんと掴まっててね。」

「うん!」

咲良さんが俺の腰に回した腕に力を入れる。俺は背中に当たる感触に意識を集中させながら、図書館までの道を漕ぎ出したのだった。






 「咲良さんはどれ位課題残ってる?」

「数学だけ。数学苦手なんだよね~。橘くんは?」

「俺は英語と国語。でもそんなに残ってない。数学苦手なら俺教えるよ?得意だし。」

「わあ~助かる〜!」

 図書館に着いた俺達は学習スペースで残りの課題を広げていた。図書館もコンビニ同様、クーラーが効いていて過ごしやすい。

「じゃあ始めるか。分からないところあったら聞いて。」

「うん。英語と国語なら私得意だから。橘くんも聞いてね!」

 なんと。咲良さんは文系女子なのか。どちらかというと理系の俺とは、まるでぴったりはまるパズルのピースみたいに相性が良いということか。互いを補い合える関係性…イイ!



 「ねえ橘くん。ここの問題なんだけど…。」

「ああ、これは図の見方をちょっと変えて…。」

 見てて思うが、咲良さんは数学が苦手と言いつつ結構出来てる。そもそも頭が良いんだろう。可愛くて頭も良いとか最高か?俺も中学のテストじゃいつも1番だけど、前世で1回やってるし。前世で難関ではないにしろ国立の大学を出ていた俺にとって、中学の勉強など赤子の手を捻るより楽な作業よ。

 

 「そういえば咲良さんってどこ中?」

「東中だよ。橘くんは?」

「俺は南中。」

「そうなの?家から学校まで結構遠くない?」

「まあ若干距離あるけど、東中よりは近いかな。」

「確かにそうかぁ。」

なるほど、咲良さんは東中なのか。『はな♡きすっ!』の舞台である私立高校は東中の校区からは遠い。東中なら近いのは五色花高校で…




 五色花高校?何か引っかかるような…。




「…くん、橘くん?大丈夫?ぼーっとして。」

「え?ああ、大丈夫。」

「そう?なら良いんだけど…。課題で疲れたのかもね。残り少ないし、さっさと終わらせよ!」

「…そうだね。」

そうだ、五色花高校なんて『はな♡きすっ!』には関係ないだろ。それより咲良さんと過ごす時間の方が大事大事。




 それから課題が終わった俺達は帰ろうとしていた。

「家まで送って行こっか?」

ストーカーみたいで我ながら気持ち悪いが、家の場所が知りたい。

「え?そこまでしてくれなくても…」

「良いから。もう夕方だし、1人だと心配だから。」

建前である。

「…そこまで言うなら…。」

ありがとう神様。


 来た時と同じように座ると、後ろでふふっと笑う声がした。

「どうかした?」

「いや…私、いろいろとお世話になってるな~って。」

「俺が勝手にしてる事だから気にしないで良いよ。」

「そっか。でも…ありがとう。」

優しい声に、胸が高鳴った。

「…じゃあ、ちゃんと掴まっててね。」

「うん。」

背中の感触にも、胸が高鳴った。




 「今日はありがとね!楽しかった!」

「こっちこそありがとう。」

咲良さんの家に着いた。道案内してもらう時に耳元で声が聞こえるのでちょっと興奮した。

「じゃあ俺はこれで」と漕ぎ出そうとしたが

「あ、待って!」

ピタッと動きを止め、振り向くと…





 「あのさ…連絡先、交換しない?」



 俺はNOと言えない日本人である。




 自室にて。

 「グッヘッヘッヘ…手に入れたぞぉ…連絡先ィ…」

 ベッドに寝転がる俺は山賊のような笑い声を上げていた。

帰り道で浮かれ過ぎて溝に嵌りかけたのは内緒だ。ニマニマしながら『莉愛』と表示された連絡先を見ていると、ピコンッと通知音がした。

「うおっ!来たァ!」

と秒で開くと、『よろしくね』と書かれた猫のスタンプが送られていた。すぐに『よろしく』と書かれたスタンプを返す。既読無視する男だと思われたくないので。

 猫のスタンプということは猫派なのか?いつか飼いたいって言うかもしれないし世話の仕方とか調べておいた方が…等と同棲前提で思考を進めるうちに夜になった。

 俺は連絡先を手に入れた満足感と共に眠りに…








 「あぁっ!!」

 五色花高校って乙女ゲームの舞台じゃん!!

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