ギャルゲ主人公、乙女ゲーヒロインに出会う。

俺と莉愛との出会いは、中2の夏に遡る―。

 





 「はぁ…暇。めっちゃ暇。」

 夏休みに入った俺は暇を持て余していた。

7月中にブーストを掛けたおかげか半分も残っていない課題を進める気にもならない。ここ数日の暑さのせいで外出する気も起きず、8月に入って1週間も経たないうちに、俺は出不精という妖精に取り憑かれていた。

 「琉依、どっか出掛けたら?折角の夏休みなのに。」と母さんが言う。

 「えーやだ。」と返すが母さんは気にも留めず

 「そうだ!コンビニでアイス買ってきてよ!外出ないと体に悪いでしょ!」と捲し立てる。

 

 結局押し切られた俺はサウナのように蒸し暑い外に締め出された。

 「あぢぃー…。焼け死ぬぅ…。」

 思わず情けない声が出た。強い日光がじりじりと肌を焼いて、汗と共に活力まで流して行くようだ。コンビニまでは割と近いが、万里の長城のように長く感じる。

 公園で子供達が遊んでいるのが見える。水遊びをしているようだ。楽しそうで、少し羨ましい。精神年齢で言えば既に40は超えているが、童心を忘れたことはない。

 

 少し歩くとコンビニに着いた。クーラーが効いていて失った活力が戻って来る。悩むフリをしてしばらく涼んでからアイスを選ぶ。自分用には2人で分けるタイプのアイスを買う。男の子だもん、これ位食べたい。母さんにはお値段が高めのアイス。文句を言われないようにする配慮だ。

 会計をしてコンビニを出た瞬間、むわりとした空気に出迎えられる。これが嫌だから外に出たくないのだ。だんだんイライラしてきた。暑さで相対的に沸点が低くなっているようだ。

 

 来た道を戻って公園に差し掛かったときだった。

 「危ないッ!」

  ばしゃん!

 一瞬何が起きたか分からなかったが、左半身を見ると濡れていた。足元にはゴムの残骸が落ちていたので、おそらく水風船が当たったのだろう。

 「ごめんなさい!怪我はありませんか!?」

 声がする方を見るとそこには―







 


 天使がいた。




 「ほんっとーにごめんなさい!」

 先ほどから平謝りをしている天使は、公園で子供達と遊んでいたらしい。子供の1人が投げた水風船が、運悪く俺に当たってしまったようだ。

 「ごめんなさい…。」

 天使に促されて1人の少年も謝ってくる。現在沸点の低い俺は、「おんどれこのクソガキャァ」と言う代わりに

 「ああ、全然大丈夫だよ!」と言った。なぜなら天使の前だったからだ。とうとう暑さで脳がやられたかと思うほどに可愛い天使は俺の幻覚ではなかったらしく、申し訳無さそうにこちらを見ている。

 「よーしじゃあこれでおあいこだ!」

 「うわぁっ!」

近くにあった水風船を少年に投げつける。見事クリーンヒットし、少年の服もびしょ濡れになった。周りの子供達が笑い出し、また遊び始めた。これで一件落着といったところか。



 「あの、本当に大丈夫ですか?服も濡れちゃったし…。」

「あー、大丈夫。どうせ安物の服だし。今日暑いからすぐ乾くよ。それに、君の方が濡れてるじゃん。」

 あの後俺と天使はベンチで話していた。彼女も水遊びをしていたせいか、俺より濡れている。服がぴったりと張り付き、身体のラインが浮き彫りになっていてエロい。特に胸元。割と大きい方なのでは。それでも発展途上なのだろう。将来が楽しみである。

 

 「あ、そうだ。これ」

と、自分用のアイスの片方を差し出す。

「え?良いんですか?」

「うん、良いよ。ずっと遊んでたなら暑いでしょ?」

「…ありがとうございます!」

天使が今日の日差しより眩しい笑顔を見せる。胸が高鳴った。


 アイスを食べながら俺達は世間話をした。天使の名前は咲良莉愛というらしい。名前まで可愛いとかマジか。

 そう、彼女は可愛い。ポニーテールにされた桜色の髪はおろすとセミロング位だろうか。夏空を切り取ったような瞳はぱっちりとしていて、長い睫毛に縁取られている。すっと通った鼻筋、ぷっくりとした唇。スラッとした白い手足、主に太腿は柔らかそうで。どこを取っても美少女である。


 しかしこんな美少女がなぜゲームに出て来ないのだろうか。髪色がカラフルな時点で出て来てもおかしくないような。ゲームにいたら真っ先に攻略するのに。

 

「あー!アイスずりぃ!」

「俺も欲しい!」

 子供達にアイスがバレた。

「ざーんねーんでーしたー!もーありませーん!」

「くそぉっ!これでも食らえ!」

「ぶっ!」

 俺のミケランジェロのような顔面に水風船がクリーンヒットする。すかさずやり返して子供達と乱闘になった。夕方頃まで水遊びは続いた。










母さんのアイスは溶けていた。シバかれた。

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