第12話  長い長い1日

「……足音か…ブラックドック」


那自がそういうと、ブラック・ドッグは立ち上がってドアのほうを見た。するとドアがノックされた。


「どうぞ」


那自がそう答えるとドアが開いた。そこに立っていたのはメイドのルシミスだった。


「那自様、お食事の用意が出来ましたので食堂までいらして下さい」


ルシミスはそう伝えるとその場を去ろうとした。


「待って!」

那自は、ルシミスに声をかけた。そして続けた。

「ねぇ……今…何時か知りたいんですけど…。」

「今は46時を過ぎたところです。」


(46? この世界の1日は24時間じゃないのか?)

「えっと……違うはなしで申し訳ないんですけど…その包帯は? 怪我でも?」


那自は、ルシミスの首筋に巻かれた包帯に気がついた。


「これは……少し火傷をしただけです」


「余計な詮索をしてしまいました。申し訳ない」

「いえ、食堂までご案内します」ルシミスはそう言うと、那自を連れて部屋を出た。


那自は素早くポケットにハンカチを入れて客室をあとにする。



「ねぇ……ルシミスさん」

那自は、前を歩くルシミスに問いかけた。

「何でしょうか?」

「ルシミスさんは……なぜボクを助けてくれたんですか?」

「それは、那自様がエレイン様の大切なお客様だからです」

「そうは見えないんだけど…ねぇ」那自はそういうと、ルシミスの背中を見つめた。

(背は高いが…とても……か弱い女性にしか見えない…すごいなここまで…。)

「ねぇ…ルシミスさん…今日…ボクは気がついた時こそ、酷い目にあったと思った…でも今は、とても幸せです。」ルシミスは、那自の言葉に何も答えず歩き続けた。

「色々と幸運に恵まれた…本当に…。でもねその中でも一番ラッキーなのは…【こんなとこにいるのにあんたが思ったより親切】だってことです」

「え?貴方…気づいて…。」

ルシミスは、そう呟くと立ち止まった。そして那自のほうを向いた。

「はい……気づいてます。」

「……」

「でも、私は何も見てませんし聞いていません。」

「そうですか……それはどうも……。」

那自はそう言うと、ルシミスの前に来た。そして優しく微笑んで続けた。

「アリスがからさ…「ありがとう…これからもよろしく」だって…だからさ…」


「僕からも…お願いするよ」


那自は、ルシミスに右手を差し出した。するとルシミスは引きつった顔をしてその右手を優しく握り返した。

「よし…いざという時…また助けてね」

那自は、そう言うと笑った。ルシミスは黙ったまま、那自の目をしばらく見つめていた。

そしてルシミスは口を開いた。

「私は……ただのメイドです。」

「うん……」那自は頷いた。

「だから……私ができる事は限られてます」

「うん……」那自は頷いた。

ルシミスの目には涙が溜まっていた。そして、その涙は頰をつたい流れ落ちた。

「だから……私は貴方を助けられないかもしれない」

「助けるさ」


 那自はそういうと、ポケットからハンカチを取り出して、泣いているルシミスに渡し、食堂に向かって歩き始めた。


「道は、覚えているさ…案内はいらないよ」

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