第10話 螺旋の精霊 その3

那自はそう呟くと、腕を上に上げて大きく伸びをした。


するとブラック・ドッグが尻尾を振りながら、どことなく不安気な表情で那自を見上げて

きた。

「ん?どうしたの?」那自がそういうとブラック・ドッグは口を開いた。


「クゥーン」


「ええ? 怒ってるって…? まぁそりゃあそうだろう…だってこの状況だよ?」


那自は両手を広げて、笑顔でブラック・ドッグに答えた。


「クゥーン……」


ブラック・ドッグは那自に擦り寄ると、頭をすり寄せた。

那自は、そんなブラック・ドッグの頭を撫でた。


 那自はベッドから

起き上がると、指をパチンと鳴らした。すると足元の床がメラメラと燃え上がった。 その炎は不思議な事にまるで魔法陣を

形作るように、燃え広がっていった。


そしてその炎から、 木製の首輪とリードに繋がれた。生えの顔を持つ長身の男が現れた。

男はニヤリと笑う那自に跪いた。そして口を開いた。


「これは我が主。大変な事になっているな。随分と気が立っているな、まぁまぁ長い付き合いだが、君のそんな姿を見るのは猟犬が怯えてるぞ。」


男はそう言うと、那自は鼻で笑った。


「気が立っている? ベルゼブブお前までそんな事を…そりゃそうだろ!」

 

 那自は人が変わったかのように、蝿の顔の漢、ベルゼブブに向かって言葉をまくし立てた。


「釈陽蜘蛛の糸を登りきり、ボクは自らの体で墓から蘇った。 家に帰るためにな…だがボクの墓は口かけていて…おまけに周りは見たこともないような植物も生い茂る森の中だった。 


 正直絶望したよ…ひょっとして、ボクは死を超越した当時に、時間を歪めて、タイムトラベルして蘇ってしまったのでは無いかって!!」


那自は、ベルゼブブにまくしたてる。だがベルゼブブは不敵な笑みを見せた。


「でも…主殿? タイムトラベルじゃなかったな。サイクロプス…魔物がいた。」


「ああ……あいつを見たときは、正直希望が見えたよ。 

 

 魔物が初めて現れたのは2038年東京と沖ので一匹づつ。ボクが死ぬ5年前だ…。 少なくとも過去にタイムトラベルしたわけではない。


 僕が死ぬ頃には魔物はほとんど掃討され対策も確立しつつあった。…ボクの仲間が魔物を絶滅させるのに手こずるとは思えない…。 従って遠い未来であることも考えられない。」那自は、そこまで話すと一息ついた。そして言葉を続けた。


「ボクはきっと…森を抜けて交番かなんかに駆け込んで…仲間に会えると思ったよ…。 家に帰れると思った…そしたどうだ? この状況だよ」


那自は、そう言うとベルゼブブはクスクスと笑いながら口を開いた。


「…見たこともない森に…魔法が使えると言い出す魔女を名乗る女…。

日本もアメリカもヨーロッパも存在しないと来た。 挙句の果てにオルレルケアとかいう聞いたこともない地名…完全にファンタジー小説によくある異世界というやつだな…。あぁそういえばあの魔女…転生者とか言ってたっけ…良かったな…異世界転生した…主人公さん!」


ベルゼブブはそういうと、声を上げてゲラゲラと笑い出した。それに釣られるように那自も笑い出した。

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