第9話 螺旋の精霊 その2

「そう……神話の中に登場する。 伝説上の存在。 太古の昔、空の果てからやってきたとされる存在で我々が今使っている言葉や時間の単位などの類をももたらしたと言われる存在何だけど…。神話の原典では、今のあなたのように、当初は理由のわからないことばかり言ったり、記憶障害を抱えていたとされているわ。確かに歴史を遡れば三十万年前に実在していた存在というやつもいたけど…貴方が…いや、まさかね。」


「……。」那自は、エレインの話に完全に絶句した。

「まぁ……とりあえず記憶喪失ということね? いいわ。ここに滞在なさい。


行く宛もないでしょう?  私が貴方の力になってあげる。記憶喪失である君では生活に支障が出るだろうし、聞いてくれればいろいろな事を教えてあげる。」

「本当に……何から何まで……ありがとうございます。エレインさん。」

那自がそう言うと、エレインはニヤリと笑った。

「気にしないで、どうせ私も暇だし。

でも一つだけ問題があるの…。 それは私が記憶喪失になってしまった事……。」

「というと?」

那自はエレインに質問した。エレインは言葉を続けた。

「今貴方の足元で寝ているワンちゃんの餌が、わからないのよ」


エレインは、那自の足元でイビキをかいて寝ているブラック・ドッグに目線を向けて、言葉を続けた。


「記憶喪失であるとはいえ、主である貴方はこの子の食べるものわからない?この子が餓死してしまうのは可愛そう。」

エレインは、那自にブラック・ドッグの餌について聞いた。すると那自は、少し考えて答えた。

「そうですね……。ボクと一緒にいたときは、人の食べるものなら何でも食べました。

でも特に好きな食べ物がある感じではなかったけど……とりあえず人間と同じでいいんじゃないですかね?」

「そうなの?じゃー何でもいいわけね?」

エレインの言葉に那自は頷いた。すると、那自の足元で寝ていたブラック・ドッグが目を覚ました。そして那自に擦り寄った。

「ワン!」

「おはよう……。ブラック・ドッグ」

「クゥーン……。」

那自は、足元にいるブラック・ドッグを撫でた。そしてエレインに話しかけた。

「エレインさん……この子の餌はボクが何とかしますから、安心してください」

「そう……。」

エレインはそういうと、再び紅茶を啜った。そしてカップを置くと口を開いた。

「さて……客室に案内するわ……ついて来て。」

エレインはそういうと椅子から立ち上がり、食堂から出ていった。那自もそれについていった。

「この階段を上がった先が客室だから……」

そう言い終わる前に、那自は背中に違和感を感じ後の方へ振り返った。

そこには薄気味悪い空間があった。だがしかし壁には壁紙が貼ってあり、階段の手すりには綺麗な細工がされている。

「いや……別になにも…なんでもないです。」


那自は見逃さなかった。 壁紙や手すり、階段の段に不自然な継ぎ目があることを


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「ふぅ〜気持ちいい」


那自は、案内された自分用の用意された客室のベッドに寝転ぶと、窓から差し込む夕暮れの光と心地いい風を感じながらそう言った。


「今日はいろんなことがあったけど…やっぱ生きてるって最高だなぁ」

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