第20話 解決
放課後。
叶乃と有紗は莉乃ちゃん達を呼び出した。教室に。教室には叶乃と莉乃ちゃん達だけがいて、有紗はベランダの陰で控えている状況だ。
窓の外からは夕陽が射し込み、何ともノスタルジックな光景。
でもそんな教室でも空気はピリピリとしている。
「話ってなに? うちら部活で忙しいんだけど。手短にしてくんない?」
「部活はお休みです」
莉乃ちゃんの言い訳を叶乃がバサッと切る。
「話は西野さんのペンケースが盗まれた件について、なのですが……」
「その話はもう終わったでしょ。あんたが悪い。有紗には謝ったんでしょうねえ?」
「謝りました。ですが……西野さんは私のことは許してくれました。でも、あなた達のことは許していませんよ?」
「はあ? どういう――」
「何度も申し上げるようですが、私はやっていません。私が西野さんのペンケースを盗むメリットがありません」
「ふーん。そこまで自分の非を認めないとか、ありちゃんに嫌われてもいいんだ?」
「――市原さんはやってないよ」
ここで有紗が登場する。
彼女は叶乃の前に立った。
「有紗……!」
莉乃ちゃん達は期待に満ちた瞳で有紗のほうを向く。
「――あの日、市原さんは私の机の上の消しカスを捨ててくれた。部活見学前、放課後の隙間時間に漫画を描いてたんだけど、その時消しカスを捨てるの忘れちゃって……。なのに、部活の見学が終わると綺麗さっぱり、机の上の消しカスが無くなってて……。市原さんに聞いたら、『私が消しカス捨てた』って言ってくれたよ? そんな優しい子がペンケースを盗むなんて、無いでしょ? 莉乃ちゃんはそんな事、知らないでしょ?」
確かに消しカス捨てて、ペンケース盗むという行為は不自然だ。
「うん。でも証拠は?」
「証拠? うーん、朝登校したら、まだ登校していない市原さんの机の中に私のペンケースがあった事かな? 放課後、ペンケースが無いか確認した時には、市原さんの机には無かったペンケースがね。でもそれは目に見える証拠じゃないから、信じて貰えるか分からない。だから、私が市原さんを信じていることが一番の証拠。そもそも私と市原さんの友情に証拠なんて要らない」
「……っ!」
莉乃ちゃん達は一歩後ろに後ずさる。
表情が少しずつ歪み始めている。
「あのさ、莉乃ちゃんは証拠証拠っていうけどさ、その動画がちゃんとした動画だっていう証拠はあるの? 明らかに市原さんの手元が二重になってるように見えるけど? それに市原さんと教室を貼り付けたような印象しか、その動画には無いんだけど?」
「くっ……! そうだよ、うちらがやったよ。でもしょうがないでしょ、うちらのありちゃんを取るんだから。底辺のくせして」
「いつから、私があなた達のものになったの?」
更に表情を歪ます莉乃ちゃん達。凄い睨みを利かせているが、もう怖くない。彼女たちはただ滑稽なだけ。
「だって、うちら友達でしょ? ねえ、ありちゃん」
「市原さん――ううん、叶乃を傷つけるなら、莉乃ちゃんの友達も七海の友達も今日で辞める。今日はそれも言いにきたの」
「えっ!? ごめんね、ありちゃん。何でもするから。だから、以前と変わらず友達でいてほしい」
「無理。それと謝るなら、叶乃にじゃない?」
「ごめんなさい、市原さん。もうこんな事しないから」
「西野さんと友達を続けたいが為の謝罪なら、受け付けません」
表情を最大限、歪ませた彼女たちは走って教室の外へ逃げていった。
その日以降、莉乃ちゃん達は叶乃にも有紗にも近づかなくなった。
そして、有紗は友達を沢山失った。
でも、大丈夫。叶乃がいるから――。
「有紗、屋上に行きませんか? 大事な話があるので」
「いいよ」
「それと有紗に仮にでも市原さんと言われ続けたの、むず痒かったです」
「私も。それ思った」
「「あはは」」
笑いの絶えない廊下。
二人は手を繋いで階段を上がった。
*次話で多分最終回です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。