第19話 傷だらけの心に癒し
叶乃が莉乃ちゃん率いる女子グループから問い詰められたあの日から、一週間が過ぎた。
あの日以降、学校に行くのが怖くなり、嫌になり、有紗と仲良く出来ないのに学校に行く意味あるのか、と思う日々。
叶乃は今日も嫌々、学生カバンを背負い家を出る。
彼女には自分の元気の無さを心配してくれる両親もいない。だから、家でも学校でも孤独なのだ。
――学校に着くと、有紗は以前と変わらず挨拶してくれる。
「おはよ、叶乃」
「おはようございます」
叶乃はそう言うと、すぐに目を逸らす。
これは照れじゃない。拒絶だ。
拒絶されたから、有紗は抱きつけなかった。今すぐにでも、抱きしめて頭をナデナデしてあげたかったのに……。
「あ、あの。もう私に近づかないほうがいいですよ? 挨拶すらしないほうが身の為ですよ? わたし、悪い人なんで」
「叶乃は悪い人なんかじゃないよ。とっても優しい良い子だよ?」
「そんなことありません。それにもう、友達じゃないから――」
「――え」
有紗の顔はショックに染まる。
(そんな……悲しいこと、言わないでよ。私の友達は叶乃たった一人だけなんだから)
莉乃ちゃんや七海ちゃんは有紗にとって、上辺だけの友人だ。彼女達と一緒に居ても、孤独を感じるし、何より心が通じ合ってない。有紗が仲良くしたい人は叶乃だけ。叶乃以外、何も要らない。
「それと……大事なペンケース盗んでしまい、申し訳ありませんでした。返します」
叶乃の手から有紗のペンケースが手渡される。
「いいよ、全然。気にしないで」
フッ、と有紗は微笑む。その様はお母さんみたいだった。いや、どちらかと言えば聖母か。
(……なんで、怒らないの?)
「か、叶乃!?」
確かに叶乃の頬には一筋の涙が伝っていた。本人は気づいていない。
有紗の優しさが傷だらけの心に沁みたのだ。ずっと自分で自分を責めていたのに、他人に許されたことがとてもつらかった。
だから、叶乃はお手洗いに逃げた。
「ま、待って! 叶乃! って、授業始まるよ。いいの?」
叶乃はそれを無視。
お手洗いに籠もる。
午前の授業が終わり、昼休みになると、有紗の元に一通のメッセージが届いた。
『必要以上に私と関わると、西野さんが嫌われてしまいます。でも一つだけ聞いてもいいですか?』
『――西野さんは私のことが嫌いですか?』
(……っ!)
有紗は迷わず、こうメッセージを送る。
『嫌いなわけないじゃん! 大好きだよ! 愛してるよ!』
そんなメッセージが届くと、叶乃は一人屋上で小首を傾げた。
「愛して、る……?」
そこだけが妙に引っかかった。
でも、有紗が『好き』という選択肢を選んだ場合の、叶乃の答えも決まっていた。
『でしたら、お手数ですが、屋上に来て頂けませんか?』
『いいよ、勿論』
メッセージが届いてから3分もせずに、有紗は屋上に現れた。
「どうしたの、叶乃?」
「どうして……西野さんは、酷いことされたのに……私のことが好きなんですか?」
「そりゃあ、好きだからに決まってるじゃん! 好きにも嫌いにも理由なんている? それに私は叶乃が盗んでないって信じてるよ」
「ううっ……」
叶乃は大粒の涙を流し、有紗の胸に顔を埋める。
「私も……有紗のことが大好きです……。もっと有紗と仲良くしたいです。何でそれは許されないんでしょうか」
「私が許すよ」
「私は盗んでなんかいません。あの人達にハメられたんです」
「分かってるよ」
「あの人達に有紗と友達だと思ってるのは私だけ、と言われたのですが、有紗はその……私のことを友達だと思ってますか?」
「当たり前じゃん。叶乃とは親友だよっ」
「そしたら、この事はあの人達の嘘、だったのですね。良かった〜」
有紗は叶乃の真っ白な髪を優しく撫でる。叶乃は安心と同時に涙が溢れ出す。
「ううっ……ぐすん…………」
ひとしきり叶乃が泣き、彼女が泣き止んだ所で有紗は思い立つ。
「よしっ。莉乃ちゃん達をやっつけに行こう!」
「やっつける……?」
「じゃあ、殺しに行こう!」
「それはダメです」
「「ふふっ」」
二人の間には、以前と変わらぬ穏やかな空気が流れていた。すっかり叶乃の笑顔も戻っていた。
――秋風が今日も冷たい。
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