第18話 私は信じない (有紗Side)


 嫌な予感、っていうのは薄々感じていた。

 特に感じたのは叶乃の部活の見学が終わった時。莉乃ちゃん達に私が占領されて、なかなか叶乃と一緒にいられなかった。それに、叶乃の悪口も度々聞こえてきた。とにかく不快で聞かないようにはしていたけど――。


 そういえば、莉乃ちゃん達とは叶乃と関わる機会が増えてから、あんまり遊ばなくなったな……。挨拶すらしない日もあった。



 嫌な予感がする中、部活見学を終え、教室に戻ると私の大事なペンケースが消えていた。


 何で無いんだろ……と思ったが、そこまで深く落ち込む事はなかった。

 私より先に教室に着いたのは叶乃だろうけど、彼女がそんな事をするはずがない。犯人の目星はもう既についている。


「ありちゃん、帰ろ」

「う、うん……」

「暗い顔してるけど、どしたの?」

「何でもない」


 夕日が照らす帰路を三人で歩いた。

 莉乃ちゃんの香水の匂いはとても久しぶりで。七海ちゃんの声は懐かしくて。でもやっぱり叶乃といる時のほうが落ち着く。


 その後も雑談を繰り広げていたら、あっという間に最寄り駅に着いてしまった。


「またね」

「うん、また」


 そう言う莉乃ちゃんの表情は心なしかニヤついているように見えた。気の所為かもしれないけど。



 家に着き、スマホを確認すると叶乃からラインは届いていなかった。


 今日は届いてない、か……。


 まあ忙しいのかもしれないし、今宵の送信は控えた。



 翌日の教室にて。


「叶乃!」

「ありちゃんこっち」


 叶乃の席に行こうとしたら、莉乃ちゃんに引き止められた。


「え――」


 振り返った時の莉乃ちゃんの顔が怖くて、私は何も言えず、従うしかなかった。


「これ、見て」


 見せられたのは昨日の放課後、叶乃が私のペンケースを盗んでいる映像。


 見た瞬間、合成だと分かった。


「市原さん、こんなことしてたんだよ」

「それは酷いね」

「もう市原さんの友達辞めたら? ありちゃんが傷つくだけだよ」

「……辞めない」

「え……!? どうして?」


 叶乃はそんなこと、しない。叶乃は優しい子だから。私のことが好きだから。


 きっと目の前にいる人達がそういう風に仕組んだんだ。


 私は絶対に許さない。


 こんな合成動画、私は信じない。


「――ずっと、叶乃の友達でいたいからに決まってるじゃん。傷ついたっていいよ。そもそも、この動画見ても私は傷ついてないし」


 そう告げた後の、彼女達の驚いた表情がとても印象的だった。


 もうそろそろ、彼女達の友達も辞めるしね。叶乃を傷つけたことは絶対に許さないから。




*あとがき

あと3話程度でが完結します。2章以降書くかは、モチベが日によってまちまちなので、今のところ未定です。

ですが、可能な限り書きたいとは思っています。エタり防止の為、1章で完結もアリですが。百合に関しては初心者な作者ですが、今後ともよろしくお願い致します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る