第15話 誘い


 私――市原叶乃はバトミントン部に所属していた。でも、誰も私とはペアになりたがらず、いつも残り物になっている。代わりに顧問がペアになってくれるのだけれど、顧問が休みの日はずっと暇で、早退する事もある。


 そんな私にも最近、友達が出来た。


 ――西野有紗。


 彼女なら、私とペアになってくれるだろうか。誘ったら迷惑じゃないだろうか。


 ダメ元で誘ってみようかな。


 そう決意し、私は学校へ向かった。


 今日、部活は



 ***


 叶乃はを読みながら、有紗が来るのを待っていた。


 ……。


 少し待っていたら、教室のドアがガララ、と開く音がした。


 足音が叶乃のほうへと近づいてくる。


 けれど、彼女は振り向かない。なんとなく気配で分かっていたから。


「かーなの!」

「西野さん、おはようございます」


 ペコリと頭を下げる。


「なに読んでるの?」

「漫画です……」

「それ、ひょっとして……」


 叶乃が読んでいたのは有紗が描いた漫画だった。


「人前で読むの、やめてよっ。恥ずかしいじゃん。でも……ちょっと嬉しいかも」

「西野さん、上手いので」

「なんか言い方失礼だよね。侮辱してるよね」


 ……。


 再度、叶乃は漫画に意識を集中させる。本当は何度も何度も、その漫画を読み返していた。読んでいて、癒やされるらしい。


 少し気になった箇所があったので、叶乃は質問する。


「女の子が着ている服、背景と共にコロコロ変わっていますが、これも意図的なものなんですか?」

「うん。色々なコーデでキスさせたいから。背景と服がずっと同じだと飽きちゃうでしょ?」

「キスという同じシチュエーションは飽きないんですね」

「同じじゃないよ! ディープ、軽く、チーク、ほっぺ、首とかキスの種類沢山あるよ!」

「わけが分かりません」

「なんで!」


「――読み終わりました。女の子の服、可愛いですね」

「ありがとう。叶乃はこういう服、着たいとかあるの?」


 頬を赤らめ、俯きながらコクリ、と頷く叶乃。


 しかし、彼女はサッと表情を元に戻す。

 有紗に話があるのだ。


「――あの、有紗バトミントン部に入りませんか?」

「ど、どうして、急に?」

「私のペアがいつも居ないんです」


 叶乃は孤独だ。

 誘う勇気もなく、誘われてもぎこちない。だから誰も、叶乃とペアになりたがらない。


「いいけど。叶乃、バトミントン部だったの!?」

「はい」

「私の友達にバトミントン部の子、いるよ」

「有紗がいいです」

「……っ! わ、分かった。入部するよ」

「いいんですか? 図書委員も忙しいんじゃ……」

「大丈夫、大丈夫。私もどこか部活入ろうと思ってたの。良い機会だよ」


 そうして、有紗もバトミントン部に仮入部することになった。


「バトミントン部って何するの?」

「そうですね……試合はこの前終わったばかりなので、二人一組でひたすら打つばっかりですね。顧問に頼めば、丁寧にやり方教えてくれますよ」

「へー」


 そうして、急遽今日見学しに行こう、という話になった。


「有紗と一緒に部活が出来るなんて、夢みたいです」

「あははっ、ありがとう」

「今までは一人で暇だったので、小鳥さんとずっと戯れていました。でも西野さんが入部してくれたら、ちゃんと部活らしいこと出来るかもです」

「小鳥と戯れる部活とは……?」


 サボりでした。


 放課後になり、校庭に行く。


 そこには、少人数の生徒たちがラケットを持って遊んでいた。


 その中に、有紗と仲良い友達――であり、叶乃が最も苦手とする女子二人がいた。


 二人は叶乃と有紗を一瞥した後、すぐに目を逸らした。








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