第13話 おやすみ (♡)


「一緒に寝て欲しい」

「寝る!?」


 突如、一緒に寝ることになってしまった叶乃と有紗。ベッドは一人用なので、かなり狭い。寝返りを打つのがやっと、と言ったところか。


 叶乃はまだはてな顔を浮かべている。


「本当に私と寝るのが一生のお願いでよろしいのですか?」

「一生のお願いとは言ってないよ? いいの。私は叶乃と寝たいから。私達、友達でしょ?」

「でも、夜じゃありませんよ?」

「夜じゃなくてもいいの」


 すると、有紗は勝手に彼女のベッドにダイブした。


「ちょっ! 勝手に乗らないで下さい」

「うひょー、叶乃の良い匂い〜」


 有紗は叶乃の枕の匂いをくんくん、嗅ぐ。叶乃成分をたっぷり味わう。


「まあ、いいですよ」


 叶乃はベッドにすとん、と座る。


「――私は有紗と友達になれて良かったです。ゲームも楽しかったし、一緒に勉強するのも好きだし、有紗の作るお弁当は美味しいです。有紗がいなければ私は生涯孤独だったと思います。でも、私には一つの不安があります。有紗が私から離れていってしまう日が来るんじゃないか、と怖いのです」


 恐怖を覚える叶乃に有紗はバッグハグする。


「大丈夫。私はずっと叶乃のそばにいる。だから、安心して」

「有紗……!」


(有紗にハグされると不思議な感覚がする。友情とは違う、その先の感情のような)


 まだこの時は恋愛感情を自覚していない叶乃だった。


 そのまま有紗は叶乃をベッドに引きずり込んだ。


「んっ!」


 叶乃は反射的に目を瞑る。


「叶乃、大好き」

「ありがとうございます、でも近いです」


 ちょっと圧死しそうな距離だ。

 有紗の大きな胸が叶乃の小さな背中に当たる。


「近くていいの。近くで叶乃を感じていたいから」

「? 意味が分かりません」


 まだ叶乃には難しい。


「このまま寝ちゃおう?」

「な、何もしないんですか」

「何かしてほしいの? 性的なことはしないでって言ったのは叶乃だよ?」

「そうでした」


 叶乃的には物足りない。

 有紗もぐっと我慢している。変に襲って嫌われたくないから。


 二人とも目を瞑る。

 だが、なかなか寝れない。密着度合いがやばい。


「有紗、幸せです」

「私も」

「でも、寝るね。おやすみ」

「おやすみなさい」



 ――しばらくして。

 有紗は眠りに就き、叶乃は寝たフリ。否、有紗も寝たフリだ。こんなに狭いのに、好きな人と隣で寝るなんて、無理に決まっている。もし寝れるという人が現れたなら、その人は勇者だ。いやいや、大賢者かもしれない。


 叶乃は起き上がり、膝を付く。


「寝てるなら、何してもいいですよね? もう、我慢の限界です」


 そっと有紗の胸に手を伸ばす。

 そして、むにゅ、と揉む。


「んーんんっ」


(これは起きちゃう? やばい?)


「胸、大きくて羨ましいです」


(聞こえてるよ?)


 そっと叶乃は手を放す。

 でも有紗が寝言を言うことで、更に行為に拍車がかかる。


「……叶乃……好き、だよ……むにゃ。結婚、して……」

「結婚っ!?」


(結婚するなら、もっと性的なことにも慣れないといけませんね)


「失礼します」


 今度は服の中から有紗の胸を揉む。


(なっ! 何で私、叶乃に胸揉まれてるの? !?!?)


 そして存分に揉んだ後、頬に軽くキスをする。


(っ……! いま、キスされた……!)

(絶対、寝たフリでした、とは言えない。気まずい)


「カフェの時の仕返しです。謝りません」


(仕返しにしては凄すぎるよ!)



 午後五時頃。

 いつ起きればいいのだろう、と有紗は悩んでいたが、ずっと寝ているわけにもいかないので、起きた。


「おはようございます」

「お、おはよ」

「……」

「……」

「もう帰る時間です」

「ずっとここに居たいって言ったら、ダメ?」

「ダメです」

「えー」


 空はもう暗くなり始めている。

 早く帰らないと家族に心配される。


「今日は特別に私が西野さんの家まで送ってあげます。だから、帰って下さい」

「いいの? ありがとー」


 帰る準備をしてから、二人で玄関を出る。


「叶乃、今日はありがとう」

「いえいえ、こちらこそ」


 玄関の鍵を掛けると、思い出したかのように叶乃はポケットから合鍵を出す。


「これ、合鍵です。いつでも家に遊びに来てください」

「!」

「うん、分かった」

「モノ盗みに来るのはダメですよ?」

「分かってるよ」


 呆れたように有紗は言う。


 階段を下り、空を見上げると満月が二人を照らしていた。


 叶乃の家族は帰ってこない――。





※もうすぐ1章終わります

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