第11話 猫になりたい
とある日の日曜日。
市原叶乃は買い物に出掛け、その帰りに公園に寄っていた。
「さて、食べますか」
茶色のベンチに座り、コンビニで買った、鮭おにぎりを食べる叶乃。今日の昼食はぼっち飯。まあ学校で食べる時以外はいつもそうなのだけれど。
公園には叶乃以外、誰も居らずしーん、としている。本当に正真正銘のぼっち飯。
「寂しくなんか……ありません」
そう強がる叶乃。
叶乃は有紗と出会ってから変わってしまった。一人ぼっちが当たり前だったのに、有紗がいないだけで、心にぽっかり穴が空いたような寂しさを覚えるようになった。有紗がいないと生きていけない体になりつつあった。それだけ彼女にとって、有紗は大きな存在になってしまったのだ。
「もう引き返せはしませんね」
そんな叶乃の元に一匹の茶色の野良猫が現れた。
「ねこさん、ですか……」
驚いて叶乃は目を見開いた。
「あなたも一人なんですか?」
「にゃーん」
「同じですね」
叶乃は猫を持ち上げ、膝に乗せた。
そして、撫でる。
「温かいです……」
猫は叶乃に撫でられるとすぐに寝てしまった。
「見事に動けなくなってしまった……」
(にしても、モカを思い出してしまいます)
四年前に亡くなった、叶乃の飼い犬・モカ。モカも茶色い犬だった。毛並みもサラサラだった。既視感を覚える。
哀愁漂う瞳で猫を見下ろしていると、足音が聞こえてきた。
――視線をずらすと、そこにいたのは私服姿の有紗だった。
「あ、有紗……!」
「叶乃は昼ご飯食べてたの?」
「はい」
有紗は叶乃の隣に腰掛け。
やはり有紗の視線も猫に向く。
「この猫、どしたの?」
「野良猫です」
「ふーん」
有紗は少しだけ不機嫌。
猫に嫉妬しているからだ。
でも有紗もそっと優しく猫を撫でた。
「可愛いですね」
「可愛いけど、妬けちゃうな」
「? 西野さんもおにぎり食べますか?」
「ううん、大丈夫」
――しばらくして野良猫は目を覚まし、あっちへ行ってしまった。
「行ってしまいましたね」
「うん」
有紗は呼吸を整えた後、こう言った。
「――私、猫になりたい」
「どうしてですか?」
「だってこんな風に叶乃に撫でてもらったり、膝に乗せてもらえるから」
「!」
「わたし、猫になるから同じようにして?」
「しょうがないですね」
ゆっくりと有紗は叶乃の膝に頭を乗せる。
「にゃ。むにゃ」
「本物の猫みたいです」
叶乃は有紗の頭を繰り返し、優しく撫でる。『猫になる』と彼女が宣言したのだから、猫扱いをしてあげる。
「どうですか? 気持ちいいですか?」
「うん。とっても気持ちいいにゃ」
「それは、良かったです」
サラサラな茶色い髪を撫で続けていると――
「すー、すー」
「寝てしまいましたね」
――まるで、先ほどの野良猫のように彼女は眠ってしまった。
彼女が眠ってからも叶乃は、彼女の頭を撫で続けた。
有紗が起きたのは10分後。
「あ、あれ? 私……」
「私の膝ですやすやと眠っていました」
「そっか」
叶乃はコンビニのビニール袋を持って、立ち上がる。
「これからどうしますか?」
「んー、それじゃ叶乃の家行っていい?」
「い、いいですけど。狭いですよ?」
コクリと有紗は頷いた。
こうして有紗は叶乃の家に行くことになった。
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