ツンデレ女子と陽キャ女子がただひたすらイチャイチャする話

第8話 濡れてるよ？ (♡)

　あっという間に授業は終わり、放課後になった。まだ雨は止んでおらず、叶乃は傘を持っていない。有紗の傘に入れてもらえればいいだけの話かもしれない。だけど、それは……おこがましい。

　なんて考えていると、元気いっぱいな有紗がこちらに向かってきた。

「やっほー、一緒に帰ろ」

　最近はこうやって彼女と帰ることが当たり前になってきた。最寄りが同じという共通点から、更に仲を深めたのだ。

　家が近くだから、長く一緒に居られる――それは両片思いの二人にとって、この上ない幸せだった。

「でも、私、傘持ってな――」

「私の傘に入れてあげるよ」

「いえ、それは申し訳ないです。図書室で雨が止むのを待ってます」

「雨、やんじゃ、いやなの」

「どうしてですか？」と叶乃が聞く隙も与えず、有紗は強引に叶乃の腕を引っ張った。

「いいから行くよ」

「……」

　小走りだった為かすぐに昇降口に着き。

　靴を履き替え、外へ。外はザアザア降りで視界が見えづらい。

　有紗はピンク色の可愛らしい傘を広げた。そこに二人で入る。

「これだと肩が濡れてしまいます」

「小さい傘でごめんね？」

「そうじゃなくて……。というか、西野さんが謝る必要はありません。もとは傘を忘れた私が悪いんですから」

　叶乃は相合い傘だと肩が濡れるから、雨が止むまで待とう、と言いたかったのだ。でも口下手だから上手く言えない。

「寧ろ良かったよ！　こうして相合い傘出来たんだし。叶乃は悪くないよ！　傘、忘れてくれてありがとう」

「何というお礼の言い方ですか」

　叶乃は溜息を吐く。

　傘という狭い空間で二人きり。

　互いの肩がぶつかり合う。

　歩幅は叶乃が有紗に合わせている。叶乃は足が速いから、有紗だと追いつけず、疲れてしまうからだ。

「緊張してる？」

「はい」

　二人の顔は赤く、ずっと沈黙が続いている。このまま何も喋らずに形だけの相合い傘は避けたかった。だから必死に話題を探す。

「叶乃はもし、私が男の子だったらこういう風に相合い傘、してた？」

「私、男子嫌いなんですが。いきなり何ですか」

「ごめんね、今の忘れて」

　すると有紗は考え込むそぶりを見せる。

「じゃあさ、私以外の女の子とも相合い傘、したいと思う？」

「……」

(忘れてって言ったのに、似たような質問？)

　叶乃は首を傾げて黙り込む。

「何その沈黙。私以外の女の子とも相合い傘するの？」

「それはそういう状況にならないと分かりません」

(そう。他の女の子に取られたくないな)

　儚げに有紗は目を逸らした。

　話していると、信号の向こう側に喫茶店が見えた。歩き疲れたし、雨だし、そこで休憩してもいいのかも。

「有紗、あそこのカフェでゆっくりしませんか？」

「うん、そうしよう」

　店内に入る前に傘入れに傘を入れる。

　店の屋根の下で一旦立ち止まる。叶乃はカバンから、白くてふわふわなタオルを取り出した。

　そしてワシャワシャと、自分の顔より先に彼女の顔を優しく拭いた。

「……っ！　気持ちいい……」

「西野さんのほっぺた、柔らかいです。ずっと触っていられます」

「ずっと、だなんてそんな事されたら、私、尊死しちゃうよ……」

「尊死って何ですか」

「なんでもない！　私もしてあげるね？」

「待って下さい。肩が終わっていません！！」

　包みこむように、彼女の肩にタオルをかけた後、叶乃は肩を押すようにして水分を吸収させた。

「終わりました」

　ひとまずこれで、風邪を引くリスクは下がったはずだ。

「じゃ次、私の番ね？」

「はい、お願いします」

　有紗は叶乃がやった時よりも、ずっとずっと優しく拭いていた。勿論、叶乃はくすぐったがっている。

「なんか、くすぐったいです。もっと強くて大丈夫です」

「そんなに強くしたら、叶乃の顔、潰れちゃうよ……」

「私の顔を何だと思っているんですか？」

「マシュマロ」

「酷くないですか？」

「……大丈夫だよ。叶乃の顔はマシュマロより綺麗だから。でも、触感はマシュマロ」

「せっかくときめいていたのに、最後の言葉で言い返せなくなりました」

　有紗も叶乃の顔と肩を拭いてあげた。

　でも、有紗には拭き足りない所があるようで――。

「胸っ！」

「胸？」

「胸、濡れてる」

「ほんとですね、タオル貸して下さい」

「ううん、貸さない。私が拭いてあげる♡」

「これくらい自分で拭けます」

「だめ」

　そんなやり取りをしているうちに、気づけば有紗は彼女の後ろにいた。

「マジでやる気ですか？」

「うん」

　有紗は叶乃の小さな胸をシャツの上から触る。その手を上下左右にスライドさせる。

　やはり、顔を拭く時と同じで有紗は優しく拭いていた。胸だから尚更こそばゆい。

　有紗の手が優しすぎるせいで、拭かれているのか触られているのか、分からなくなる。

「そこ、ダメです」

「ここ？」

　おっぱいの中心部を優しくこすってみる。

「濡れてないのに、乳首ばかり拭くのは変態のすることです」

「うう……ごめんね？」

　有紗は手を少し移動させる。

「そこ、胃です。……っ！　痛い！　か弱い女の子をいじめないで下さい」

「ごめん。もうしない」

　有紗はタオルを放棄して、叶乃の肩に掛ける。

「って、胃の部分が一番濡れてるじゃないですか。責任持って拭いて下さい」

「私、胸にしか興味ないから」

「そこだけ切り取ると警察行きですよ」

　とうとう変態になってしまった、西野有紗。

　叶乃は困惑する。

　でも有紗だからか、悪い気はしない。

(女の子同士でも、胸を触られたのにこんなにも気持ちよくて、嬉しかったのは何でだろう……？)

「さあさあ、風邪引くからお店の中、入るよっ」

「いま行きます」

　叶乃は胃を拭きながら、店内に入る。

　店のドアを開けると、カランコロンとベルが鳴って、なんともレトロなお店だった。

　店には沢山人がいたが、誰にもバレないくらいの声量で叶乃は無意識に呟く。

「有紗の胸、触ってみたかったな。有紗ばっかりズルいよ」

　店内はコーヒーの良い香りで漂っていた。

　今度機会あれば触ろう、と決めた叶乃だった。