第5話 夜な夜な読書 (叶乃Side)


 真夜中。

 カーテンが全て閉められた部屋で私――市原叶乃は漫画を読んでいた。

 いつもは本しか読まないので、久しぶりの漫画は新鮮に感じられた。


 有紗から勧められた、いわゆる百合漫画はページをめくれば捲るほど、二人の関係が親密になり、スキンシップが激しくなるというもの。


 二人のイチャイチャ具合に私の顔は無意識に赤くなってしまう。


 なに、ただの恋愛漫画なのに興奮してるんだろ、私。

 いつも男女の恋愛小説を読んでる時は微塵も興奮しないのに。慣れているはずなのに。


 それは、ヒロインを有紗に見立てて、妄想してしまったからだ。


(キ、キス……!? 女の子同士なのに。しかも何度も!?)


 ああああああ〜〜!!


 私はゴロゴロとその場でのたうち回る。


 ダメダメ。冷静にならないと。

 このままじゃ、明日感想を伝えられない。


 真面目に読んで、三十分が経過した頃、ようやく読み終わった。


 はぁ、疲れた……。


 私は体育座りをして、顔をうずめる。時計を見ると深夜二時。いつもなら、もう熟睡している時間だ。


 少し考える。

 有紗は私とこの漫画のように、スキンシップ沢山したいのだろうか。私がスキンシップしたいって言ったら、迷惑じゃないだろうか。


 私は有紗を触りたいし、触られたい。


 有紗はどうなんだろう……。


 もし、さっきの『好き』が恋愛的な意味での『好き』だったら――


 遠慮しなくても、いいのかな?


 話は変わるけど、この漫画は面白かった。有紗にも勧めたい。本人は読んだ、と言っていたけれど、本当に読んだのだろうか……?

 そもそも有紗は何で私にこの漫画を勧めてきたのだろう……?


 漫画を閉じ、ベッドに横になる。

 今夜は眠れそうにない。寝れたとしても、有紗とイチャイチャする夢を見る気がする。


「有紗、今頃何してるのかな。きっと寝てるよね」


 一人呟く。


 一人の時は彼女のことを名前呼びするのに羞恥心は無かった。相手がいるから、恥ずかしいのだ。ましてや、好きな人だから尚更。


「明日、有紗に『触ってほしい』って言おうかな……」


 やはり、私は天然だ。

 そんなストレートに言ったら、彼女は困惑するに決まってる。でも、便利な言い訳が見つからない。


 寝れない……。


 何度も寝返りを打つが眠れない。

 睡眠薬を飲みに、一階に降りていく。

 そして睡眠薬を飲んだ。


 ようやく眠りに就けたのは、午前四時を過ぎた頃。


 結局、有紗とイチャイチャする夢は見なかった。


 でも、寝不足に悩まされそうだ。



 ――いつもより遅く起き、家を出る。


 有紗に会うのが楽しみだ。

 というよりは、触ってもらえるのが楽しみだ。


 この時の私は触ってもらえるかなんて、分からないのに浮かれていた。


 秋風が今日も涼しい。





※改稿中……。

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