第1話 西野有紗の心境 (有紗Side)


 私は元々、女の子にしか興味を示さなかった。ついつい目で追いかけてしまうのは可愛らしい女子ばかりで、女の子の裸を見るだけで私は興奮してしまう。


 異常なのは分かっているけど、治らない。


 女子達で繰り広げられる恋バナではいつも嘘を吐いている。


『爽やかなイケメンが好き』という嘘で通しているけど、答える度に虚しさだけが込み上げてくる。全然男の子なんて好きじゃない。でも、可愛くて純粋な女の子がタイプって言ったら、引かれるから。折角、友達が沢山いるのに、大切な友達を失いたくない。だから、嘘を吐くしかない。



 入学当初のこと。

 最近そんな私に好きな人が出来た。


 ――市原叶乃。


 白髪のロングヘアーが美しくて、でも人を寄せ付けない、純粋そうな女の子。


 だけど棘があり、人嫌いで有名だ。

 告白してきた男子は容赦なくフラれ、友達になろうと近づいてきた女子も冷たい言葉で突き放す。


 例外なんていないはずなのだが……。


 私も実は皆と同じで嫌われるのかな、と思ってたけど――そんな事は無かった。


「落とし物」


 口数は少ないけど、優しくシャーペンを拾ってくれたり。


「図書室ってどこか分かる? 、市原さん」

「あの角を曲がって右に行けば見えてくる」

「ありがとう」


 道を丁寧に教えてくれたり。


 でも――

 そんな彼女に冷たくされる出来事が起きた。


「おはよう」

「おはようございます」


 仲良くなった、と勝手に思っていたから、初めて市原さんに自分から挨拶した。

 けれど、元気が無さそうだったから私は彼女の頭を撫でようとした――そしたら。


「触らないで」

「え――」


 その時の市原さんの目は鋭くて、声は氷のように冷たくて。


 睨まれてしまったから、私は逃げるようにトイレに行き、


 彼女に拒絶された事があまりにもショックで、その日はずっと保健室に籠もった。


 その日以降、私は彼女と接する時は一定の距離を取るよう心がけた。傷つきたくないから。何より、好きじゃなくなりたくないから。


 でも、彼女の態度はいつもと変わらなかった。怒ってなんかいなくて、私が勝手に傷ついていただけだった。


 これが彼女の普通デフォルトなんだと受け入れてからは気持ちが楽だった。



 叶乃への恋は初恋では無かった。だけど、以前好きになった人に向けていたと叶乃に対するは違うだった。


 叶乃は妹みたいな存在。

 守ってあげたくて、自分のものにしていたくて。


 以前好きだった人に対しては女の子同士、ってこともあって、沢山遠慮をしていたけど、叶乃には遠慮なんかせず、グイグイ距離を詰めたい。


 けど、彼女が人と距離を取ろうとするから、難しい。でもそれがいい。


 以前好きだった人と叶乃はそもそもタイプが違うのだ。だから、(私、こういう子も好きなんだ)と気づいた。


 誰にも彼女をけがして欲しくない。純粋なままでいて欲しい。もし、穢すなら私が良い。



 叶乃への恋は一目惚れでは無かった。

 仲良くなっていくうちにどんどん恋心が芽生えて、芽生えすぎちゃって……。

 彼女を穢したくないから、罪悪感で潰されそうになった事が何度もあった。


 苦しいけれど、愛おしい。


 それが恋なのかもしれない。



 けれど、本当は――。


 叶乃への恋心は初恋だ。さっきのは嘘だ。


 あの日、一人だった私を助けてくれたから。


 だから、叶乃を好きになった。


 きっと彼女は覚えてないだろう。


 私も助けてくれたのが叶乃だったとは気づいていない。



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