DARK 1

KPenguin5 (筆吟🐧)

第1話 トーキョー新宿

時は、21XX年 日本 トーキョー新宿。

日本は、いや地球は、かねてより問題視されてきた環境問題により衰退の一途をたどってしまった。

地球の地表温度は上昇し、異常気象をきたし、そして海面の水位も上がった。世界中の陸地の1/4は海底に沈んだ。災害が多発。その結果、街は荒廃し、感染症が大流行。貧富の差は拡大し顕著になり、国の施策はもっぱら富裕層を優遇するようになった。富裕層と貧困層は住む地域を分けられ、貧しい者たちが住む地域は、犯罪が多発し、警察組織は機能しなくなり、もはや秩序という概念すらも衰退していた。


ここトーキョー新宿も、例にもれず、暴力、薬物、略奪、犯罪のありとあらゆるものが横行し、無法地帯と化していた。

混沌としたこの街に3人の男たちがいた。




ここはトーキョー新宿にあるとある雑居ビルの一室。3人はこの部屋に住んでいる。

「なー、俺のプリン知らねーか?昨日冷蔵庫に入れといたんだけどよ?」

冷蔵庫を開けて中を覗いているのがSHO。

筋肉質で、ガタイもいいが、甘党である。いつもロリポップを咥えている。

「知らないよ。SHO昨日食べたんじゃないの?それで忘れたとか。」

タブレットで作業をしながら答えたのが俺。名前はJIN。この部屋の主。

「あ、やべっ。」

慌てて後ろ手に何かを隠し、二ヘラと笑っているのがYUTA

「あ、YUTA!お前、またやりやがったな‼ 俺のプリン返せ!」

SHOがYUTAを追いかけて部屋をドタバタと走り回る。

「うるせーお前が置いとくのが悪いんだろうが。へへへ。もう食べちゃったもんねー」

「お前!!どこまで食い意地はってんだよ!」

「いててっ。…っくぐるっじぃ…」

SHOに羽交い絞めにされたYUTAが足をじたばたと暴れている。


まったく、毎日毎日飽きないやつらだ。人の家に居候しているくせに遠慮がない。こいつらと一緒にいると、騒々しくてかなわない。


ピコン♪


タブレットから機械音がした。俺はタブレットを操作して、3Dを立ち上げる。タブレットの中空に3D映像が現れる。

「おい、静かにして。定時連絡だ。

Mr.X。おはようございます。」

3D映像には黒い衣装に身を包み、黒い覆面にXのマークを書いた男が慇懃な態度で立っている。

「諸君、おはよう。みんな揃っているようだな。どうだ?今日の気分は。」

相変わらず高慢な奴だ。俺たちを見下している。いつか、こいつの鼻をへし折ってやりたい。

「何も変わりはありませんよ。」

俺が答える。二人は何も答えない。いつもの事だ。

「そうか、今日は仕事の話がある。お前たち貧民の居住区から怪しい薬物が、こちら側の居住区に流れてきている。お前たちが廃人になろうがこちらは知ったことじゃないが、こちらの居住区にまで出回ってきているとなると放ってはおけないのでな。

調査して、その組織を突き止めろ。詳細はタブレットに送った資料を見ればわかる。以上だ。次の連絡は5日後。」

そういうと、3D画像はプツッと消えてタブレットにメールが届いた。


「なぁ、毎回思うがなんであいつあんなに偉そうなんだ?何様だよ。ただのアンドロイドだろ。」

SHOがソファーにふんぞり返ってぼやいた。

「仕方ないだろ。奴には逆らえないんだし。」

俺は、タブレットを操作しながらSHOのボヤキを受け流した。


そう、俺たちはあいつには逆らえない。アンドロイドだとしても。奴は俺たちを監視しこの街に縛り付けている。

この時代、貧民層の人間は自由な移動を制限されている。貧民層の人間は貧民街から出ることは許されないのだ。そして、富裕層を守り貧民層の監視をしているのが、ガーディアンと呼ばれる先程のアンドロイドたちだ。

彼らは富裕街『首都』と貧民街『トーキョー新宿』の境に位置した街境で貧民たちを監視している。街境には有刺鉄線が敷かれており、通過するにはガーディアンたちの警備している関所を越えなければならない。

そして、俺たち3人がこの荒廃したトーキョー新宿でこうやってまともに生きていられるのは、奴らがいるからに他ならない。

法も秩序もなくなったこの町で、まともに生きて行けるのは奴らからの仕事の依頼があることだからだ。

さらに、俺たちの体には監視用のチップが埋め込まれている。もし、俺らが奴らに歯向かうようなそぶりを見せればそのチップが爆破されるようになっている。


「JIN。今回の仕事は薬関係だろ?Xの資料はなんて?」

YUTAが聞いてきた。

俺は2人が理解しやすいように、簡単にまとめた資料を中空に映し出した。


「どうやら、首都に出回っている薬物は「L(エル)」らしい。幻覚作用と覚醒作用両方を持つ薬物で、首都ではその幻覚作用による殺人や暴力行為が頻発しているようだね。

この「L」はトーキョー新宿で栽培されている植物から抽出されるらしい。で、売りさばいているブローカーが「MAP」ってグループなんだけど、この実態が全くつかめないようなんだ。」


「ふうーん。MAPね。まぁ俺のコネクションを使えばすぐわかっちゃうだろうよ。」

YUTAが鼻をふふんと鳴らしていった。

こいつの情報網はかなり広くてしかも正確だ。YUTAには人を引き付ける魅力というものがあるのか、常にこの男の周りにはあらゆる種類の人間たちが集まってくる。商人、コック、タクシードライバー、様々な職種の人間たちの情報網を持っている。ただ、世界有数の犯罪都市として汚名をさらしているこのトーキョー新宿では、まともな情報やより薬の売人や売春婦、犯罪者のほうが多いが。


「とにかく情報収集が先決かな。YUTAはMAPの情報を集めて。

俺とSHOは「L」の実態を探ってみよう。

この資料によると「L」はトーキョー新宿でしか栽培できないらしい。

栽培場所がわかれば、そのルートなんかも明らかになるんじゃないかな。」

DON DON!!

3人で話をしていると、部屋のドアを乱暴にたたく音が聞こえた。

DON DON!!

「YUTA!!助けてくれ!!」

ドアをノックする音と、声からしてまだ子供のようだ。かなり切羽詰まった感じでドアをたたいている。

ノックは優しくしてくれ。また管理人に怒られちまうよ。


「どうした?」

YUTAがドアを開けると、一人の小さい男の子が飛び込んできた。

「YUTA,母ちゃんが、、、母ちゃんが!!」

その男の子が泣き叫びながらYUTAに抱き着いた。

「KEN。とにかく落ち着け。母ちゃんがどうしたんだ?」

YUTAはKENを引き剥がし、ソファに座らせ背中をさすりながら深呼吸をさせた。

KENはまだ少し泣きじゃくりながら、話し始めた。

「母ちゃん。昨日の晩帰ってこなかったんだ。いつもなら日付が変わらないうちには帰ってくるのに。だから、朝になって母ちゃんがいつも立っている所まで行ってみたんだよ。

そうしたら、母ちゃん冷たくなってて…ッヒック。」

夜の街で働く女性の大半は、売春婦だ。

たぶん、このKENという少年の母親も売春婦として夜な夜な夜の街に立っていたのだろう。

「KEN。母ちゃんは今どこだ?」

SHOが聞いた。

「SHIBA先生の所。っても、もう死んじゃってるみたいだから、なんで死んだのか調べるんだって。

母ちゃん、昨日の晩も元気だったのに。なんかの病気だったんじゃないかって…病気だったら大変だからって。グスングズ

SHIBA先生の所に行こうと思たんだけど、オレ道に迷って…で、YUTAなら助けてくれるかもって思って。」


過去に大きなパンデミックが起こり、かなりの病死者を出した歴史があるから、人々は感染症にはかなりナーバスになっている。

このトーキョー新宿も衛生面ではあまりよろしくない環境の中、感染症で死んだと思われるような不審死の遺体はまず医師がその感染症の有無を調べることになっているのだ。

SHIBA先生はこのトーキョー新宿で町医者をやっている。

ジャンキーや喧嘩して負傷したり、あとは性病、そして避妊に失敗して堕胎を希望する売春婦などが患者のほとんどだ。


「とにかくKENを放ってはおけないし、一度SHIBA先生の所に行ってみるわ。」

泣きじゃくるKENの背中をさすりながらYUTAが言った。

俺は少し考えて、こう言った。

「そうだな。よし、みんなで行こう。SHIBA先生ならもしかしたらLの情報も持っているかもしれない。」

SHOは俺のほうを向いて頷いた。

「そうなったら、よし。KEN。いつまでも泣いてちゃダメだ。母ちゃんの所に行くぞ。強くならなきゃ、この街じゃ生きてけない。」

まだ泣いているKENにSHOが背中を軽くたたいて言った。

俺たちは立ち上がって、出かける用意をした。


SHIBA先生のクリニックはこの街の中心部にある。

俺たちの住む雑居ビルからはモービルで20分ほどの距離だ。

SHIBA先生はもともと首都の側の住民だった。でも10年ほど前にこの街に移り住んできた稀有な住民だ。

先生がこの街でクリニックを開いたおかげで、この街の衛生環境はだいぶ良くなってきた。街のみんなは先生に本当に感謝している。


SHIBA先生は大柄な体格で前に現れると、まるで妖怪ぬりかべのようだ。四角く体格のいい胴体にこれまた四角い顔が乗っかている。

目は細くて笑うとその目がより細くなってしまう。温厚な性格でいつも大きな声で笑う。


出迎えてくれたナースが僕たちを安置所に案内してくれた。

KENの母親は、無機質なだいに乗せられて白いシーツをかけられて横たわっていた。

まるで、眠っているようで陶器のような肌はまるで蝋人形のようだ。

「母ちゃん!!」

KENは母親の亡骸に泣きすがった。

「先生、死因はなんだったんですか?」

SHOが聞いた。

「うむ。薬物だ。最近出回っている「L」知っているか?あれだな。オーバードーズだな。昨晩も街に立って客を取ってたんだって?」

「ヤクなんて!!母ちゃんはヤクなんか絶対やらなかったんだ!!そんなはずない!!」

先生の話を聞いたKENがすごい剣幕で先生に言った。

「うん、KEN。常習している感じではなかった。たぶん、客に無理やり飲まされたか、知らない間に飲み物に仕込まれたか。そんなところだろう。」

「そんな…俺の母ちゃん返せよ。」

KENはその場に泣き崩れて、わんわん泣いている。

そのKENをナースが抱きかかえて別室に連れて行った。


「先生、そのLなんですが、何かご存じないですか?どこから買えるとか、誰が売っているかとか、何でもいいんですけど。」

俺は先生に聞いてみた。

「最近、出回り始めたみたいだね。かなり危ないヤクだな。依存性が高いので常習者が多いらしい。誘淫効果もあるから、売春婦に飲ませる輩も多い。しかも、あのKENの母親のように摂取量が多いとオーバードーズになりやすい。

ルートはワシもわからないな。ただ、最近K という男が良く夜の街に出没しているらしい。そいつがうろうろしている日は、Lを摂取している症状のある患者が増えるんだ。」


「Kですか。」

「でもな、どうやらそのKという男。雲をつかむような感じだね。神出鬼没、突如現れたかと思ったら、知らない間に居なくなる。しかもどんな男だったか誰もはっきりと覚えてないようなんだ。」

「どうもわからない話ばかりですね。とりあえず、昨晩KENの母親の客を探したほうがいいようだ。」








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