第3話 (英雄だって、ひとりの人間)

   3話(英雄だって、ひとりの人間)



           1

 ……十五時。

 「う、うぅん……⁉ ……あ、あれれ⁉ 私はね、何をしてたんだっけ……。というか、ここはね、どこなの⁉」

 「ふふっ。おはよう。どうやら、お目覚めみたいだね」

 「ええっ⁉ 私ね、寝てたの⁉」

 と、レシィーナ、すごく驚きながら、起き上がる!

 「うん、それはね、すごくぐっすり……ね」

 「ああっ⁉ 追っ手はね、大丈夫なの⁉」

 「追っ手……⁉ うーん、何を言っているのかね、よく分からないけど……君がね、思い描いているような事態はね、起きないから、安心してくれてね、構わないよ」

 「ああ、ごめんね。サヴィリクさん……私、すごく記憶が曖昧【あいまい】で……」

 「ふむふむ。ねぇ、極大魔法の使用はね、覚えてるよね?」

 「うん、そうだね。それについてはね、すごく鮮明にね、覚えているよ」

 「うん、そうかい……。つまり、あれだね? 所謂、後遺症というものかな?」

 「へえぇ⁉ こ、後遺症⁉」

 「ああ、ごめんね! 他の表現が、見つからなくてね……すごく語弊【ごへい】があったよね」

 「うんうん……私もね、すごく覚悟の上だったから、おそらく、身体がね、ついていけていないとね、思っていたから……サヴィリクさんはね、すごく冷静にね、善処【ぜんしょ】をして欲しいな……」

 『うん、やっぱり……君は、さすがだね』

 「ええ、どういうこと⁉」

 「うんうん……俺の問題だよ」

 「そ、そうなんだ……」

 「でもね、対策はね、考えなきゃいけないよね」

 「ええっ⁉ でもね、対策ってね、すごく限られてるよね?」

 「というと……」

 「うん、おそらく、基礎体力の問題だと、思うんだよね」

 「はああぁぁ……パクパク……」

 「うん、サヴィリクさん、どうしたの⁉ 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして……」

 「ああっ! ごめんね。すごく意外だったからね。思わず、硬直【こうちょく】しちゃったの」

 「むうううぅぅぅ(膨)。サヴィリクさん、勘弁してよね。私ね、そこまで、無知じゃないよ」

 「うん、そうだね。すごく失礼だったよね」

 「うんうん、分かればね、よろしい!」

 「あははぁ……」

(相変わらず、すごくマイペースだよね)

 ……。

 「ねぇねぇ、そういえば、ここはね、どこなの?」

 『ホントに、すごくマイペースだね(ジトー)。すごくタイミングがね、遅いよ(苦笑)』

 「えっとね、ここはね、湖のように、安全な場所なの⁉」

 「うん、おそらく、すごく安全だと思うよ。ここはね、湖のほとりだからね」

 「ええっ⁉ 結局ね、引き返して来ちゃったの⁉ すごく二度手間じゃない」

 「あのね、話はね、最後まで、聞きなよ」

 「う、うん……もしかして、違うの⁉」

 「うん、違うよ。すごく冷静にね、考えてみなよ。湖がね、ひとつだけってね、すごくありえないでしょ? 大陸の大きさを考えるとね」

 「あ、あああぁぁぁ……そ、そうだよね。ホント、私ったら、すごく先走りすぎだね」

 「まったく、レシィーナさんはね、ホント、しょうがないんだから……」

 「いやああぁぁ……失敬、失敬(照)」

 (ホント、気落ちしないところがね、彼女の、すごくいいところだよね。そろそろ、潮時かなぁ……)


 前述のとおり、湖のほとり(先ほどの湖じゃない)に、テントを張っている……。



           2

 「いち、に、さん、よん……」

 レシィーナ、ストレッチ中……。

 そして、サヴィリク、考え抜いた挙げ句……。

 「ねぇ、レシィーナさん? 少しね、構わないかい?」

 「うん、サヴィリクさん、どうしたの? すごく改まっちゃって……」

 「う、うん、少し……俺がね、冒険者になる前にね、読んだ、昔話をね、しようと思ってね」

 「ええ、何々、それっ⁉ すごく楽しみすぎるんだけど……」

 「あまり、興奮しないでね」

 「えへへ、善処【ぜんしょ】するよ。でもね、すごく楽しみだからね」

 「まあ、すごく気軽にね、聞いてくれていいよ」

 「はああぁぁい♥」

 (まあ、ホントはね、すごく真剣にね、聞いて欲しいんだけど……聞いてもらう手前、すごく感謝しなきゃいけない立場だからね)

「うん、それじゃあね、お話を始めるよ」

 「うん、よろしくお願いしまああぁぁす!」


 サヴィリク、一呼吸をおいて……。


 「むかしむかし、あるところにね、一人の冒険者がいました。その冒険者はね、剣士の職業に就いていました」

 「へえぇー……サヴィリクさんと同じだね」

 「まあ、そうだね」

 サヴィリク、お話をつづける……。

「彼の相棒はね、弓使いの青年(男性)でした。お互い、すごく仲が良く、すごく充実した、冒険者ライフをね、送っていました。街の住民とも、すごく良好な関係を築【きず】いていて、まさに、順風満帆【じゅんぷうまんぱん】という言葉がね、すごく相応【ふさわ】しい生活でした。戦闘スタイルは、剣士の青年(男性)は、前衛のアタッカー……そして、弓使いの青年は、後衛のアタッカー……まさに、戦闘面においても、すごく理想的なパーティーでした。パブリック、プライベート……共に、すごく充実をしていました」

 「うんうん。すごく素敵な物語だね。私たちも、彼らにね、少しでも、近づけたらいいよね」

 「ふふっ、そうだね」

 サヴィリク、お話を続ける……。

 「そんな、平和な時間が流れていたある日……街の近くにある、森林が、モンスターの大群によって、すごく大きな被害を受けていました。冒険者一同は、至急、現地に急行しました。モンスター討伐組、住民への安全確保組、街のバリケード組……各々、役割分担で作業にあたることになりました。すごくスムーズに事を進めるためにね……何より、被害を出さないためにね。青年の二人に託【たく】されたのは、モンスター討伐組でした。実は、青年二人、他の冒険者たちより、すごく卓越【たくえつ】していたので、モンスター討伐組をね、任されたのでした。そして、無事に、モンスターの大群を討伐することにね、成功しました。何より、街の住民のみなさんがね、無事だったのがね、一番の喜びでした」


 パチパチパチパチ……!

「うんっ⁉」

 「うん、冒険者総出【そうで】でね、すごく息の合った連携プレイだね。私たちも、すごく見習わなくちゃいけないね」

 「そして、住民のみなさんから、すごく温かな歓声を送られました。街の英雄として、奉【たてまつ】られたのでした。しかし、世の中というのは、そんなに、上手く事【こと】が進む訳ではありません。英雄と認定されたのは、モンスター討伐組の二人だけ……残りの冒険者は、通常のクエストと同じ扱いでした。住民からの歓声も、モンスター討伐組の二人の名だけ……誰一人、他の冒険者たちの名を揚げる者はね、いなかったのです。町長の扱いもまた、すごく鮮明にね、現れていました。そして、それはね、ギルドでも、同様だったのです。報酬額がね、一桁【ひとけた】以上ね、違ったのです」

 「ええっ⁉ それってね、おかしくない⁉ その理屈だと、誰でもよかったっていうことになるじゃない⁉」

 「そうだね……。彼らもまた、すごく無知だったよね。気がつくチャンスなんて、すごくあったのにね。自ら、すごく有頂天【うちょうてん】にね、なっているんだもん」

 「確かに、いくら、物語といっても、起伏【きふく】がないと、すごくつまんないもんね。考えさせるような物語じゃないとね」

 「レシィーナさんのおっしゃる通りだね。平坦【へいたん】だと、物語として、成り立たないからね」

 サヴィリク、お話を続ける……。

 「レシィーナさんの推測通り、彼らはね、すごく腑【ふ】に落ちない表情を浮かべていました。そして、そのような、現実にね、すごく嫌気【いやき】が差して、街を出て行ってしまいました。そして、青年二人は、そんな、彼らにね、かける言葉がありませんでした。街の方々もまた、所属ギルドの変更を行【おこな】ったことをね、嘆【なげ】く素振【そぶ】りさえ、ありませんでした。まるで、初めから、存在していないかのような扱いにも、捉【とら】えることができました。時間が経ったから、思うのです。あれはね、伏線【ふくせん】だったのではないかと……ね」

 「何よ、何なのよ⁉ 彼らはね、幽霊じゃないのよ。れっきとしたね、冒険者なのよ。いえ、それ以前にね、人間としてね、見てくれていないよね」

 「レシィーナさん、落ち着いて! 君の気持ちはね、すごくごもっともだよ。お話はね、途中だから、心を落ち着かせてね、聞いて欲しいな……。それに、すごく参考にね、できるでしょ?」

 「うん、そうだね。すごく悪い意味でね(ニヤリ)」

 (レシィーナさん……君はね、すごくまともな人間だよ)

 サヴィリク、お話を続ける……。

「ギルドは、新たな冒険者をね、他の支部から、移転希望をね、求めたのだけれど、例のウワサがね、広まってしまっているのか、誰一人、応答がありませんでした。したがって、青年二人で、ギルドの依頼を熟【こな】すことになりました。英雄扱いを受けているため、報酬額がね、すごく高かったのです。唯一、朗報があるとすれば、モンスター達が、しばらく、鳴りを潜【ひそ】めているのか、出没しなかったのです。おそらく、青年二人の恐ろしさを思い知らされたのではないかと、推測されているのです」

 「うん、聞けば聞くほど、すごくひどいお話だよね。いくら、報酬がね、高くても、冒険者だって、ひとりの人間だよ。これまで、所属していた方々の仕事をね、熟【こな】さなきゃいけないのはね、すごく骨の折れる任務だよ。そのあたりのこと、考えていない様子だよね」

 「レシィーナさんはね、そう思うの?」

 「うん、英雄とね、奉【たてまつ】っている割【わり】にはね、すごく冷たいよね。報酬のボーナスだけじゃない。彼らがね、過労で倒れた場合、どうするつもりだったんだろうね」

 (レシィーナさん……それがね、すごく自然な捉え方だよね。俺だって、すごく同感だもん)

 サヴィリク、お話を続ける……。

「そして、平和な日常はね、静かに終わりに向けて、歩みを始めていました。モンスターの大群がね、再び、街の近くに現れたのです。無論、冒険者はね、彼ら二人だけ……すごくプレッシャーがね、かかっていました。それもそのはず、モンスターの討伐……街の住民の安全確保……街のバリケード強化……全てを、彼ら二人でね、熟【こな】さなきゃいけなかったのですから。でもね、戦闘に関して、そのような心配はね、すごく杞憂【きゆう】でした。圧倒的な強さをもって、モンスターの大群をね、退【しりぞ】けることにね、成功しました。奇跡的にね、街の被害はゼロでした。しかし、言うまでもなく、前回より、すごく困難な任務であることはね、彼らの精神的負担がね、物語【ものがた】っていました。当然、前回より、任務の重さはね、すごく多く、報酬はね、支給されるものだとおもっていました。しかし、何故【なぜ】か、前回より、十分の一、少なかったのです。したがって、旅立っていた同業の仲間と同じ報酬額だったのです」

 「ねぇ、どうして、どうして⁉ 普通はね、反対でしょ⁉ すごく精根尽きるまで、働いたんだよ! 私ね、すごく納得がね、できないよ‼」

 と、レシィーナ、サヴィリクに、詰め寄りながら……。

 「うんうんうん……君の気持ちはね、すごく理解できるよ。でもね、物語としてね、あるということはね、認識をしておいて」

 「うん、そうだね。現実にあるとしたら、すごく由々しき事態だよね」

 (…………)

 サヴィリク、少し複雑な表情を見せる……。

 「ねぇ、サヴィリクさん⁉ そのご本、私にもね、読ませてくれない?」

 「うん、構わないよ」

 「ふふっ。ありがとう」

 (ご本……ね)

 サヴィリク、お話を続ける……。

「そして、彼らは、ギルドにね、事情を尋【たず】ねました。どうして、減額しているのかとね……すると、このような答えがね、返って来たのです。英雄なんだから、当然……とね。さすがに、すごく唖然【あぜん】としてしまいました。なお、街の住民の方々も同様に、《勝てて当たり前、英雄なんだから。負けると、英雄の肩書きは白紙》という、すごく耳を疑うような言葉でした。正直、彼らは、何のために、戦っているのか、分からなくなって来ました。大義名分そのものが、すごく揺らいでいたのです。住民のみなさんの笑顔を見ていると、すごく救われた……この笑顔を守るためにね、戦っているのだと。しかし、前述したように、すごく程遠い現実でした。加えて、刺すような視線……軽蔑【けいべつ】されているように見える態度……もはや、彼らに残されていたのは、街を守るという、信念だけでした……。相棒は、このような言葉を打ち明けてくれた。この街を出た方がいいと、このままだと、自分自身を見失ってしまうおそれがあると、加えて、ホントに、自分たちを必要としている街にね、移転した方がいいと。旅立っていた者の扱いを見ると、遅かれ早かれ、このような事態になってもおかしくはなかったと。気づくチャンスを悉【ことごと】く逃してしまったと……相棒はね、すごく嘆【なげ】いていた……。そして、彼はね、ひとつの決断を下した。やっぱり、移転者を呼ばなきゃいけない……自分たちが旅立つと、街を守るものがいなくなってしまう……だから、時間が欲しいと。しかし、相棒はね、詰め寄ってきて、このような言葉を言い放った。連中は、自分たちのことを、人として見てくれていない……相棒にとって、街の住民は、人ではなく、悪魔に見えていたようだ。そして、彼は、すごく後悔をすることになった……。無謀な正義感によって、躊躇【ためら】っていたことに……。そう、三度目の襲撃が起こった! これまでのモンスターより、すごく強敵で、尚且【なおか】つ、相方のモチベーション低下はね、すごく著【いちじる】しかった……そう、火を見るよりも明らかだった。そして、悲劇は起きてしまった……。モンスターの討伐には成功したが、相方はね、すごく致命的な負傷をしてしまったのだ」


 (回想)

「ねぇ、しっかりしてよ⁉ モンスターはね、討伐したよ! これでね、街から、出られるんだよ」

 「そ、そっか……それはね、すごく良かった……」

 「早く治療を……」

 「ふふっ。お前とコンビを組めて、俺はさ、すごく幸せだったよ」

 「ええ、どうして、そんなことをね、言うの⁉」

 「お前はね、最後まで、すごく勇敢だったよ。引継ぎをね、考えていたくらいだからね。俺だって、悪魔の仲間入りをするところだったよ」

 「そ、そんなこと……(涙)」

 「悪魔と決めつけるのはね、すごく時期早々だったよ」

 そして、相方は、静かに、息を引き取った……。

                                    (回想)


 「あああぁぁぁ……⁉」

 「これで、お話はね、おしまいだよ。少なくとも、俺たちはね、このような事態には、ならないようにしなきゃね」

 「そうだね……」

 「うん、どうしたの? レシィーナさん……?」

 「うんうん。何でもないよ」

 「ああっ、そうだ! ご本、近いうちに渡すね?」

 「うんうん。必要ないよ」

 「ええ、どうして⁉ やっぱり、すごく抵抗があるのかな?」

 「もおぉ! 欺瞞【ぎまん】はね、やめてよ!」

 「ええっ⁉ どうしたの、突然⁉」


 レシィーナ、静かに、立ち上がり、ゆっくり、サヴィリクの元に歩み寄る……。

 そして……。

 パチイイィィン!


「え……⁉」

 レシィーナ、涙を流しながら、サヴィリクの頬【ほお】に、ビンタをする……。

 「どうして、サヴィリクさんがね、私に対して、あそこまで、すごく熱心にね、指導をしてくれたのかね、分かった気がする? そして、常に、私の愚痴【ぐち】をね、聞いてくれてたよね?」

 「うっ⁉ い、いつ、気がついたの⁉」

 「うーん……そうだね。扱いのところ……かなぁ」

 「そんなに早くから……」

 「うん、もっとも、サヴィリクさん……すごく目力【めぢから】がね、強くなっていたからね。感情がね、表に出るのは、すごく憤【いきどお】っている証拠だよ」

 「そ、そっか……やっぱり、君はね、すごいね」

 「ええっ⁉」

 「ふふっ。すごく失望したでしょ⁉」

 「ねぇ、サヴィリクさん⁉ すごく辛かったよね。私ね、すごく嬉しかったの。このような、辛い思いをしているのに、私に、お話をしてくれてね。それに、相棒さんの気持ちをね、無碍【むげ】にね、しちゃいけないよ。無論、過去に対しての後悔はね、すごくあるでしょ? でもね、サヴィリクさんはね、すごく反省をしている……そして、現在進行形としてね、すごく活かしてる! 私にはね、すごく犇々【ひしひし】とね、伝わって来てるよ。後はね、同じ過【あやま】ちを繰り返さないようにね、未来に生かすだけ……」

 「だ、だから……」

 「フーン!」

 レシィーナ、サヴィリクの両頬【りょうほお】を、強く押さえる……。

 「うっ⁉」

 「もおおぉぉー! ホント、すごく聞き分けのない剣士さんだね。相手の意見はね、聞き入れなきゃダメでしょ⁉」

 「ああ……」

 「はい、返事は⁉」

 「は、はぁい。そうだね……」

 「うん、よろしい!」

 「レシィーナさん……気がついてくれてね、ホント、ありがとね」

 と、サヴィリク、少し目を潤ませながら……。

 「えへへ♥ どういたしまして♥」



           3

 「ねぇ、出会った頃のこと、覚えてる?」

 「ええ、サヴィリクさん、どうしたの⁉ また、すごく唐突【とうとつ】だね」

 「あのね、実はね、褒めるところはね、あったの」

 「ええ、それはね、すごくありえないよ。私ね、すごく足枷【あしかせ】だったんだよ!」

 「そうだね……。でもね、それはね、戦闘面の話だよ。俺が言いたいのはね、プライベート面のことだよ」

 「うーん……あまり、自覚がないなぁ……」

 「ふふっ。すごく無意識だったんだね。なおさら、すごく素晴らしいよ」

 「え、ええっと……そうなの?」

 「うん、自覚があると、それはそれでね、すごく質【たち】が悪いからね。猫を被【かぶ】られると、すごく余計な労力が伴ってくるからね。でもね、すごく性分【しょうぶん】の良い持ち主みたいだね。どうやら、俺自身、考えを改めなきゃいけないみたいだね」

 「うーん……え、えっと……すごく困っちゃったなぁ……(苦笑)」

 レシィーナ、あまり、褒め慣れていないのか、すごく困惑をしている様子……。

 「ねぇ、レシィーナさん? 君はね、もう少し、自身のことをね、理解するべきだよ」

 「あははぁ……。何をいまさら、私がね、すごく力不足なのはね、分かりきっていることなの! うん、私のことは、私自身がね、一番、理解しているの! それはね、すごく紛【まぎ】れもない事実なの!」

 「あのね、君はね、すごく卑下【ひげ】しすぎなの。……そうだね。先ほど、戦闘面においてはね、すごく劣っていると言ったけど、訂正させてもらうよ」

 「ええ……」

 「えっとね、戦闘面というのはね、何も、戦うことだけじゃないよ。洞察力や観察力……それに、分析力だって、すごく関わってくるからね」

 「うーん……サヴィリクさん、ごめんね。やっぱり、私にはね、理解できないよ」

 「そうかい⁉ でもね、レシィーナさんにはね、すごく胸を張ってもらいたいから、俺の口から、直接ね、伝えさせてもらうよ」

 「お、お手柔らかに……」

 (どうして、身構えるんだろうね)

 サヴィリク、一呼吸を置いて……。

「あのね、君はね、すごく観察力にね、優れているよ」

 「ええ、ホント⁉」

 「うん、加えて、すごく人のことを、分析してるよね」

 「あっ⁉ ど、どうして……」

 「何より、君はね、人のことをね、全く否定しないよね。それがね、どれほど、難しいことなのかね、君には、知ってほしいの。それを、いとも簡単にね、行【おこな】っている現実……君はね、すごく誇りを持つべきだよ」

 「…………(目を閉じている)。えっとね、まだ、すごく理解がね、追いつかないんだけど、サヴィリクさんのこと、無碍【むげ】にできないから……うん、少しプラスにね、考えてみようかなぁ……」

 「うん、今はね、それで、構わないよ。いつか、理解できるときがね、必ず、やってくるから」

 「それにしても、サヴィリクさんだって、すごく物好きだよね」

 「ええっ⁉」

 「こんなに、取り柄がない、私にね、すごく親密に付き合ってくれたんだから、初めはね、すごく嫌がってたよね」

 「あちゃあぁ……(苦)。それだけはね、忘れて欲しいなぁ……」

 「ダメ、ダメ! 絶対にね、ダメだよ!」

 「くううぅぅー……すごく嫉妬【しっと】深いんだね……」

 「えへへ♥ 冗談だよ、冗談♥」

 「あのぉ……あまり、冗談のレベルじゃないよね。すごく胸に刺さるんだけど……」

 「てへっ♥ ごめんなさい♥ うん、冗談はね、これくらいにして……。ねぇ、どうして、ここまで、私にね、真剣にね、付き合ってくれたの?」

 「ああっ⁉ これはまた、すごく唐突【とうとつ】だよね」

 「そうだね……。でもね、これはね、聞いておかなきゃいけない案件なので、サヴィリクさんの本心をね、聞かせてくれない? おそらく、メリットなんて、全くなかったはずだからね」

 「うん、そうだね。メリットとか、デメリットとか……そのような、ディメンションな世界じゃないの。俺のこと、ひとりの人間として、君はね、何事もないように、迎えてくれた……それだけのことなの」

 「あっ⁉ サヴィリクさん……まだね、拭【ぬぐ】えていないの」

 「うん、すごく恥ずかしい話……今でも、忘れられないの。だから、君はね、俺にとって、天使だったんだよ。俺にね、もう一度、立ち直らせてくれるきっかけをね、作ってくれた人だったから。ホントに、救われたのはね、俺の方だったんだよ」

 「そ、そうなんだ……。私でも、すごく役に立つんだ……」

 「うん、だから、レシィーナさんもね、少し自分のことをね、褒めてあげなよ」

 「うん、そうだね……。すごく小さな救いだけど、私の心の片隅【かたすみ】にね、刻み込んでおくことにするよ」



           4

 ……十六時。

 「ねぇ、いつまで、自分のことをね、騙【だま】し続けるつもりなの?」

 「ええっ⁉ サヴィリクさん、どうしたの⁉ これがね、私の全てだよ」

 「うんうん……それはね、違うよね(真顔)。所謂、自己欺瞞というものだよ」

 「ゴクッ(呑)」

 「もちろん、これはね、レシィーナさん自身の性格でもね、あるでしょ。でもね、すごく虚勢【きょせい】を張っているのも事実でしょ⁉」

 「あれぇあれぇ……すごく参ったな……。今まではね、切り抜けることが、できていたんだけどね」

 「ジイィー(真顔)」

 「どうして、気がつかれちゃったんだろうね? うん、すごくミステリーだよ」

 「そんなの、ミステリーでもね、何でもないよ」

 「うっ⁉」

 「レシィーナさんと一緒にね、過ごした時間がね、すごく長かったからだよ。仮にね、同じくらい、過ごしている人がいたとしても、人としてね、扱っていなかったのなら、気がつく訳がないよね。まあ、それ自体がね、すごくありえないことなんだけどね」

 「はああぁぁ……私の負け……だよ」

 レシィーナ、両手を上げて、お手上げのサイン……。

 「したがって、カラ元気はね、俺の前では、必要ないよ」

 「やっぱり……サヴィリクさんにはね、叶わないなぁ……。うん、運動不足についてはね、すごく完全な私の落ち度なの。極大魔法を習得するために、すごく時間を費【つ】やしていたからね。ホント、あの時はね、すごく参ったよ。いつも以上にね、笑顔を絶【た】やさないように、しなきゃいけなかったからね」

 「でもね、君はね、すごく天真爛漫【てんしんらんまん】でしょ⁉ そんな、君でもね、すごく苦労するものなの?」

 「うーん……そうだね。天真爛漫【てんしんらんまん】……ね。あまり、自覚はね、ないんだけどなぁ……うん、故郷を含めて、色々な方がね、言うのだから、そういうことなんだろうね」

 (なかなか……すごくシビアだね)

「ねぇ、どうして、すごく過剰にね、振る舞ったの⁉」

 「うーん……そうだね。強【し】いていうなら、すごく暗くならないようにするためだね。家族や知人から、私の笑顔はね、すごく素敵だと言われてね……私の笑顔を見ると、今日も一日ね、頑張ろう……なんて、言っている人もいたの」

 「なるほど……ね」

 「ねっ、すごく大袈裟【おおげさ】でしょ⁉」

 「うんうん……その言葉、すごく分かる気がするよ。おそらく、俺のように、救われていた人だってね、いたんじゃないのかなぁ……」

 「もおぉー……サヴィリクさんもね、やめてよ! すごく恥ずかしいじゃない!」

 「あははぁ……ごめんね。でもね、改めて、俺の話をね、最後まで聞いてくれて、ありがとね」

 「えへへ♥ それはね、どういたしまして♥」

 (なるほど……無自覚ね。確かに、そうかもしれないね)

 「ねぇ、サヴィリクさん? 私の話も、聞いてもらってね、構わないかな?」

 「うん、レシィーナさんがね、話したいのであれば、是非、聞かせてもらおうかな?」

 「うん、サヴィリクさんだけ、すごく辛い過去のお話をね、曝【さら】け出しているのはね、すごく公平さに欠けるから、私もね、お話をさせてもらうよ」

 「ふふっ、お気遣い、ありがとね♥」

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