第4話 彼の世界と此の世界

結果。

ああ、結果だ。

僕は、各20個の元素を全てつぎ込んだ。

そして、僕の目の前にあるメッセージボックスにはあるメッセージが表示されている。


【進化条件が整いました。

小神霊】


うーん、やりすぎた?

小さくても神って。

でも、仕方ないよな。

もう戻せないし。


【チュートリアル3をクリアしました。

クリア報酬:?????

まもなく、神化しんかの祠へ到着します】


ん?到着?

いや、『報酬』がわけわかんない物なんだが。

僕は、視線を下へ向ける。

眼下に、樹海が広がっている。

いや、その中央には小さな湖がある。

風に運ばれた僕をここへ誘っていたのかもしれない。

ただ、こんな場所を僕は知れない。

ゲームでは見たことの無い場所だ。

いや、僕が引退した後に実装されたのかもしれないな。

湖の中央に、小さな真っ白な祠が祀られている。

僕の身体は、その祠へと吸い込まれた。


僕は、真っ暗な世界にいた。


「よう、待ってたぜ」


声が聞こえた。

とってもダンディな渋めな男性の声だ。


「おいおい、ダンディなんて照れるじゃねえか」


え?どうして?


「どうしてもなにもお前の声は俺には聞こえているからな」

『どういうことだ?』

「なに、俺が神様だから…じゃダメか?

淡海おうみ 戒斗かいと


淡海 戒斗?

あ!そうだ。僕の名前だ。

何で忘れていたんだろう。


「そりゃあ、俺が忘れさせたからな」

『忘れさせた?』

「まあ、なんだ。おまえそれはそれはひどい人生だったからなぁ」


そう、彼が言った瞬間。

僕の頭の中に、色んな映像がフラッシュバックする。

これは、僕の…いや、俺の記憶。

思い出した。

淡海 戒斗の人生を。


「今なら、耐えられるだろう。

最初に、この世界にお前を呼び込んだ時。

無垢なる『ジン』だった。

流石に、過酷な前世の記憶を持たせるには酷すぎたのでな。

勝手ながら忘れさせたのだ」


微精霊よりもまだ下があったのか。

たぶん、形のないマナの集合体ってとこだろうか。


「さて、なぜお前を転生させたか。

気になっているのだろう?」

『確かに気になる』

「お前は、生前彼のゲームの中で招待状を受け取ったはずだ」

『招待状?』

「うむ、あのゲームを作ったのはこの世界の賢者の1人だ。

世界が酷似しているのは、彼の世界と此の世界が繋がっているからに他ならない」


繋がっている?ゲームの世界が?

10年前…うーん、思い出せない。

ゲームのイベントとか思い出せないな。


「まあ、いいだろう。

お前は、彼の世界で此の世界への招待状を受け取った。

そして、死後。こちらへとやってきた。

それだけのことだ」


死後。

そう、俺は死んだんだ。

いや、今思えばやっと死ねたと言うべきか。

物心ついた頃から家庭環境は最悪だった。

両親はギャンブル狂いで、俺を残して蒸発した。

俺は、幼い頃から孤児院で育った。

小・中学生時代は、その事で虐めに遭い続けた。

高校時代は、新聞配達やいくつかのバイトをした。

学校にいるよりもバイトをしていたように思う。

高校を卒業後は、商社に勤めた。

営業部署に配属された俺は、邁進した。

だが、その会社は超が付くほどのブラック企業だった。

サービス残業は当たり前。

休日出勤に、無限と思えるほどの連勤。

心は、日に日に疲弊していった。

そんな時にSCに出会ったんだ。

だが、入社して3年が経ったとき…俺は、突然病に倒れた。

奇病に侵され、気休めの薬を処方された。

治験という名のモルモットになり…10年。

白濁し、濁り霞んだ世界を見続けた毎日。

身体は、動かすことも出来ず意識しかない肉の塊のまま生かされ続けた俺。

心臓も無理やり動かされていた。

つまり、無駄に延命させられていた俺は、用済みになり棄てられたのだろう。

そう、やっと死ねたのだろう。


「そうだ、お前は死んだ。

だからこそ、喚ぶことが出来たのだ」

『俺は、なにをしたらいい?』

「自由さ。何もしなくても、何をしてもいい。好きに生きてみるといい。

さあ、行くがいい。新たな人生へ…ここでのことはすぐに忘れるだろう。

淡海 戒斗だった過去すらもな」


そう、彼が言った瞬間。

俺の視界は、真っ白になった。







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