第2話 白銀の姉様と巣立ちの時。

 

 

 母上も僕等に付きっきりで居られるような存在では無いのに、僕等がこの世界に完全に定着するまでは結構な頻度で顔を見せに来られていた。


 代わりに僕等の面倒を見てくれたのは、母上の直属とも言えるシファーング姉様だ。


 彼女の見た目を素直に表現するなら、超厳つくてカッコいいサーベルタイガー。


 白銀の美しい毛並に芸術的な模様が入っており、よくよく見ればそれらに沿って防護や強化に加えて障壁的な効果が常に働いているような気が。


 当時の僕では更なる解析を試みようとすると、何かに弾かれてしまってそれ以上は先に進めなくなるという感じだった。


 今思えば酷く未熟で不躾な技術しか持てていなかったから、シファ姉様は一種不快にも感じ取れるであろうそれらの解析行為にも素知らぬ顔で流しつつ、ある程度までは僕等の好きにさせていたんだろうと思う。




 そして幾つかの月日を経て、僕等七姉弟は母上の見守る前でシファ姉様相手に僕等全員掛かりでの試練に臨み……完膚無きまでに惨敗した。


 一応各々の得意分野に合わせて連携とか作戦とか戦術を組んではいたけれど、シファ姉様は文字通り歯牙にも掛けなかった。


 だって彼女は最初の位置から一歩も動かず、此方からは微動だにも動かせ無かったんだもの。


 まあこの試練は独り立ちの為の卒業試験であって技量や実力を見定めるのが主目的だから、最初から当たって砕けるのは既定路線。どうひっくり返したって勝てやしないのが普通なんだけど。


『アクイス、クァイツェル、ダシュス、マイル、ナギトゥス、ノヴェテス、ネムテル。皆良く頑張りましたね。貴方達の成長を見られて嬉しく思いますよ』


 母上の言葉に、七姉弟もそれぞれに嬉しそう。勿論僕も悔しさはあれど、何処か清々しい気分だ。


『今の私に勝つには全員で最低三百年、単独でなら千年と言った所だろう。迷わず励め。さすれば道は開かれん!』


 まるで何処かの教官のようなシファ姉様。その頃には更に遥か先の高みへと登っていて、永遠に僕等は追い付けやしませんよね? とは思っても絶対言えませんとも。ええ。


 とは言え、これにて一先ずは最低限のラインへ届いた事になります。後は誰かにばれるなり、自ら動いて出逢うなりして身の振り方を決めていくんですが……。


『む? これは。 ……ンナァーン様』


『あらあら、いけませんねぇ。強引な手段で世のことわりに干渉して偶然パスを手繰り寄せたようです。しかし……』


 思案顔でゆるゆると宙に浮いていく黒猫の姿を見ながら呟く母上。その言葉通りなら、これは非正規の手順を用いた闇の召喚術の類なんでしょうが。


『……母上。実際の確認次第にはなりますが、処断の方は僕に任せて頂いても?』


『ンナァーンの名に於いて許可します。 ……マイル、不埒な輩に容赦は無用ですよ?(にっこり)』


『心得ております。では――』


 厚紙のようなパーツで形作られた手が僕の存在を漸くようで、何処かへと引き寄せられる速度がぐんぐん上がって行く。


 長姉アクイスの『マイル、完膚無きまでにやっちゃいなさい!』という声に軽く仕草で答えながら、僕は生まれ育った大地の果てを離れ、旅立っていったのでした。

 

 

 

 

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