177.大晦日
十二月三十一日。大晦日。我が家は大晦日だからといっても家族みんなで集まってのんびりすることはない。というか、俺が中学生になった時から母と父が一人にして大丈夫だろう、ということで大晦日から年明けの数日の間、家を空けることが増えた。
ここ最近は一人。寂しいと思ったことはない。
数年前から一人でいることが普通だったし、慣れてしまうと案外悪くない。
だって、本当に自由なんだ。お雑煮は自分で作らないといけないが、それくらいだ。
悪さと面倒事を起こさなければ両親は何も言わず。
だから、大晦日の今日は部屋の掃除と明日のお雑煮作り、布団を干したり部屋の整理整頓で忙しい。
ベッドの下の掃除はついついサボってしまう。毎回物をどかして掃除機をかけ、濡れた雑巾と清掃スプレーで汚れを拭き取るのは面倒だ。
一年間溜まった埃をまず掃除機で吸い、フィルターが詰まるのですぐにゴミを捨て吸い込みを繰り返す。それから細かな汚れを雑巾で拭いて綺麗にしていく。これだけで三十分かかってしまう。
「はぁ……終わった……」
掃除にお雑煮作りが終わり、俺はリビングのベッドで横になった。
後は自宅でのんびり年明けまでグダグダ過ごして……。
ピーンポーン。
「居留守だ。居留守を使おう」
モニターを見なくても分かる。俺の家に来るやつはあいつらに決まっている。
音を立てず、息を殺し、俺は存在感を消した。
インターホンは立て続けに鳴らされるが、すぐに鳴らなくなり人の気配が消えた。
あいつらは帰った。そう思っていた。
「ふぅ……ん?」
コンコンコン。リビングの窓からへーんな音がするなぁ。
俺は首を動かして音のする方を見ると、レースから薄っすらと人の影が見えた。
それも一人ではなく複数人。ああ、あいつらだ。
「……なにしてんだよ」
こんな日中にそんな所をうろついているとご近所さんに通報されても知らねぇぞ。
昨今は危険な犯罪で敏感になっているんだからさ。
「……しゃーねーか」
俺は重い腰を上げて彼らを招き入れることにした。玄関の鍵を解除して開けると、
「橘。元気そうだな」
相変わらずのイケメンっぷりに口がへの字になりそうだ。高橋は爽やかに手を挙げて言った。
「……残念ながら超元気だ」
「確かにそうね」
綾瀬は俺の元気な顔を見て安心したのか、腕を組みながら微笑んでいる。
「連絡無視はめっちゃ腹立つし心配だったんだからね!!!」
櫛引はカンカンに怒っている。俺は色々忙しかったんだよ、と適当な言い訳を言うが彼女は嘘だねと言ってさらに問い詰めてきそうだったが、
「お、元気そうじゃないか~少年! 相変わらず思春期特有のやつで悩んでいたのか~このこの~」
「うざっ。年末だから掃除で忙しかったんだよ。長谷部は櫛引に任せるとして……柊、心配かけちまったな。俺は元気だからな」
「……!!! は、はい……!!!」
「ねえねえ。私はどうなんですか~? せんぱ~い」
「……あ、いたのかお前」
「酷い! この先輩酷すぎませんか!?!」
矢内は……まあ、いいや。放っておいても問題ねぇだろうし。
「橘君」
白雪先輩が俺の前に来た。怒られるか。それとも謝罪されるのか。
その二択だと思っていたけど、白雪先輩は別の選択を自分の力で生み出して選ぶことができる人間だということを忘れていた。
「せ、先輩!?」
白雪先輩は急に抱き付いて、俺の頭をあやすように撫でてきた。
当然ながら女性陣は何事だとわーきゃー声を上げ、高橋はひゅうと口笛を吹いた。
「私が間違っていた。すまない」
「あ、もうそれは終わった話なんで。あの……離れてくれると助かります」
「もう少しだけこうさせてくれ。君が生きている証をこの体で感じていたいんだ」
白雪先輩の心臓の鼓動が体を通じて伝わってくる。
ドクドクと早く鳴っている。緊張……ドキドキしているのがわかる。
「ちょっと!!! 何してるんですか、あんたは!?」
櫛引が待ったをかけた。
「うふふふふ……これはいけませんね」
矢内も参戦。君はちょっと洒落にならないんで光るものは使うんじゃないぞ?
「むほほ~。こりゃ面白いことになったね~」
長谷部はニヤニヤと笑って事の推移を楽しそうに見守ろうとするが、なぜか櫛引側に回っている。
「……」
柊。そんな悲しい顔をするんじゃない! これはこのクソ真面目な先輩のせいであってですね……。
「……」
綾瀬。なぜ君は俺を睨んでいるんだ。この状況を客観的に見れるのはお前だけだ!
頼むからこの先輩をどうにかしてくれ!!!
「橘君」
「あの、離れてください。本当にお願いします。何でもしますから、今すぐに」
「だったら、もういなくならないと約束してくれ」
「分かりました! 約束しますから」
「では、私が通う予定の大学に君も来ると約束できるか?」
「もちろんです。どこにでも行きますから――ふぁっ!?」
してやったり。白雪先輩はまるで凶悪犯のような顔を一瞬していたが、すぐに元の彼女に戻って微笑した。
「そうか。君はそこそこ勉強できるが文系だったな。それに私学だったはず。わかった。君のために大学を変えることにする」
「え!? ちょ、何言ってるんですか?」
「ふふふ。橘君。もちろん、私と同じ学部にするよな?」
「「「「「……」」」」」
あ、本当にオワタ。終わったわ。風が強すぎて終わったどころじゃねぇや。
あーあ。この先輩悪魔~。小悪魔じゃなくて悪魔~。あはは……全然笑えねぇや。
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