173.ガンシューティングゲームは難しい

「なにっ!?!」


 うん。わかってはいたよ。先輩が単に下手だっていうことはさ。


 アウゾン4を二人プレイで遊び始めたはいいが、白雪先輩はゾンビに弾丸を当てるのに精一杯。ま、初心者だから仕方ない。


 弾が切れる度に首を傾げ、ああそうか、とリロードする。ま、初心者だしね。

 ゾンビが全くいない場所で爆弾を投げてしまったり。しょ、初心者だから……。


 それとゾンビが奇襲を仕掛けてくる場面で驚き、きゃあ!? と声を上げてしまったり。まあ、櫛引みたいなビビりがやったらマシンガンを壊してしまっているかもしれない。


 なんだろうな。初心者だから仕方ないと思っていたけれど、やっぱり先輩がただ単にゲームが下手くそなので俺がフォローするしかない。


 一人でプレイする以上にゾンビを倒しに倒し、先輩のミスを帳消しする活躍をした。そうしないとワンコインが無駄になってしまう、というのもあるが。


「先輩。冷静にゾンビを撃ってください。的外れなところ撃ってますよ」


「そうかもしれないがビックリしてしまって……」


「ビックリした後に撃ってください」


「無茶なことを?!」


 まだ一面の序盤。この様子だと一面をクリアできるかどうか怪しい。

 なんとかライフは俺がシークレットを取って初期の三つから五つになったが果たして。


 それから俺の介護もあって順調に進んでいたが、やはりといってはなんだが一面のボスが操作キャラクターを奈落の底へ叩き落してしまう。


「なんだあの化け物は!?」


「悪い組織が作り出したクリーチャーみたいなもんだったはずです。弱点は鼻なんでそこを撃ってください」


 人間の十倍近いの巨体と暴れ狂う一面のボス。研究番号L-1083。

 アウゾンシリーズは研究番号で表記されることが多い。


「鼻? 確かにそこを狙えと出ているが……」


「HPの下のゲージをゼロにしないと俺たちにダメージを与えてくるんで、まずは集中砲火を浴びせましょう」


「わ、わかった」


 地上を目指していた主人公らはボスのせいで更に地下へと迷い込んでしまう。

 そしてボスとの戦いが始まった。


「先輩。鼻です。鼻! そこは乳首です」


「あ、狙いが定まらなくて。わざとではないんだ!」


 先輩は必死に鼻を狙うが、ボスが上下左右に顔を動かして近づいてくるため、初心者の白雪先輩は大苦戦。というかなんでピンポイントに乳首だけを撃ち抜けるんだよ……。なんか、こっちの乳首が痛くなってきたような気さえしてしまう。


「ダメージを受けてしまったのか……すまない」


「全然。これくらいは想定範囲内なんで」


 先輩による執拗なまでの乳首攻勢に俺も気が動転してしまい、俺たちはライフを一つ減らしてしまう。残り四つ。


「しゃーない。爆弾を使いますね」


 爆弾を投げれば一面のボスは簡単に倒せる。HPバーの下のゲージが一瞬でゼロになる。そうしてHPの六分の一が削れた。


「なるほど。橘君が爆弾を温存していた理由がこれなのか。流石だ」


「本当なら爆弾なしでもクリアできるんですけどね。次来ます」


「任せてくれ。今度こそ、弱点を狙ってやる!」


 白雪先輩の心意気は素晴らしいが……。


「先輩!? それは逆の乳首! 右から左になっただけですよ!」


「わ、私だって鼻を狙おうとしているのだが、こやつが暴れるせいで……わ、私は変態ではないからな!!!」


 先輩のせいでまた集中力が切れてしまい、両者にダメージ。

 ライフは残り三つ。少しだけ余裕がなくなってしまう。


「くっ……ここで爆弾を使うしかねぇ」


 爆弾を使って一旦HPを減らす。残り四回。しかし、これで爆弾は残り一つ。

 序盤の方でお手本としていくつか使用し、道中で補充ができて三つだったが一個になってしまった。


「白雪先輩。ほんっとうに頼みます! 鼻です鼻。わかりますか? 鼻ですよ?」


「わかっている。私だって好きでちく……胸を狙ったわけでない。次はしっかり狙いをつける」


 三回目。今度こそ鼻に狙いをつけると思ったが、白雪先輩はとんでもないところに火力を集中させた。


「先輩。そこは股間です。男の弱点かもしれないけど、ボスには全く効かないですよ!」


「わ、わかっている! だが、こやつは少し前傾姿勢で迫ってくるから狙いが……」


「先輩が股間好きなのはわかりましたから、鼻を狙ってください」


 股間を撃たれるボス。少し同情してしまう。

 俺は内股になりながらボスの弱点を撃つが、やはり隣の変態さんのせいで集中力が削がれ、ダメージを負ってしまう。これで残りライフは二つ。


「ちっ……」


 残り一個の爆弾を使用してボスのHPを減らす。これで爆弾は無くなった。

 自力でボスを倒すしかなくなった。


「先輩。あいつの弱点は乳首でも股間でもなく、鼻ですからね? わかりますよね?」


「わかっている。次こそはちゃんと撃ってみせる」


「……」


「そのような疑いの眼差しを向けるでない!!!」


 いや、だって、ね……。

 あと三回、三回下のゲージをゼロにすれば倒せるが……。


「先輩……それは喉仏ですって……」


「こ、こやつが悪いのだ! 顔をあちこちに動かしているせいで……」


「先輩は乳首に股間、喉仏に恨みがあるんですかね……」


「け、決してそのようなことは……」


「……」


「ち、違う! 私は本気で……」


「ふ~ん」


「わ、わざとではない!!!」


 結局、一面のボスを倒すことができませんでしたとさ。ちゃんちゃん。  

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