170.ダンス・ダンス・ショータイム!!!

 綾瀬莉子。ここ最近はハロウィンだのクリスマスだの。

 色々と立て込んでいたこともあって綾瀬と話すことが少なくなっていた。

 それはまあしょうがない。同じクラスだから話さないということはない。


 関係は良好。仲が悪くなったわけでもないし、喧嘩しているわけでもない。

 とはいえ、学校外での絡みが少なくなったのは確か。

 俺は綾瀬がどこで何をしているのか店内を歩いていると、先程柊と矢内が一方的な虐殺ショーを広げていたゲーセンに綾瀬はいた。


 それもノリノリでゲームに興じていた。

 「ダンス・ダンス・ショータイム!!!」と呼ばれているリズムゲーム。

 指定された矢印を踏んでいく、全身を使った音ゲーだ。


 こういうゲームをプレイしたことはないが、見た限りでは相当な難度の曲にチャレンジしていることはわかる。綾瀬はゲームに夢中で後ろの俺には気づかず。


 最後まで踊り終わった綾瀬は決めポーズを取ってくるりとジャンプして振り返った。いえい! とアイドルのように指をさしてウインクする。相当楽しかったのかな~と思いつつ、俺とバッタリ目が合ってしまう。


 まあうん。気持ちめっちゃわかるよ。

 俺は昔、戦国時代が舞台のカードゲームがあって、ワンプレイ五百円するがプレイ後にカードがもらえる。よくゲーセンに足繫く通っていたことがあった。


 ゲームを筐体に読み込ませ、カードを動かして相手陣地をどちらが早く崩壊させるのか。そんなゲームに熱中していた。

 カードに描かれた実在の武将たちはどれもかっこよく、中二心をくすぐるような、そんなゲームであった。


 ある日、俺はカードを手にドヤ顔でプレイしていると、


『あれ? 橘じゃん。何してんの?』


 同級生の一人に見つかってしまい、あまりに動揺してしまい、カードを散乱させてしまい、挙句の果てには筐体に置いていた財布を肘で落としてしまい、おまけに財布のチャックが閉まっていなかったこともあって小銭が転がっていった。


 周囲の人たちに協力もあってカードを小銭は俺の手に戻ったが、かなりの注目を浴びてしまったし、同級生からもそのきょどりかたを笑われた。


 それ以降、俺はゲーセンに行くことなくなり、カードも部屋のどこかに封印されてしまった過去があり……。あれ、おかしいな。動悸が激しくなったきたような。


「よう綾瀬。お、高得点でSを獲得したのか。すげぇな」


「……」


 わかるよ、今の綾瀬の気持ちが痛いほどわかる。

 他のみんなが各々楽しんでいる隙にこういうゲームで無邪気に遊んでいたら、見られたくない相手に見つかってしまい、恥ずかしさが頂点に達してこの世からいなくなりたいと思っているはず。


「面白そうだから俺も一緒にやるわ。綾瀬、お前の足さばきを俺に見せてくれよ」


「なんで!?! なんでそう普通でいられるのよ、あなたは!?!」


「ん? 普通に楽しんでいるみてーだしさ」


「こっちの気持ちを考えてくれる!?!?! あんな……あんな痴態を……!!!」


「いいじゃねぇか。俺なんて中学の頃、塾帰りにノリノリで熱唱していたのを後ろからコッソリ付いてきていた同級生に聞かれていて、おまけに録音されて拡散されたことがある。つまり、お前の気持ちがわかるからスルーしようとしていた俺の努力を無駄にしたくなければ大人しく俺と対戦しろ」


「……橘君はいい人なのか判断に困るのよね」


 ということで俺は綾瀬の隣に立ってワンコイン投入。ダンス勝負が幕を開ける!!!


 選曲は綾瀬に任せる。綾瀬は未だにダメージが抜けきっていないが、選んだ曲は俺でも知っているようなノリノリになれる曲だ。難度も高く初心者の俺では到底不可能。好きなゲームで負けたくないという意地を感じられる。


「私、負けないから」


 ドラマの主人公が言いそうなことをサラッという綾瀬。

 思わずかっけぇ……と称賛したくなるがゲームが始まったのでゲーム画面に集中する。


 様々方向の矢印が下がっていき、それに合わせて踏んでいけばいいシンプルなゲームだが、当然ながら俺のようなビギナーには無理な話だ。


 なんとか矢印に合わせて踏んでいこうと努力するが、スピードに対応することができず一瞬で瓦解。一方、綾瀬は淡々と正確に踏んでいきコンボを重ねていく。


「その程度?」


「いや。無理だわ」


「諦めるの早くない?」


 結果は火を見るよりも明らか。俺の惨敗。

 変にバタバタ暴れたせいで汗をかいてしまい、体が冷えて気持ちが悪くなる。


「意外だな。お前ってこういうの好きなんだ」


「……中学の時によくやっていたの」


「ああ。あの黒歴史時代に?」


「黒歴史ではないけど、よくゲームセンターに行ってやっていたのよ」


「ふーん。だったら堂々とやればいいじゃねぇか。コソコソすんなって」


「だって……なんか、カッコつけているって思われたくないから」


「そんなこという奴が俺たちの周りにいないだろ。それはお目が一番わかっているはずだ」


「……」


「なんで俺を見るんだよ」


「あなただけには見られなくなかったから……ああ、もう! 橘君、こうなったらもう一戦付き合ってくれるかしら」


「なんでだよ」


「ストレス発散。いや、ただの八つ当たりよ」


「ひでぇ……」


 結局、その後五回踊らされて俺の下半身は生まれたての小鹿のようになってしまいましたとさ。


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