最終章

167.打ち上げは戦いだ

 年末年始。多くの人が仕事や学校が休みとなり、帰省したり家族と過ごしたり。

 もしくは自宅でのんびり過ごす人が多いことだろう。


 ここ最近の日本でも年始の数日を休む店が増えてきたが、それが当たり前の世の中になってほしい。年始に外出することなんてねぇんだから。休め休め。


 さて。俺もこの世界に来て初めての年末年始。とはいえ、現実と漫画の世界は相違なく、どこか見たことのある年末年始。テレビの報道では年末年始をどう過ごすか~みたいな話をしていたり、特別番組をやっていたり。


 この時期はアニメの放送もなくなるので寂しくなるが、学校が休みということでその悲しみは相殺される。今の時代、サブスクでアニメを見ることができるから昔のように録画して~みたいなことがない。


 リアルタイムで見る必要もなくなり、自分の好きなように視聴が可能になっている。もちろん、リアルタイムで視聴してSNSで盛り上がるものいい。


 俺はアニメもいいが原作があれば原作を必ず見る人間だ。

 特にラノベが原作で気になるものはチェックするようにしている。

 アニメだけだと話が分からなかったり、アニメだとカットされるシーンがあることも多い。原作の小説を読むことでわかることもあるので俺はアニメで気になった作品はチェックすることにしているのだ。


 最近は異世界に行ったり、ファンタジーな世界観の作品が増えていることもあって原作は必須みたいなところもある。ま、俺にはなんだっていいんだけどな。


「つーことで溜まっていたアニメを消化して……それから……あぁ、そうだった。忘れてた……」


 俺は今すぐにでも海外に高飛びして嫌なことを忘れてバカンスしたくなってきた。なんでそう思うようになったのか。それは二日前に遡ることにしよう。




「クリスマスパーティーの打ち上げ?」


 高橋からこのようなメッセージが送られてきた。要はクリスマスパーティーを終えて、生徒会のメンバーと一緒に打ち上げをすることになったから俺を誘ったということらしい。


 いや、俺は全然何もやってないから。そう断りの返信をしたが、清水さんがご迷惑をおかけしたからということで俺は押し切られてしまった。ということで急遽、翌日の打ち上げに参加。生徒会の面々プラス高橋、おまけに俺が加わってカラオケをすることになった。


 高校生ってカラオケ好きだよなぁ……。安く済ませられるし、飲み食いもできるしふざけても大丈夫だし。物を壊したり汚したり、そういった問題を起こさなければ元気真っ只中の高校生からすると暴れることができる場所がカラオケなんだろうか。


 健全に楽しむ分には結構。最近は変な奴も多いから部屋にカメラを設置している店も多いと聞く。ま、俺はそんなバカなことはしないが。


 打ち上げといっても綾瀬たちとするような、どんちゃん騒ぎにはならず。

 各々が好きなように歌を歌い、食べたいものを注文して食べる。くらいだった。


 河村がわーきゃーと盛り上げると思ったが、自分は控えめに、生徒会、特に後輩に気をつかわせないように立ち振る舞ったり。こんな短期間で先輩らしく、生徒会の会長らしくなったもんだと感心してしまった。


 俺からすると悪くない、クリスマスパーティーの打ち上げが終わった。うん。それで終わり。後は年越しをして……のはずだったのだが。


 打ち上げズルい!!!


 なんと、生徒会のメンバーの一人がSNSに打ち上げの様子の写真をアップロードし、それを見つけた綾瀬たちが駄々をこね始めた。

 いや、お前らは運営に関与してないし……そんな言葉も彼女らに届かず。


 俺は打ち上げをした二日後、なぜかもう一度打ち上げをすることになった。

 いや、なんだこれ。ということで俺は綾瀬たちに言われるがまま、複合エンターテイメントで有名なセカンドアップに到着。電車を乗り継いで三十分ほどの距離にある、それなりに大きめのアミューズメント施設だ。


 ここなら好きなだけ施設にあるもので遊び放題。

 最近はアメリカで成長著しいと聞く。収益はアメリカの方が上だとか。

 娯楽が少ないアメリカではかなりウケているらしい。


 セカンドアップに到着した俺だが、肝心の綾瀬たちは送らるらしくそのような連絡があってがっくし。仕方ないので店内で待つことにした。


 季節は冬本番なだけあって、防寒をしていないと凍えて死んでしまうんじゃないかってくらい寒い。吐く息も白く、目や肌が乾燥してしまう。


「年末に体動かしたくねぇんだけど」


 ただでさえ寒いし、ここでボウリングやその他スポーツをすれば汗をかく。

 汗をかくイコール体が冷えることを意味している。

 わざわざ着替えを持ってくるのは荷物が増えるだけだし、逆に着替えを持って行けばやる気があると思われて馬鹿にされるかもしれない。


 でもまあ、何かあった時のために一応運動着は持ってきた。

 私服で転んで服が破けたり汚れたらたまったもんじゃない。


「まだかあいつら……あ、来た――えぇ……」

 

 綾瀬たちが店内に入ってきたはいいが、彼女たちの歩いているさまはまるで映画のワンシーンだった。ハリウッドで例えると、ズンチャ♪ ズンチャチャ♪ みたいなBGMと演出とともにキャラが現れるみたいなもの。


 綾瀬たちは打ち上げ、クリスマスパーティー成功の打ち上げに来ているはず。

 つまり、お疲れさまで~す。みたいな感じだったはず。俺の認識が間違っていなければの話だが。


 綾瀬、櫛引、柊、長谷部。そして矢内になぜか白雪先輩まで。

 六人の女性が横並びで歩き、全員が緊張した様子で張り詰めた空気を纏わせていた。


「橘君」


 綾瀬が俺の名前を呼んだ。


「あ、ああ」


「さっさと受付をすませましょう」


「あうん。あの……遊びに来たんだよな?」


「ええ。もちろんよ」


「……」

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