166.先輩の将来が不安

 クリスマスパーティーは大盛況だったらしい。高橋が教えてくれたが、親御さんたち曰く、今までで一番楽しいクリスマスパーティーだったという感想が多かったとか。ま、高橋という頼れるイケメン。清水さんという真面目な副会長。頼りないけれど意識が変わった会長。他にも綾瀬たち優秀なボランティアのおかげだろう。


「橘はどうだったのかな? クリスマスの日、何をしていたの?」


 高橋に聞かれて俺は答えに困ってしまう。クリスマスは例のパーティーで祝えなかった、ということで一同がカラオケに集まってはしゃいでいた時のこと。

 俺は参加するつもりがなかったが、高橋らが自宅凸してきたこともあって無理やり連れてこられてしまった。


「いや、俺は普通に寝ていたが」


 細なんとかが櫛引に送る愛のラブソングを熱唱しているが、誰も気にする素振りも、盛り上げることなく俺の発言に耳を立てていた。


「橘君ならあり得る話ね」


 綾瀬は持っていたマラカスをテーブルに置いて言った。直前まで櫛引が歌っていたこともあってノリノリだったようだ。


「そうそう! なんで来なかったのよー」


 櫛引は俺の隣で頬を膨らませて不満げな顔で言ってきた。いや、あの距離近いんで離れてもらえますかね……。


「だって、子どもが俺を見たら将来を悲観してしまう可能性があるだろ」


「あっはっは~! 千隼は確かに陰のオーラがあるもんね~」


 長谷部がジャラジャラタンバリンを鳴らし、ケラケラと笑いながら俺をナチュラルにバカにする。照れるからやめれ。


「ふっ。俺を見ることで反面教師になっては折角のクリスマスパーティーが台無しだろ?」


「た、確かに……?」


 柊はイマイチ納得できないがひとまず納得しようと頷いている。

 あのね。柊は無理に同意しなくていいからな。ボクシングで例えるとエルボーに強烈なパンチくらったみたいに徐々に効いてくるやつだから。


「子どもたちと遊ぶと元気がもらえるのにな」


「それは高橋だからじゃねーのか。ん?」


 ポケットの中で眠っているスマホがブーブーと震えた。またか、と俺はガックシしてしまうのを我慢して席を立った。


「わりぃ。トイレ行ってくる」


 こうなれば誰も俺の後を付いてくる人はいない。

 俺はすぐさま部屋を後にして受付の休憩スペースの椅子に座り、スマホを取り出して送られてきたメッセージを見る。


『橘君。体調はどうだ? ここ最近、寒さが一段と厳しくなり乾燥も進んでいる。風邪に気を付けて年末年始をゆっくり過ごしてほしい。そういえば、年末年始に少しだけ余裕があるからゲームをしないか? もちろん、君の都合に合わせる。勉強の日々で少し退屈をしていたところなんだ。それから――』


「なげぇよ!?」


 メールで有り得ないくらいの長文のメッセージが送られてきて思わずスマホにツッコんでしまう。この人、携帯電話という文明の利器がなければ手紙で送ってきそうなくらい、長文であれこれ送ってくる人だとは。


 まとめると遊びたいとのこと。先輩のことだからゲームだと思うが。

 それにしても顔文字も絵文字もなく、淡々とした文面は先輩らしいかもしれないが、毎日送られてくると流石に疲れてくる。


 こっちもそれなりに文章を書いて返信しないと失礼になるかもしれない。

 そんな脅迫概念に囚われてしまい、俺は適当に文章を盛れるだけ盛っていこうとして、自分でも意味が分からなくなってしまう。


 先輩の受験が成功することを祈っています。俺、ぼんやりながら頭に浮かんだんです。95という数字が。95というナンバーが。これは先輩の合格確率です。95は間違いなく先輩の受験の合格確率だと思います。


 書いててこいつ大丈夫かと思ってしまうけど、先輩はあまり深読みしないこともあって指摘されたことはない。

 人間は案外、文章の矛盾だったりおかしいところはあまり気にならないし、大して文章を読まないということがわかった。


「はぁ……めんどくせぇなぁ」

 

 すみません。今、カラオケやっているのでお話はまた後にしてください。

 返信……っと。俺はすぐに高橋らがいる部屋に戻り、俺は適当に手を叩いて盛り上がり役に徹することに。


「橘。君も歌いなよ」


 高橋にマイクを渡された。いや、俺みたいな超絶音痴が歌ったところで盛り上がらないだろうし、俺のチョイスする曲はアニメファンじゃないと知らないアニメの主題歌。え、何この曲……知らないなぁ。みたいな絶妙に気まずい雰囲気になるの知ってるんだからな!


 あれは中学時代。誘われた行ったカラオケで俺は渾身のアニソンを歌ったが、着ていた面子の誰もが知らず若干空気が重苦しくなったの憶えているからな!!!


 なんだよ。お前らアニメ見てねぇのか!?

 Vばっかり見てないでアニメも観ろ、アニメを。


「わーったよ。一曲だけ歌えばいいんだろ。後悔しても知らねぇからな」


 ここ最近、白雪先輩のことで少しストレスが溜まっている。

 だったらここで発散させてもらう。もちろん、ここにきている連中が冷めた蔑む視線を向けること間違いなしの曲で黙らせてやる。


「俺がチョイスする曲。それは……」


 おっぱいを連呼し、ただただおっぱいを連呼するだけ。

 そんな曲をあえてチョイス。そして俺はマイクを握り、小指をピンと立て大きく息を吸った。


「俺の歌を聞けーーーーー!!!」


 俺の歌は銀河まで届くぜぇ!!!

 はい。案の定、俺が歌い終わった後、葬式後のようなふんいきになりましたとさ☆

 やったね♡

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