162.クリスマスにゲームとは

 白雪先輩と合流した俺たちはあのネカフェに行き、あのホラーゲームをプレイすることになった。クリアしたんだけどなぁ……。先輩は自分でクリアできなかったことが心残りだったようだ。


「今日こそはクリアしてやる」


 白雪先輩はやる気満々。セーターを腕まくりしてなぜかハチマキを持参してそれを頭に巻いた。ちなみに白のハチマキにゲームクリアと達筆で書かれている。


「それ先輩が書いたんすか?」


「もちろんだ。私は完璧主義者なんだ。自分の手でゲームをクリアできないと気になって仕方がなかった」


「受験の方を大事にしなさいって……」


 なんだろうか。この人は努力というか意気込みの方向性を間違えている。

 まあいい。つまんねぇと思ってゲームをやるよりはいい。

 白雪先輩は楽しいと思ったからこそ、必要以上に真面目に楽しんでいるのだろう。


「橘君。私は準備できた。急いでくれたまえ」


「へいへい」


 この人、相当この日を楽しみにしていたんだろう。

 俺よりも先にヘッドセットを装着して俺を急かしてくる。


「そんじゃ始めますね」


「始めてくれたまえ」


 なんだろう。クリスマスの日にネカフェに行って、ホラーゲームをプレイとは。

 いいのか? 本当にこれでいいのか?


 俺は自宅でのんびりクリスマスを過ごし、そんで年末年始を自宅か本屋か、それかショッピングモールを行き来するだけの日々を送るつもりだった。


 だというのにゲームって……しかもVRゲームのホラー。

 しかも一回クリアして、どこに何があって敵や妨害トラップ等も知った上でもう一度一からプレイする。


「……」


 いや、俺は何一つ問題ない。前回の記憶も新しいのでなんなくお札を張っていくのだが、問題は隣で体を動かしながらプレイする白雪先輩。


「またやられてしまった……上手くやったつもりだったんだが」


 白雪先輩は前回の経験がリセットされてしまったのか、序盤からゲームオーバーになってしまう。初歩的な操作のミスであったり、ボタンの押し間違え、単に女の子に見つかって逃げきれずアウトになったり。


「もう一回だ!」


「……」


 新手の拷問か?

 もしやこの先輩。俺が勝負に負けてしまったということを遠回しに暗示しているのか?

 同じことを繰り替えすことで俺の精神にダメージを負わそうとしている?

 いや、そんなまさかな。この人がそこまで意地の悪い人でないことは知っているが、それでも俺にとってはかなりの苦痛を伴うゲームだ。


「先輩。このままだと埒が明かないんで、俺の後を付いてきてください。それと身勝手なことはしない。わかりましたか」


「わかった。すまない」


「謝る必要はないっすよ。とっとと終わらせたいんで」


 俺が先頭に立ち、ゲームを進めていくことになった。

 前回の記憶を思い出しながら進み、あっという間に最後のステージの体育館にやって来た。


「まずは女の子がババーンって現れたら離れましょう。それから攻撃を避けながらお札を張れば終わりなんで」


「わかった」


「先輩。行けますか?」


「もちろんだ! 私に任せてくれ」


 普段の白雪先輩だったら頼りになる言葉だが、ゲームになると不安でしかなく失敗するヴィジョンしか見えない。というか先輩自らがお札を張ろうと躍起になっている。前回はそれができず悔しい思いをこの日まで溜め込んでいたのだろう。空回りしないといいが。


「攻撃にパターンがあります。それを頭に叩き込んでください」


「ああ」


「避けてお札を張ればゲームクリア。俺は後ろでアドバイスするんで」


「頼んだ」


 ということで最終決戦が始まった。化け物といって過言ではない姿になった女の子が襲いかかってきた。白雪先輩は驚異の集中力を発揮し、攻撃を華麗に避けていく。


「三パターンあるのか」


 先輩はすぐに攻撃パターンが三つあることに気づき、攻撃を避けながら頭に叩き込んでいるようだ。


「一番楽なパターンは火を吐き出したときっす」


「なるほど」


 少し頭を使うものは得意なようで先輩はするりと攻撃を避けてお札を張る。

 魂が浄化され、ゲームクリアとなった。


「やったぞ!!!」


 白雪先輩は声を出してガッツポーズをした。彼女につられて俺も柄になく拳を作ってしまう。


「これでクリアっすね」


「ああ。随分と手間を取ってしまったがな」


 俺たちはヘッドセットを外してそれぞれジュースを口に含んで喉を潤す。

 ちょうど入店から一時間が経過。まだまだ時間に余裕がある。


「そんじゃゲームも終わったんで帰りましょうか」


「待て」


 ちょ……嫌な予感というか、これからの展開がわかってしまうことが悔しい。


「他にゲームとやらはないのか?」


「ないない。これはあくまでVR体験してもらうためのゲームなんで」


「そうか……」


「こういうのはちゃんと買ってやるのがいいですよ。ここに来るとお金ばかりかかってやってられませんし」


「そうだな。君の言うとおりだ」


 ほっ……。


「橘君。君はゲームをよくやっていると言っていたはずだ。もちろん、自宅にゲーム機もあるのか?」


「そうっすね。最近はPCもいいゲームあるんで、家庭用の昔のやつから最新まで全部。一応揃ってますけど」


「なら話が早い。君の自宅で他のゲームもやってみたい。お願いだ」


「……」


 こうなるよねー。

 でも、今さら女の子を自宅に招くなんて!?

 みたいな慌てふためくようなことはない。櫛引たちのせいでそこら辺の感覚がバグってしまったせいもあるが。

 ま、先輩なら変な雰囲気にもならないだろうし大丈夫か。


「いいですけど……」


「よし。それでは行こうか」


 白雪先輩は立ち上がって靴を履いた。やけに上機嫌で鼻歌を歌っていた。

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