161.クリスマスはハッピーに

 清水さんの一件も無事解決したとのこと。

 白雪先輩の言葉で一連の騒動を関係者全員に謝罪。高橋との関係も修復し、クリスマスに向けて改めて一致団結した。


 俺は相変わらず白雪先輩を会議室に連れて勉強し、ここ最近は勉強の手を止めて雑談することも増えた。だから何だと思うかもしれないが、少しだけ打ち解けたような。そんな気がする。


 いつの間にかあの勝負のこともどこか飛んで行ってしまった。

 俺の中ではもうなかったかのようになっているだけで、先輩は律儀に勝負を守っているのかもしれない。


 まあ、俺の目的はこの白雪先輩を生徒会から遠ざけること。

 その目的が果たせているんだからいい。ま、勝負に負けたらあの人の恋路を応援するだけ。適当にやって、それで終わりにすれば文句ないだろう。


 というか、あの二人が仮にくっついたとして幸せになれるとは思えない。

 共依存。それも悪い方向に。それは果たしていいことなのだろうか。


 白雪先輩は河村と自身の弟を重ねているところがある。幼少期から亡くなるまでずーっと仲の良かった弟がいなくなり、心にぽっかり空いたところに偶然知り合った河村に弟の影を感じた。


 弟の生き写しのような河村の存在は心の空白を埋めるのにちょうどよかった。

 そういうことなんだろう。ただそれは応急措置に過ぎない。


 弟と河村。二人は似ているところはあるかもしれないが、それはあくまで一部分にすぎない。河村は弟になりえないし、弟の代わりとして存在できない。


 先輩はそれを理解しているのか。それともまだ弟さんが亡くなったことを整理できず、いなくなってしまった影を追いかけているだけなのだろうか。


 死んだ者は帰らない。記憶の中ではいつまでも生き続けるが、それは過去の幻想にすぎない。過去を追えば現在と未来が危うくなる。俺たちは生者は過去を見てはいけない。常に前を向いて歩かなければいけない。


 ま、先輩の様子を見ていると少しずつだけど前を向いているように見える。

 俺の推測に過ぎないが、そうだと信じたい。


 クリスマス当日。学校も休みに入り、今年もあと僅かとなった。

 あっという間に時間だけが過ぎていった。

 吐く息が白くなり、体の芯まで冷えてしまうほど季節が進んだ。


 高橋たちは公民館に集まって最後の仕上げとプログラムの確認を行っているだろう。綾瀬や櫛引。長谷部に柊に細……さんらもボランティアとしてクリスマスパーティーを手伝っているという。


 俺は白雪先輩を釘付けするための犠牲になったので高橋と清水さんら生徒会の力になれず、クリスマス本番も俺みたいなやつがいると台無しになると思い断った。


「ま、クリスマスに外に出てボランティアはめんどいしな」


 河村も時々やらかしたりしたらしいが、無事本番を迎えたので少しは成長したはずだ。ま、これで俺は勝負に負けてしまったということになるが。


 先輩をデレさせることは叶わず。

 まあ、いっか。クリスマスパーティーが開催されて、子どもたちが笑ってくれたんだったらいい。


「子どもの相手もめんどくせぇし」


 第一、俺がいたらこうなるに決まっている。

 ママ~目つきが悪くて気持ち悪い不審者がいるの~。

 ねえねえ、あの人って部外者じゃないの~?


 いや、確かに目つきは悪いし喋るとひねくれ根性丸出しになるから、子どもたちの相手は適当に雑になるから嫌われるのは目に見えている。


 あいつらは∞の体力を保持し、力の限り暴れるのだ。

 幼稚園くらいの子どもは特に大変だろう。無邪気で好奇心旺盛。

 走り回ったり、大人しくできないから暴れまわる。


 転んだりして怪我をすれば大泣き。きっと会場でボランティアをしている綾瀬たちはひっきりなしに動いていることだろう。


 ま、子どもは元気に声をあげたり体が動かすことが仕事という。

 つまりその子どもを相手にするということは必然的に仕事になる。

 給料が発生してもおかしくないのでは?


「ん?」


 俺は自室でベッドに寝転がりながらゲームをしていると、スマホがブブっと鳴った。このバイブレーションの感じはメールか? 今時、メールなんて就活中の学生か社会人しか使っていないぞ。もしくはキャリアメールのほとんど微塵も興味のないキャンペーンメールとかくらいだ。


「あ、白雪先輩……」


 白雪先輩からだった。そういえばあの人、メールと電話はよく使うと言っていて、LAINというアプリはわからないと言っていたから、仕方なく電話番号とメールアドレスを教えたんだっけ。


 ガラケー時代かよと思うかもしれないが、これが通じなくなると思うと時代の変化は速いと思ってしまう。というかガラケーって何?


「げっ……」


『こんにちは。いきなり連絡してすまない。今日という日のために勉強を頑張り、少しだけ余裕ができたので、以前私がクリアし損ねたあのゲームをクリアするべく、ネットカフェに来てくれないか?』


「ええ……」


 どんだけあのゲームに思い入れがあるんだよ。

 あの人、受験生だよね? 本当に大丈夫なのか、確認のメールを送ると返信が来た。


『問題ない。模試の結果はA判定。仮に第一志望がダメだったとしても他の大学で問題ない。大学受験程度で死ぬわけではない』


 優秀なあ先輩だから言えるのでは?

 俺は適当な言い訳を言って断ったが、


『暇だと高橋君から聞いた。それとも何か予定が入っているのか?』


「……」


 なんだとう。この人は俺の退路を断つのが上手い。

 ここであーだこーだ言い訳して、連絡を絶ったとしても俺の家に来て迎えに来るに決まっている。


「はぁ……しゃーねーな」

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