159.先輩!?

 VR機器を借りてきた俺はPCに接続する。

 この程度だったら説明を見ながらだったら誰でもできる。


 ヘッドセットの一覧を興味深そうに見つめる白雪さんにどうぞどうぞ、と装着して見るように促した。先輩はどうやるのかぎこちない手つきで四苦八苦しながらなんとか装着。


「ふむ。これが噂のVRか」


「まあそうですね」


「これで何をするのだ?」


「そうですね。ゲームとかアニメとか。映画やドラマが見れるらしいですね」


「それは普通に見るのとどう違う?」


「その世界に入り込んだような体験ができたり、特にゲームは今まで以上に迫力が増したり、ホラーゲームは特にやばいって聞きますけどね」


「ホラーゲームか。面白い。やってみようではないか」


「時間はいいんですか?」


「構わない。あとで勉強に熱が入っていたと言い訳できるからな」


「先輩らしくないっすね。不良になっちゃいましたか?」


「バカ。私を何だと思ってる」


「クソ真面目な人」


「周囲から真面目といわれているかもしれないが私は一人の人間だ。興味をもてば他の子と変わらず熱中することだってある」


「まあ、そうですね」


 白雪先輩は決して鉄仮面でも創作物に出てくるような堅物な先輩キャラでもない。

 ただ、親の教育で真面目に見えるだけで、年相応な一面がある。

 案外ノリが良い。けど、なんだろうか。俺の本能が警告を出しているが、VRなんて高くて買えないこともあって俺も乗り気だったので無視することに。


「あ、これとかいいんじゃないですか」


 VRでできるホラーゲームを見つけた。

 二人でプレイできるということでもう一機借りて二人ですることに。


「橘君は怖い系は平気なのか?」


「好きな部類なんで大丈夫です。先輩は?」


「私はどうだろう。映画は気晴らしで見るがホラーはあまりだな」


「怖くないんですか?」


「多分大丈夫だろう。どうせ作り物だ」


 白雪先輩はさっぱりと言い切った。

 頼りがいがある先輩だと思ったし、取り乱したりしないから楽しくゲームができそうだ。


 ということで俺たちは軽く操作方法を確認してからホラーゲームをプレイ開始。

 どうやら夜中の学校を探索して呪われた女の子を除霊するといったゲームだ。

 

 校内にある残留思念をお札で浄化していき、最終的にすべてを浄化すればゲームクリアとなる。ま、そんな感じでチュートリアルで説明を受ければ簡単だ。


「ふむ。なぜこの子は人を襲うようになってしまったのだろうか」


「それはご想像にお任せします、なんじゃないっすか。情報全部お出しにして、想像の余地がない作品なんて退屈ですよ」


「ふ、そうだな」


 さて、お札は七枚ある。これから懐中電灯の明かりだけを頼りにお札を特定の場所に張っていく。のだが、ホラーゲームお約束のお邪魔キャラが当然いる。


「怨霊になった女の子に見つかったら逃げて隠れないといけないんです。白雪先輩、見つかったら逃げて隠れる。俺らが女の子を見つけたら見つからないように立ちまわります」


「わかった」


 物分かりが早くて助かる。ということで正門に入ってゲームスタート。

 まずは俺と白雪先輩は軽く操作をしてゲームに慣れていくことから始める。


「ゲームは難しいな」


「慣れますよ。そんじゃ、まずは一階を探索していきましょう」


 先輩はぎこちない操作ながらも俺の後を付いてくる。

 VRということでどこを見ても向いてもゲームの中に入り込んだ気分となるので、普段プレイしているゲームとは全く異なる体験で内心は子どものようにワクワクしている。


「えーっと。あ、保健室にあるみたいですね」


 下駄箱のすぐ横に保健室があるが、あからさまに不自然な祠があり、ゲーム開始時に説明された残留思念があるのだろう。


「どうやってお札を張るんだ?」


「近づくとお札を張るって表示されるんで、対応したボタンを押してください」


「ボタン? これか?」


「違います。それはホームボタン。それじゃなくてさっき説明した――」


 先輩はどれがどのボタンなのかイマイチ把握できていない。

 まあ、ゲームをやったことない人からするとVRのコントローラーですらどのボタンがどれなのかわからなくてもおかしくない。


 俺は自分で実演するようにボタンの説明をして、白雪先輩もようやく理解したのか、


「お札を張った!?」


「みたいですね。あとは六つですね」


 無事、一枚目のお札を張ることに成功。残り六枚。ゲームオーバーにならないように気をつけながら進もう。そう思った矢先だった。


「あ、先輩! 例の女の子が来ました!」


 保健室を出ようと俺は顔だけを出して周囲を確認すると、白装飾の服を着て浮いている女の子を見つけて声を上げた。


「む? どこだ?」


「どこだ、じゃなくて隠れましょう。このままだと見つかってゲームオーバーになっちゃいます」


「だが、まだ見つかっていないのだろう? だったら私にもその女の子を見せてみろ」


「いや……まあ、ちょっとだけですよ。女の子が振り返ったら保健室に入ってベッドの下に隠れてくださいね」


 あまりここで喧嘩をしても意味がない。ゲームだしね。

 先輩の要望通り、俺は先輩と入れ替わってあげた。

 あそこにいます、と指差した方を先輩が見ると、


「おお、確かにいるな。VRだと背中がゾクッとくるな」


「結構怖いっすよね」


「ああ。これは面白いな。む。女の子が振り返ってこちらに近づいてきているが?」


「見つかった!? 先輩! 早く隠れないと!」


 女の子の視界は某ステルスゲームのNPCよりも優秀らしい。

 ステルスゲームで潜入に特化して、敵に見つかるとこちら側が不利なゲームなのにもかかわらず、敵のAIがおバカさんであったり、いや普通それだったら気づくだろ……みたいなガバガバ視界&ガバガバ警備にクスッとするようなゲームではないらしい。


 俺は素早くベッドの下に隠れたが白雪先輩は焦ってどのボタンを押したらいいのかわからなくなってしまった。


「ど、どのボタンなんだ?」


「だから、親指の所にあるボタンですよ」


「親指……とは?」


「パニくっておかしくなってる!?!」


 先輩は棒立ちのまま女の子に見つかり絞殺されて死亡。

 あっけない死に白雪先輩は不満の様子だった。


「これで終わりなのか?」


「先輩はね」


「むう……それではつまらないな。もう一度やりたい」


「……」


 ぜってぇ次もゲームオーバーになるんだろうなぁ……。

 そう思いながらもゲームをリセットして一からプレイするのだった。

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