158.密室で二人

 密室空間。それも男女二人のみ。

 正確には法律の関係もあって完全な密室空間ではないが。

 この情報だけで変なことを考えている人がいるとしたら間違いだ。


「清水さんはどうだったんですか?」


「彼女は自分の行いを反省している。後日、迷惑をかけた面々に直接謝罪する、と私と約束した」


「じゃあ、無事解決したんですね」


「そういうことになる。清水は先に帰宅したようだ」


「それならよかったです」


 真面目な話をネカフェの個室でする。なんだか場違いな感じがするが、会員登録をして受付まで済ましてしまった以上、利用しないのは失礼だ。


 周囲に迷惑をかけないように話し声をコントロールしながら、俺と白雪先輩は狭い個室で清水さんのことを話していた。


「それにしても……ネットカフェとやらはなんだか不思議な所だ」


「来たことないんですよね。どうですか? ご感想は」


「そうだな。静かに勉強ができそうだ、というのが第一に思い浮かぶ」


「ここは勉強というよりも娯楽を楽しむ場所なんで……」


 まあ、うるさい客がいなければ静かなんだろうけど。

 ここのネカフェは全国展開しているチェーン店ということもあって、オプションを付ければ飲み物も飲み放題。食べ物も注文したら食べられる。おまけにシャワーやカラオケ等もある。


 普通に遊ぶ分には問題ないくらいの設備が整っている。

 それらを説明すると白雪さんは真面目そうに話を聞いていた。


「もっとこう肩の力抜いていいんですよ。ネカフェはのんびりしたり、PCを使って色々するところなんで」


「PCか。一体何に使うのだ?」


「ゲームとか色々やるもんだと思います」


「ゲームか。私はやったことがないからわからないな」


「でしょうね」


 スマホもロクに使えないんだからゲームなんてやったことがないことは容易に想像できる。だけど、俺の言い方に引っかかったのか、


「ゲームをしたことない人間は変か?」


「変ってわけじゃないですけど、昨今の時代背景的にゲームをしたことない人ってマイノリティー側なのかなって。スマホもあるし」


「両親が目も頭も悪くなると言ってやらしてもらえなかったんだ。厳格といえばそうかもしれないが」


「ちゃんと子どものこと考えるいい親じゃないっすか。最近は子どもが静かになるかっら、スマホ渡して放っておく親ばかりだし」


「ショッピングモールでよく見かけるな。親子に大切なのはテクノロジーではなく、コミュニケーションのはずだ」


「そうですね。コミュニケーションを放置してスマホに頼って。結果的に興味が外じゃなくて小さな画面に行くのは健全じゃないと思います」


「奇遇だな。私もそう思っていた」


「まさか。先輩もひねくれものなんですか?」


「君と一緒にしては困る。私はこれから先の未来を担う、子どもの行く末を心配しているだけだ」


「ですよねー」


 まったく、と白雪先輩は呆れているようだ。


「そろそろ一時間経つんで帰りますか?」


「そうだな。長居は無用だ」


 男女二人っきりだけど、ラブコメ的な展開は期待しないでくれ。

 先輩はそういうラッキースケベとは無縁だし、そもそもうひょ~みたいなトラブルが発生したり、不可抗力が働くなんてそうそうない。


 どこぞのリトさんみたいな、俺はラッキーなスケベ力はない。

 まあ、中学生の時は羨ましいと思っていたが、冷静になってあの主人公の境遇だったり生活を客観視すると、女の子にべたべたされて自分一人の時間が全くないので、羨ましいという感情は萎んでただただめんどくさそうという感想に着地する。

 つまり何が言いたいかというと、ラッキースケベは羨ましいということ。以上。


「ちょっと待ってくださいね。PCの方から操作できるんでちょっと待ってください」


 確かPCの方で退出の確認だったり、受付でフリータイムだとかナイトパックだのチェックができる。現在、どのくらい利用しているのか。料金はいくらになるのか。


 現役の高校生はバイトをしている人以外は金銭事情は寂しいもの。

 ごく一部のはせーべというバグを除けば千円は高額。


「PCか。私は授業以外で触らないから新鮮だな」


「ちょっと触ってみます? あ、でもここから出ないとなんで」


「少しくらい出るのが遅くなっても大丈夫だ。知的好奇心は昔から変わらずある方なんだ」


 白雪先輩は俺と体が密着する距離まで迫ってPCの前に顔を出した。

 綾瀬たちとは違う、柔軟剤のよい匂いが鼻腔をくすぐった。


「操作方法分かります?」


「馬鹿者。私を何だと思ってる。マウスの操作くらいできて当たり前だ」


「どうなんですかね……」


 この人は変な自信がある。俺は横にずれると先輩が真ん中に陣取る。

 一応横からアドバイスができるので大丈夫だと思いたいが。


「検索は……これか」


「それは違いますね。スタートボタンです」


「ではこれか?」


「そうですね」


 操作もたどたどしい。検索エンジンも一発でたどり着けない。

 不安でしかないが、まあこのくらいだったら誤差の範囲内。


「PCとやらは便利だ。これで色々と調べられるのはいい」


「スマホでもできるんですけどね」


「なに!?」


「驚くところ違いますよ……」

 

「では、PCでできることのメリットはなんだ?」


「まああれですかね。スペックが必要なゲームとかVRとか。そういうのじゃないっすか?」


「VR……ああ、ニュースでよくやっているアレか」


「一応、お金を払えばVRの映像作品が見れるらしいですけど」


「ほほう。試しに使ってみるか」



 


 

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