157.頼れる人なんだよね……?

「清水さんはどこに行っちゃったんですかね」


 俺が問うと白雪先輩は焦る様子もなく一言目で答える。


「近くのネットカフェにいるだろう。以前もそうだった。見つけるのに時間はかかったが」


「ここから一番近くて……歩いて十五分くらいのところっすね」


 一度目にネットカフェにいたから二度目もそうだろう。という安易な予想だが、この先輩がいると妙に納得感があるというか。この人に付いていけば問題ない。そう感じさせる安心感がこの人にある。


「橘君。一緒に行って彼女を説得しに行こう」


「何を説得するんです?」


「いじけない、ちゃんと高橋君と話し合って溝を無くして協力すること。それと生徒会の面々に謝罪するように、とだな」


「まあ、そうですね」


 ということで近くのネットカフェに向かって俺と白雪先輩。

 歩いて十五分は適当な話題を話しながら歩くとあっという間についてしまう。


「白雪先輩。着いたはいいんですけど、どうやって探すんですか? 店側はお客さんの情報なんて話せないだろうし、だからといってしらみつぶしで探すのも……」


「彼女はああ見えて繊細な性格をしている。一番奥の端っこの席を確保している」


「前回の経験ってやつですか?」


「そうだ。とはいえ、見つけたのはその先輩だ。私は見当違いの所を探してしまっていたんだ」


「ふーん」


 ということで入店。と、ここで問題発生。


「先輩。いくら人探しに来たといっても受け付け済ませないと入れないんじゃ」


「そうだな。少しだけお邪魔してお会計を済ませばいい話だ」


「そうですけど……」


 この人は男女二人という組み合わせで、それもネカフェという場所にいるという状況が何なのか、わかっているのだろうか?


 確実に受付の人に二人用の座席を案内させられるだろうし、結構狭かったりして体が密着してしまうのも珍しくない。


「じゃあ受け付けすましちゃいましょうか」


「そうだな」


 俺が受付の女性に声をかけると、


「ご利用には会員登録が必須となります。アプリをダウンロードして、会員登録を済ませてからお声かけください」


「あ、わかりました。すみませーん」


 そりゃそうだよな。事件やらの影響で規制が強くなったと聞く。

 俺はアプリをダウンロードしてさっさと会員登録を済ませる。これくらいなら朝飯前だ。


「先輩。会員登録できましたか?」


「ん? それはどうやるのだ?」


「え?」


 白雪先輩は使い込まれていない綺麗な状態のスマホを持って首を傾げていた。

 カバーもスマホの画面も、状態が良くて新品同様。

 俺は頭上にクエスチョンマークが浮かぶが、きっとここのネカフェのアプリのことを知らないだけだろうと思った。


「えっと。ストアを開いてですね」


「ストアとは?」


「え?」


「なんだ? 私の顔に何かついているのか?」


 ま、まさかこの人……。


「先輩ってもしかして……こういうの苦手、ですか?」


「苦手ではない。わからないのだ」


「……」


「昔からこういうものに触れる機会が少なくてな。高校生になってからスマートフォンを渡されたが、未だにどうやって扱えばいいのか、皆目見当がつかない。これがなくても生きていけるから現状は問題ないが」


「……はあ」


 今時珍しい。若いのにスマホを全く扱えない子がいるとは。

 でもまあ、そういう人だっているにはいるだろう。

 俺は気を取り直して白雪先輩に優しくわかりやすく説明しながらアプリのダウンロードから会員登録まで教えてあげた。


「橘君。なぜ入力ができないのだ?」


「橘君。電話番号はわかるがメール? アドレスなるものはどうやって知ればいい?」


「橘君。メールとは?」


「橘君。これを押せばいいのか?」


 機械に疎い自分の母親を相手にしている気分になった。

 でも、こういうのも俺たちが大人になって子どもができたら、「もう! なんでこんな簡単なことがわからないの!?」って子どもに怒られることも減るのだろう。


 時代の移り変わりと世代交代が迫っているな……と、そんなことを思ってしまう。

 白雪先輩が会員登録を終えるのに時間がかかってしまったが、無事受付を済ませて清水さんがいると思われる個室まで急いだ。


「おそらくここだ」


 白雪先輩は小声で個室に指を刺した。

 一番奥の端の個室。案内図には一人用だったはず。


「どうするんです?」


「ノックをする」


 先輩がノックをするとしばらくして個室のスライドドアが開き、清水さんが顔を出してきた。


「清水。話がある」


「……はい」


 観念したのか清水さんは大人しく個室から出てきた。


「橘君。君は個室で待っていてくれ」


「はい。漫画でも読んで時間を潰しておきますね」


 スマホの件で不安になったけどやっぱり頼りになる先輩だ。

 俺は二人用の部屋に入って高橋に連絡。清水さんが無事見つかったこと。白雪先輩が清水さんと話して説得すること。


 高橋からすぐに返信が来て、迷惑をかけてごめんと謝罪。

 僕たちで処理するから任せて、とそこでやりとりが終わった。


「あの人は河村が絡まなければ優秀なんだけどな……」


 俺はリクライニングチェアに背中を預けて首を回した。

 白雪先輩の説得というか話は長くなるだろうし、少しここで休んでおこう。

 話だって長くなるだろうしな。


 俺はスマホをいじったり、PCを起動させてネットサーフィンをしたり。

 それからやく一時間が経過。ドアをノックされて出ると、


「すみませんお客様。お連れの方を案内しましたので」


「すまない」


 白雪先輩は店員さんに連れられて戻ってきた。

 一瞬どうしたのか理解が追いつかなかったが、部屋に入った白雪先輩が恥ずかしそうにスカートをいじりながら白状する。


「実は迷子になってしまってな……」


「……」


 この先輩、頼れる……んですよね?

 いやでも、わざとじゃないし憎めないところも先輩のいいところ。なのか?

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