156.高橋が○○だったの忘れてた……

 俺が白雪先輩を引っ張り出しているおかげでクリスマスパーティーの件は進んでいるらしい。高橋から毎日のように報告が来るが、少し元気ないこと以外は大きな問題がない。


「河村も悪い奴じゃないしな」


 高橋が上手く彼をコントロールできているだろうし、フォローだって清水さんと一緒にやれば上手くやれるはずだ。


 今日もいつものように白雪先輩と勉強……のはずだった。

 図書館の会議室。俺と白雪先輩はいつものように勉強道具一式を出して勉強を始めるが、


「ん?」


 高橋から連絡が来たと思った。俺はスマホを手にして机の下で見てみる。

 LAINのメッセージが届いており、送り主に眉根を寄せてしまう。


「……」


 河村からメッセージが送られてきた。俺とあいつは連絡先を交換していないが……何の用だろうか。友達登録を一応してやってから送られたメッセージを見る。


(大変なことになったから生徒会室に来てほしい?)


 河村が悪戯で送ったようには思えない。何かトラブルが発生したのか。それとも不測の事態が起きたのか。


「先輩。ちょっとお腹が痛いので……帰りが遅くなります」


「橘君。大便は生き物の生理現象なのはわかるが、便秘になっていることは言及しなくていい」


「すんません」


 とりあえず俺は生徒会室を目指した。

 生徒会室についてすぐに入ると、机と椅子がごちゃごちゃに乱れ、まるで窃盗犯が物品を漁ったかのような状況に俺は頬が痙攣してしまう。


「河村。なんだよこれ」


 生徒会室には河村しかおらず、眉を八の字にして窓際で小さくうずくまっていた。


「橘。来てくれたのか?」


「ああ。高橋から教わったのか?」


「うん。ダメだったか?」


「いや、そんなことはいい。何があったんだ?」


「えっと、長くなるけどいいか?」


 河村の説明が始まった。話が長くまとまちがなかったので俺は脳内で勝手に保管していく。つまりあれか。生徒会副会長の清水さんが高橋に好意を抱いて、本日告白をしたとのこと。もちろん、高橋は断ってしまうが、結城を出して告白してフラれてしまい、現在の二人はクリスマスパーティーに向けて協力している間柄。


 フラれたショックと発散できない感情をここで爆発させ、清水さんは「もう無理……」と呟いてどこかに行ってしまった。高橋も後から生徒会室に来て、清水さんの状態を聞き、急いで彼女を追いかけて行ってしまった。


 こんな状況で生徒会の仕事なんてできるはずもなく、河村が他のメンバーを帰らせたが、まさか高橋と清水さんの二人の間でトラブルが起きるとは思わず、河村はどうしていいかわからず俺にヘルプを出してきた。ということらしい。


「忘れてた……あいつがモテるってこと失念していた」


 俺は頭をかきむしった。ただでさえ俺は白雪先輩で手一杯。

 それにプラスして清水さんのことをフォローしきれない。


「橘。俺はどうすれば……」


「お前は生徒会室を元に戻せ。俺が何とかする」


「でも……」


「お前の判断で他のメンバーを帰らせたんだろ。自分の言葉に責任をもってやれ」


「わかった。橘一人で大丈夫なのか?」


「なんとかする」


 あーもう! なんでこんな肝心な時にトラブルになってんだよ!

 やっぱり主人公らしく、なんでベタなラブコメ的な展開になってんだよ!

 嫌な予感はしてた。高橋を見る目線が怪しいとは思っていたけども。


 俺は生徒会室を出て歩きながらスマホで電話をかけた。

 勿論相手は高橋。何コールしても一向に出る気配がない。


「ちっ……クソ」


 清水さんの連絡先を俺は知らない。生徒会室に戻って河村に聞くと、


「俺だって清水さんに電話した。けど、ダメだった」


「だろうな」


 河村に悪態をついてもただの八つ当たりになってしまう。

 再び生徒会室を出て早歩きで顔を歪ませながら愚痴を吐いた。


「どうすんだよ、これ……」


 俺と清水さんとの間に接点はほぼないに等しい。

 業務的な話をするくらいでプライベートな会話はない。


 彼女がどんな人かは断片的なことしか知らない。

 真面目で実直に生徒会の仕事をこなす人。あと眼鏡をかけているくらい。


「先輩も放っておけないし……」


 頭がごちゃごちゃで冷静になれない。ひとまずは一人にさせてしまった先輩の下へ一旦帰らないと。だけど、絶対に高橋と清水さんのことで頭がいっぱいで普通に話せない。


「こうなったら先輩を巻き込んで……でもなぁ……」


 先輩を巻き込んでいいのか。

 そんな迷いは一瞬で消えてしまった。俺よりも白雪先輩の方が清水さんを知っている。だったら利用した方がいい。


 俺はすぐさま先輩のいる会議室へ戻る。

 先輩は肩で息をして強張った顔を見て異変にすぐに気づいた。


「何かあったのか?」


「手短に話します」


 俺は高橋と清水の間にトラブルが発生したこと。おまけに河村は生徒会のメンバーを帰して一人で生徒会室を片付けていることを伝えた。


「なるほど。またか」


「また?」


「ああ。彼女は似たようなことをして暴れたことが一度あった。去年のことだ。私の一つ上の先輩。私の一つ前の生徒会長がいて、彼に一目ぼれした清水が告白してフラれて。自暴自棄になってことがある」


「そんなことが……」


 清水さんに限ってそんなことない……なんて偏見を持ってしまったのは俺の方か。

 彼女だって一人の人間だ。完璧な人間なんていない。

 誰だってミスをする。頭がいいと言われている人でも、要領がいいと言われても、一流大学を卒業している人でも、有り得ないミスや失敗をする。


 ○○だから~、という勝手なレッテルを貼って、相手を優秀な人間だと思い込む、俺たちが悪なのではないか?


「私に任せてくれ。清水のことは一年見てきた。彼女のことは君や高橋君より知っている」


「すみません。色々と」


「気にするな。こういうときは先輩を頼るんだ。伊達に君よりも一年長く生きているからな。任せておきなさい」


 白雪先輩のウインクは最高にクールだった。

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