155.自販機で当たりが出ると嬉しい
本日は今シーズンで一番の冷え込みだそうだ。朝から息が白く、針で刺されるような寒さに身震いしてしまう。ブレザーの中にセーターを着てもまだ寒い。マフラーに手袋をしてなんとか寒さは防ぐことができる。
そんな寒い日のこと。あまりの寒さから家でゆっくりしているのもあれなので、いつもより早めに登校することにした。早く学校に着いて教室の暖房をつけ、大人しく待った方がいい。
自転車に跨り凍えるような風を全身で受ける。
まるで自分だけ北国にいるような、そんな気分を味わったこともあってテンションがダダ下がり。
まだ十一月の下旬。冬はもう少し後だと思ったのに。
この寒さはアレか。太陽の男と呼ばれたかの元プロスポーツ選手が国外にいるせいか?
あの人が国内にいるかいないか。
それだけで日本や他国の天候や気温を変えてしまうとか。
そんな迷信じみたことがネットやSNSを中心にネタにされているが、そういうので話題になるのってなんかズルい。
いじられている本人がどう思っているのかわからないが、少なくとも変なスキャンダルや不祥事絡みでネタにされていないので、俺だったらおいしいと思っちゃう。
ネットやSNSでネタにされるということは、若い世代にも知れ渡っている可能性がある。つまり現役を引退してもなお、ミームとして語り継がれるのも悪くは……いや、それはちょっと嫌だな。
もっとこう……猫たちが音楽やBGMに合わせて、平和的なミームだったらいいんだけど。ちぴちぴちゃぱ……あれって何十年の曲で子どもが歌っているとか。
いやもう古いか。まったく……最近は流行の移り変わりが早くておじちゃん追いつけないよう……うぇぇん。いや、俺はまだじじいって自虐する年齢ではないが、高校生の俺ですらついていけないんだから大変だ。
どのくらい大変かと言うと、△△ちゃん可愛い~♡
と、言っていたアニメオタクがいつの間にかVストリーマーにハマって、○○ちゃん可愛いデュフ~♡
と、萌え萌えしていたが事務所を卒業して悲しんだと思ったらすぐに転生して□□ちゃん可愛い~こぽぉ♡
と、お前は○○や□□が好きじゃなくて、そのVストリーマーの中の人に好意を抱いているんじゃねーか?
ってくらい俺にはわからない。
今のVストリーマーって、なんだか芸能人のようになっていることもあって、ここ最近の俺の中で多少なりとも全盛期が終わってしまった感がある。
素人からVになるのがよかったのに、今は元アイドルだとか元人気ストリーマーだの配信者が入ってきて興ざめ。
俺が観たいのはVであって中身じゃねーんだよ!
ああ、俺は時代に付いていけない敗北者じゃけぇ!
「……寒っ」
寒いと独り言や愚痴ばかり考えてしまう。
ダメだダメだ。朝からこんな文句ばかり言っていたら本当にひねくれまくってドリルみたいになって天元突破しちゃう!
走りだした~……。
あのOPいいよね!
「なんか飲むか」
学校近くの自販機の前で俺は自転車を止めた。
この自販機は世界の食堂からのコーンポタージュが売っている。
他の場所ではなかなか売っていないこともあって、寒くなった今、ちょこちょここの自販機を利用させてもらっている。
「このコーンポタージュは他のとは違うのだよ。コンポタは!」
周りの通行人がビックリして怪訝そうな目で俺を見てくるが、そんな些細なことが気にならないくらい世界の食堂からのコンポタは美味であるのだ!
他にはない甘みの絶妙なバランス、コーンは多すぎず少なすぎず。
口当たりがよく飲みやすいコンポタは他にない。
俺はコンポタに関しては口がうるさいんでね。すまんな。あっはっはっは!
……というのは嘘で細なんとかがこれ美味し~って相変わらず声を大にして自慢していたのを見て、そんなコンポタで味が変わるのか、と懐疑的に見ていたが実際に買って飲んでみて自分の浅はかさに失望したことがあった。
なんだよ。コンポタによって全然違うじゃねーか!
ということで俺は絶賛、このコンポタにドハマりしている。
「スイッチ……オン」
自販機のボタン。ちょっとSFアニメっぽく押しちゃうことあるよね?
……え、ない?
俺だけ……いや、寒すぎてテンションがおかしかっただけだから。
普段からカッコよく自販機のボタンを押したりなんかしてないんだからね!
このバカ! と言ってぶん殴ったり蹴ったりする暴力系ツンデレヒロインはどこに行ってしまったのだろうか。
ガコン、と音を立ててコンポタが入った缶が落ちてきた。
俺はコンポタの缶を取り出そうとしたが、その前にルーレットの結果を待たないと。
この自販機は一本購入するとディスプレイのルーレットが回る。
同じ数字が三つ並ぶともう一本無料で選べるとか。
かれこれ十本以上、この自販機で購入しているが揃う気配がない。
確率操作してないよね?
まさかそんなねぇ……。
「当たった……」
テッテレ~という小気味よいBGMがなり、七が三つ揃って三段あるうちの一番下の段の飲み物のボタンが光った。ああ。二段目以降のペットボトルが買えなくなってる。
一番下の段は主に俺の買ったコンポタやコーヒーといった飲み物しか売っていない。
「ちょっとせこいな……」
とはいえだ。俺はこのコンポタで十分だ。
二本目はいらないし。だからといって他のやつに渡そうにも日本は持ち歩きたくない。どうしたものかと思っていると、
「橘君か?」
「あ、白雪先輩。おはようございます」
「ああ、おはよう。自販機の前で何をしているんだ?」
なんという幸運。なんという僥倖!
白雪先輩はコートを着こんで寒そうにプルプルと震えていた。
「自販機で飲み物買ったらルーレットでスリーセブンが出て当たったんですよ。無料で一本貰えるんで先輩どうぞ」
「いいのか?」
「いいんですよ。無料だし。二本目はいらないんで」
「そうか。ありがたく貰おう」
白雪先輩は砂糖のいっぱい入ったコーヒーを選択。
プルタブを空けて一口飲んだ。
「昔を思い出す」
「何がです?」
「昔、君と同じく自販機で当たった人がいて、私が苦手な砂糖なしのコーヒーを渡してきた。もう昔の話さ」
「……」
「ありがとう。体が温まる」
「それならよかったです」
「橘君」
「なんです?」
「これは君が狙ってやったことか?」
「狙ってできるんだったら俺は毎日のように悪用しますけど、残念ながら偶然当たったんです。嘘じゃありません」
「ふっ。そうだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます