151.デレさせるのは無理?

 白雪先輩に威勢よく啖呵を切った。切ったはいいが……あの時は自信満々に言ったが、本音は不可能だと思っていた。だって無理じゃん……どうやってあの先輩をデレさせるんだよ。デートで戦争すればいいのかい?


 そんなどこぞの主人公みたいではないので、潔く白雪先輩と河村を引き離すことに集中しよう。現在のクリスマスパーティーの障壁は河村ではなく白雪先輩だ。


 河村のやらかしばかり目立っているが、あいつができる仕事を振り分けてやれば問題なかった。あの先輩が来るまではそれでなんとかなっていた。


 あの先輩がしゃしゃり出て、それから歯車が狂ってしまった。

 だったらその先輩を俺が無理をしてでも連れ出して、その間に高橋と清水さんが立て直すはずだ。


 当然、河村という傀儡をそれっぽく見せつけておけば白雪先輩も文句ないだろう。

 ということで放課後になってすぐ生徒会室に足を運ぶのだった。


「高橋。そういうことで後は頼んだ」


 生徒会室に向かい最中、俺は高橋の肩を叩いた。


「大丈夫かな? 白雪さんにそんな約束しちゃって」


「いいんだよ。俺は足止め役だ」


「君ばかり大変な役を押しつけるのは申し訳ないよ」


「適材適所ってやつだ。俺は他人の足を引っ張るのが得意なんだ。任せろって」


「橘らしいけども……わかった。僕も僕で本番までになんとかするよ」


「おお。あーあの先輩相手はちょっと疲れるな……」


 あの人のことあまり知らねぇし。どうしよう。

 そんな心配をしているとあっという間に生徒会室についてしまった。


「お邪魔します」


 二回ノックしてから入室。すでに白雪さんを筆頭に生徒会のメンバーが仕事していた。さて、俺の仕事開始だ。


「白雪先輩。ちょっといいですか?」


 俺は一番奥の席に座って仕事している白雪先輩に声をかけた。彼女はプリントとノートパソコンを見比べている。


「なんだ?」


「お話……相談したいことがありまして」


「後ではダメなのか?」


「今すぐに」


「わかった」


 ここまでは順調。俺は顎をくいっと動かして高橋に合図を送った。

 俺の意図に気づいた高橋は清水さんと小声で話し合う。よし、後はこのパイセンを河村から離れさせれば成功だ。


 俺と白雪先輩はいつものゴミ捨て場近くの花壇についた。

 ここは人の行き来が少なく都合がいい。それに何かあってもすぐに校舎に避難できるのもいい。


「話とは何だ?」


「河村のことです」


「ほう」


 白雪先輩の目に力が入った。


「いや~俺たち反省したんですよ。ちょっと……あいつのことを理解していなかったな~って反省してたんすよ。これからは高橋と清水さんが河村を支えながらやっていくんで、先輩は俺とデートしませんか?」


「……まず言っておく」


「はい」


「私は受験生だということを忘れていないか?」


「あっ」


 肝心なことを忘れていた。この人年が明けたら受験だったんだ。


「忘れていたらしいな。ふふ。まあいい」


「あ、や……すんません」


「気にするな。私だってド忘れしてしまうこともある」


「意外ですね。てっきり完璧で究極的な先輩だと思ってましたけど」


「私はアイドルではない。神聖視されても困る」


「すんません」


 この人相手には冗談が通じない。俺のペースに持っていきたいが、先輩も先輩で独自のリズム感があるらしい。


「河村の件だが」


「わかってくれましたか?」


「いや。にわかに信じがたい」


「じゃあ、生徒会室覗いてみたらどうっすか?」


「なぜだ?」


「ちゃんと河村も一緒にやっているはずだから」


「やけに自信があるな」


「だって、本当のことですもん」


「……よかろう。覗きはあまりいい趣味とは言えないが……」


 俺と白雪さんは生徒会室前に戻り、ドアのガラス越しに中を覗いてみることにした。高橋と清水さんが河村に対してあれこれ注文をつけていたり、慌ただしく動いているのが確認できた。


 まあ、ほとんど河村のやらかしをあの二人が上手く処理して、そんで河村にガチガチに憶えてもらったセリフを持って保護者や公民館側に謝罪するはずだ。


 糸人形になってもらい河村を操作するのは高橋と清水さん。

 ま、二人の負担はとんでもねぇことになるが、白雪さんが独断であれこれ決めてやるよりはスムーズになるだろう。


 この短時間の間にすべて絵図を描いて実行に移せる高橋は流石だ。

 今後についてのスケジュールを俺にまで共有してくれたのはありがたい。


「どっすか?」


「……問題ないように見えるが」


「じゃあ、いいじゃないっすか。俺たちは彼らの邪魔をしないようにさっさと退散するのがいいっすよ」


「釈然としないが橘君の意見に同意せざるを得ないな」


「じゃ、帰りましょうか」


 俺と白雪先輩は生徒会室に置いたカバンを取り、それぞれ一言二言生徒会の面々らと話してお邪魔する。


「橘君。君の企みかもしれないが、私は遊んでいる余裕はない。デートの誘いはお断りさせてもらう」


「そんじゃ、学校の図書館に行きましょうよ」


「私は受験生だ。君に勉強を教えるほど暇――」


「白雪先輩の勉強の邪魔はしませんよ。俺ってこう見えて今年の夏から受験に向けて勉強しているんです。だけど、最近は自宅だと集中できなくて。一緒に勉強して、先輩から刺激を貰いたいんですよ」


 白雪先輩は感心したような表情を浮かべていた。

 そこまで驚きますかね。ただその場で取り繕った言い訳のようなものだが。


「……それでは断る理由が見つからない。君は口が上手いのか、屁理屈が上手いのか……」


「よく褒められるんですよ。照れますね」


「たわけが。私は褒めていない」


「あざっす。俺みたいな奴からするとそれでも十分誉め言葉なんで」


「君は全く……」

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