148.夜中のホラー映画。そしてトイレ②

 物語は中盤に入った。監獄を脱出したマーダーフェイスは十年前に殺し損ねた主人公のことをまだ憶えていた。マーダーフェイスはあの特徴的なメイクをし、あの街へ向かう。


 ある日の夜。とある若者の男女二人が夜中車に乗っていた。

 やけに距離が近い。あれだ。ホラー映画あるあるの例のカップルだ。


「あ、死ぬやつじゃん」


 長谷部はこれから起こる展開が予想できたらしい。奇遇だな。俺もだ。

 櫛引はビクビクしながら映画を視聴しているが、余裕がないのか俺と長谷部の会話に参加しない。


 カップルが街はずれのちょっとした気が生い茂った場所に止まり、案の定服を脱ぎ始めてわ~おな展開になる。なんかポロリしちゃってる。


「わ~えっち~。千隼ってこういうのでたっ――」


「たたねーよ。欲求不満の中学生じゃねーんだから」


「あーほんとだ~。つまんないの~」


 俺の股間を指で突くな。男のソコは敏感でもあるし弱点でもある。

 迂闊に触るんじゃねぇ。あといい加減膝枕やめてくれないか。足が痺れてやばいんだが。


 車内でいちゃつくカップル。この映画は家族で見るものでないが、それでもこういうシーンはちょっと恥ずかしい。定番なのはわかるけれども。

 そんで案の定、マーダーフェイスの登場でムードは一変。突如として現れた化け物にカップルはパニックに。そしてその剛腕と人間離れしたパワーによって無残にも殺されてしまう。


 これから起こる悲劇を暗示するかのように……。

 それからの展開はホラーの定番に沿ったもの。街の中に現れたマーダーフェイス。続々と障害となる人々をありとあらゆるパワーを使って殺害。


 このマーダーフェイスは他のホラーの殺人鬼とは違う、武器やそれに類ずるものは一切使用しない。己の肉体の身で殺していくのが面白い。


 人体を真っ二つに引き裂いたり、頭を握りつぶしたり。または二階から飛び降りてそのまま人間を潰してしまったり。とにかくやばい。


 マーダーフェイスは身長が二メートルオーバー。体重もおそら百五十以上あると思われるほどの体格と筋肉量。なによりもその恐ろしいまでの顔面。


 服装は何の小細工はいらねぇと言わんばかりに股間を隠す布のみ。

 どんな銃撃も爆発も車やトラックで追突されてもかすり傷程度しか負わない。


 果たしてどうやってこの化け物を倒すのか。

 物語は進み、マーダーフェイスは唯一殺せなかった主人公と再会。


 獲物をやっと見つけて恐ろしいまでに笑い、そして襲いかかる。

 主人公に唯一、心配し声をかけていたアフリカ系アメリカ人のシェフが機関銃を二丁持って立ち向かう。いやいやいや……あんたマーダーフェイス以上のバケモンかよ、というツッコミはナシだ。結構迫力あったからよし!


 細かいところを突っ込んでいたら映画は楽しめないしね!!!

 なぜ機関銃を? というツッコミもなしだ! いいね!


 マーダーフェイスは流石の機関銃二丁の銃撃は耐えられなかったのか、のそのそと後退して逃走。その間、主人公とシェフは一緒に街を脱出しようとするが、マーダーフェイスの脱出を知ったアメリカ大統領が街を封鎖するように命令。


 街はすでに州の軍隊によって封鎖されてしまい絶体絶命。

 逃げ場を失った二人は有志の仲間を集めてマーダーフェイス討伐に動き出すが、銃弾も何もかも効かない化け物相手に大苦戦。


 一人一人、確実に殺されていきもうダメだ……その時、政府がマーダーフェイスを止めるべく、街に空爆を仕掛けることになった。軍隊ではどうしようもない。苦渋の決断だ。という感じに。


「どうせ脱出するんでしょ」


「まあ。予想はしやすいよな」


 長谷部はこれ以降の展開が予想できたようだ。俺も同意見だ。


 主人公らはそのことを知らず。だが、スマホのニュースでそれを知り、街から脱出をしようとするが軍に阻まれる。


 このままでは死ぬ。と思ったら下水道はどうだということで舞台は下水道に。

 無事脱出ができる……わけなくマーダーフェイスが立ち塞がる。


 このマーダーフェイスはその人間離れした怪力で主人公たちの退路を断つ。

 デッドヒートが始まる。ま、どうせこのまま脱出……。できず。


 下水道は思ったよりも広く、そしてマーダーフェイスの妨害もあり脱出失敗。


 マーダーフェイスもろとも爆撃にあってしまい、主人公らは即死。

 街は爆撃のせいですべてを焼き払われてしまう。まだ生き残っていた人間やその他の生物が火の海に飲み込まれていく。


「お~! バッドエンド!」


「ホラーでバッドエンドはなくはないけど……」


「え? 終わった!? あの化け物死んだ!?!」


 灰となった街。それが映り、ゆっくりと画面が遠ざかっていくが一人の男が土の中から出てきたところでエンディング。


「ま、生きているよね~。こうやって続編が作られていって、次第に雑になるか展開がワンパターンになって飽きていくんだろうね~」


「そうか? 次は大都市で暴れまくるってのもいいんじゃないか?」


「どこの金曜日に暴れる殺人鬼? 次で終わりにしないと流石に飽きちゃうな~私。あっすーはどうだった? 面白かった?」


「え、あ、私は所々怖くて見てない……」


「だろうな。あの中盤くらいで退場するってあからさまに分かるキャラが四肢を抜き取られて死ぬシーンにゲロ吐きそうだったもんな」


「あれはダメだって! なにあれ!? ホラーってアレが普通なの!?!」


「うん普通♪」


「うぅ……映画観るんじゃなかった……トイレ行けないもん」


 櫛引は内股になったもじもじしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る