144.他人の部屋って気になるよね

 ホームランによる櫛引と長谷部のトラウマを蘇らせてしまった罰として、俺の自宅に彼女たちが来る羽目になってしまった。


 幸いなことに母は家にいない。

 茶化されることがなくなったのは精神衛生上Goodだ。


 とはいえ、こいつらの目的は俺の家にただくるだけじゃない。

 目的は俺の部屋。まあ、わかってはいたけれども。


「勝手に人ん家を荒らしたりするなよ。わかっていると思うが」


 二人はもちろん、と約束を破る気満々で言ってくるからたちが悪い。

 ひとまずはその言葉を信じて玄関を開錠して入っていく。


「お先に失礼するね~」


 長谷部はローファーを脱いで俺の部屋まで直行。櫛引も負けじと彼女の後を追って二階に行ってしまう。


「あいつら靴ぐらいちゃんとしろっつーの」


 脱ぎ捨てられたローファーを代わりに直し、俺は重い脚を動かして二階に上がる。

 自分の部屋に入ってすぐ、彼女たちを連れて来るんじゃなかった。ノーを貫き通しておけばよかったと後悔することになる。


「ほほう。エロ本は無さそうだねん」


「今時、紙で持っている人なんて珍しいでしょ」


「そかな~? 紙のほうがこう……エッチじゃん!」


「バっ!? そういうのは破廉恥だからやめなさいって! のあちーって本当にデリカシーがないんだから!」


「いいじゃんいいじゃん。私、エッチなこと好きだけどな~」


「……お前ら何してんだ?」


 まるで体が子どもになってしまった事件を解決しまくる某探偵のように、俺の部屋をくまなく操作している二人。二人の会話からして、年頃の男の子がエッチな本やデーブイデーを持っていないか探っているのだろう。


「あのな。お前らは俺をなんだと思ってんだよ」


「「むっつりスケベ」」


「おい!!!」


 ああもう!

 むっつりだのスケベだの。好きに言ってくれやがって。


「諦めろ、お前ら。期待するような代物は見つからない。残念ながらな」


 俺は適当にカバンを置いて言う。

 二人はつまらなそうに俺を見てブーブーと抗議する。


「うるさいな。あのな。今はデジタルの時代。俺が紙で所持しているとでも?」


「……それだぁっ!!!」


 長谷部が目を付けたのはPC。すぐさまPCを起動させるが、俺がそう易々と他人にマイPCを触らせるとでも?


 すぐにパスワードを入力せよとの画面が表示され、長谷部はあまりの悔しさに机を叩いた。


「なんてこと……これでは地球が崩壊してしまう!!」


「橘君のPCはきっと……超スケベな……エッチ!!! 極刑よ、極刑!!!」


「お前らな……俺のPC程度が地球が終わるけないっつーの。それに櫛引。お前は妄想しすぎだ」


 PCの前で頭を抱える二人を無視して俺は部屋の惨状にため息がついてしまう。


 本棚は何冊も抜かれベッドに山積みされ、クローゼットも開けられ服やその他諸々が散らばり、机の引き出しやそこらも泥棒のように手当たり次第手が付けられていた。


 俺の親が見たら泥棒が入られて今頃警察沙汰になっているだろう。

 つーか、片付けるの俺なんだからさ……ったくさ。


「くっ……誕生日ではパスワードが解除されないですって!?」


「当たり前だろ。今時、自分の生年月日をパスワードに接てしている人は少数。それにパスワードは教えない。そんなくだらねぇことしてないでとっとと後片付けをしろ。ジュースとお菓子持ってくるからそれまでにな」


「「え~!?」」


「えーじゃねーよ。他人の部屋を荒らしてそれっきりはやめれ。頼むから」


「「は~い」」


 お目当てのものを見つけられず落胆する二人。

 なんでそこまでエロにこだわりを持って、それもモチベーション高く維持していたのか理解できない。


 普通は嫌になるだろ。そんな本読んでるんだ……うわぁ……みたいな感じで。

 それとも単に俺をからかいたかったのか。ま、どうでもいい。


 俺は人数分のコップとオレンジジュース。それといくつか適当に見つけて持ってきたお菓子を持って部屋に戻る。


「見てよこれ~! 千隼ってこういうのが好きみたいよ~!」


「ちょっ、バカ!?! そ、そんな破廉恥なもの開かないでよね!?」


「え~!? そう言ってる割には目を隠している指が不自然に広がっちゃってるよ~? しっしっし。素直に見ればいいのに」


「はぁっ!? な、な、なによこれ!? 獣耳!?!」


「うわ~ちゃ~。千隼ってこういうコスプレしている子好きなのかな~?」


「極刑よ、極刑!! あいつが変な気を起こせないように去勢よ!!!」


 どこの補習部かな?


「……」


 おかしいな。俺はそんな生年月日や好きな人の名前をパスワードに設定した覚えがない。なぜ、この二人はセキュリティを突破したんだろうか。


 まさかこいつらが凄腕のハッカー?

 やばいやばい。それだと物語が変わっちゃうよ!


 本当にハック……あ、そうだった。俺はあることを忘れていた。

 他人にパスワードを解かれないようにあれこれ複雑にした結果、一つ間違えるとめんどくさいから付箋にパスワードを書いたものを机のところに張ったままだった。


 ああ……俺がひそかに保存しておいた秘蔵のファイルが暴かれている。

 もう終わりだ。俺は一生恥をさらして生きていくことに……。


「千隼。私たちがこういうコスプレしよっか?」


「えっち! 橘君のケダモノ! 去勢よ去勢!!!」


「あのな……」


 これから一生、これでいじられると思うと十歳くらい老けた気分になるのであった。

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