142.前会長、暴走

 ということで高橋を中心としてその周りに生徒会副会長を伴って、クリスマスに向けて再スタートすることになった。

 まずは保護者の方々にあのバカの失言の件の謝罪しに行くことに。

 幸いなことに保護者会の代表者に高橋が謝罪すると、あっという間に許してくれて見事に解決。


 つーか、やっぱり高橋という男がもたらすプラスな雰囲気を含めて、知らぬものからしたらいい方向には働くのだろう。この男。前世にとんでもない良いことをしたのかもしれない。


 そして次に公民館側に提出する書類もあっという間に完成。

 高橋と清水さんが優秀ということもあるが、やはり生徒会の面々が約一名を除いて優秀だったことが大きい。


 どんだけ足を引っ張っていたんだよ、と苦言を呈したくなるが河村は河村で静かにしてもらった方がこちらとしては好都合だ。


 書類は完成。後は細部に問題がないか俺が確認し、細々とした訂正や修正を高橋らに報告。最終チェックを終えるとすぐさま公民館側にメールを送信。


 向こうからのオーケーをもらえれば、日程を合わせて直接の話し合いが行われて、後は幼稚園側の先生たちとの打ち合わせが控えている。

 俺たちは一日も無駄にできない日が続くので、まだまだ油断すらできない。


 今日も放課後になったらすぐに生徒会室に直行。

 生徒会の人らと仕事を始めるが、今日もあの男は姿を見せていない。


「あのバカ。何やってんだよ」


 いくら仕事ができないとはいえ、河村は生徒会長で間違いない。

 ここにいないといけないやつがここ最近姿を見せていない。

 学校に登校していると聞いているのでサボっているのか、それとも逃げ出したのかわからないが。


「あの人のことは放っておきましょ。いても邪魔になるだけだから」


 清水さんは相変わらず河村に対して冷たい。


「まあまあ。きっと彼にも事情があるんだよ。きっとね」


「え、ええ。そうね」


 高橋が言うとな~んで目を輝かせるのかな?


「そういえば白雪さんも来なくなったね」


「そうね。先輩は受験が控えているし勉強で忙しいのかも」


「年が明けたらすぐだもんね」


 白雪先輩もあの日以来、生徒会室に姿を見せることはなかった。

 生徒会の人たちの意見を代弁して伝えたからわかってくれたのだろうと勝手に解釈している。


「高橋。ちょっとこれ確認してくれ」


「了解」


 ま、先輩が来ないんだったらそれでいい。俺たちはやるべきことをやるだけだ。

 俺たちは黙々と幼稚園側との打ち合わせに使うための資料を作っていると、ノックなしでドアが開けられ人が入ってきた。


 突然のことで俺たちはビックリ。誰だと顔を上げると、そこには怒った顔をしている白雪先輩が立っていた。


「ちょっといい?」


 どうやら全員に用があるらしいが機嫌が悪いということもあって、清水さん以下生徒会の面々は恐恐としている。


「あの子に何をしたの? 説明してくれる?」


 白雪先輩は個人名を出さなかったが誰のことは一目瞭然。清水さんの代わりに高橋が話す。


「彼にはできることをお願いしました。ただそれだけです」


「だとしたら河村を邪険に扱う必要がないと思うのだが?」


「邪険に扱ってません。僕らとしては河村君にできることをお任せしています」


「それは彼を無視すること? いじめと変わらないと思うけど私がおかしい?」


「いえ。白雪さんがおかしいということでもなくて……」


 あー……。

 なんだかこれまためんどくさくなりそうだ。

 河村が悪意を持って白雪先輩に吹き込んだのか。それとも彼女がうわさを聞きつけて暴走しているのか。


 白雪先輩は聡明でリーダーシップのある人物のはずが、現在は感情に振り回されて高橋らの話を聞くつもりがないようだ。これはまずい。非常にやばいということはわかった。


「先輩。俺たちは河村を仲間外れにしたり、追い出すようなことしていません。落ち着いてください。お願いですから」


「……あなたね。河村が排除される原因を作ったのは」


「え?」


「橘君。あなたは私に言った。邪魔だから、と。確かにあの時の私はみんなの仕事の進行を止めていたことは事実。生徒会室に行かないようにした。だけど、それから河村の様子がおかしくなってしまった」


「いや。関係ないです」


「関係ある! 河村は日に日に元気を無くしていき、私に愚痴やネガティブなことを口にするようになった。当初はクリスマスに向けてプレッシャーがかかっていると思っていた。が、実際は違った。橘を筆頭に河村を排除するように仕向けた。現に今、あなたたちだけでクリスマスパーティーの準備を進めている。生徒会。それも会長を抜きにして。これは客観的に見ていじめ。もしくはそれに近い行為のように思えてならない」


「……」


 やっぱりあいつのせいか。つーか、あのバカ。何言ったんだ?

 河村には一応、俺たちが作った書類や資料を見せてやって意見を求めたり、後は雑用をやらせたり。決して酷い扱いはしていない。つーか、あいつは気分屋だから無断で生徒会室を出て帰ってしまったり、俺たちが一仕事終えたタイミングで帰ってきたり。


 この人は事情を知らず、河村の視点のみで俺たちを糾弾している。

 それも感情的になってこちらの話を聞く気なし。そりゃあお手上げだわ。


「はぁ……先輩のお望みは?」


「今すぐ彼に謝罪しなさい。それと私も少なからず協力をするから、河村をリーダーとして再編してやっていこう」


「ちょっと待ってください! 白雪さん、意味がわかりません。なぜ、そこまであの人に執着するのです?」


 清水さんが我慢できず声を荒げて聞いた。


「河村は会長だ。会長が中心となって十年以上続くクリスマスパーティーをやらないといけない。例外があってはならない」


「ですけど!」


「清水。お前は勘違いしている。そもそも部外者の高橋君と橘君が中心となって進んでいることにおかしいと思わないのか? 生徒会でもないのに。その間違った認識、自己正当化をやめなさい」


「……」


「異論は……ないな。では、明日から私も参加する。それで問題ないか?」


 誰も声を発さず黙り込んでしまう。その沈黙は同意だとみなし、白雪先輩は頷いて生徒会室を後にしてしまった。

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